髪の健康相談室

がん治療で起こる体毛の変化と対処法

齊藤典充・横浜労災病院皮膚科部長
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 抗がん剤は、増殖が盛んな細胞に強く作用します。そのため、がん細胞以外の正常な細胞までその影響が及び、とくに細胞分裂が活発な骨髄や消化管の粘膜、皮膚や爪、毛髪に副作用が起きやすいと言われています。しかし、実際に起きる抗がん剤の副作用としては、毛髪以外のまつ毛や眉毛など全身の体毛まで抜けてしまいます。それはどうしてなのか。実は、まだ解明されていない脱毛の不思議がそこにあります。

 まつ毛を例に挙げてみましょう。まつ毛は、毛髪のように伸び続けることはありません。まつ毛と毛髪の毛周期は異なるからです。まつ毛の毛周期は成長期が短く、休止期が長いというサイクルになっていて、多くのまつ毛は成長が止まった「休止期毛」です。抗がん剤は増殖が盛んな細胞に強く作用するという説を前提にすると、休止期毛には影響が少ないはずで、残る毛の方が多いはずなのですが、実際には、ほとんどが抜けてしまいます。抗がん剤は、本当に細胞分裂が活発な細胞だけに作用するのか。そうでない細胞にまで影響し、傷つけているのではないか。そのあたりは、今も疑問となっているのです。

 前回、副作用による脱毛は個人差があるとお話ししましたが、その回復の仕方も人によって違い、再び生えてきた毛の状態に関しても依然、正確には解明されていない疑問があります。がんの患者さんからよく聞く毛髪の悩みとしては、「髪の毛の量が、4割または6割ほどしか戻らない」「髪質が変わった」「髪の毛が縮れる」「ぽろぽろと切れやすい」「前髪が伸びにくい」「白髪が増えた」などがあります。

 抗がん剤による脱毛は、科学的な研究がほとんど行われていません。そのため、これらの疑問については、現段階では推測で答えるしかないのですが、毛の構造から次のようなことが原因として考えられるのではないでしょうか。

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齊藤典充

横浜労災病院皮膚科部長

さいとう・のりみつ 1993年北里大学卒業、同大学皮膚科に入局。98~2000年米国カリフォルニア大学サンディエゴ校留学。国立横浜病院(現:国立病院機構横浜医療センター)皮膚科、北里大学皮膚科助手、講師、国立病院機構横浜医療センター皮膚科部長などを経て14年4月から現職。専門は脱毛症、血管炎、血行障害。日本皮膚科学会の脱毛症に関する診療ガイドラインの作成に携わるなど、長年、診療の第一線で脱毛治療・研究の分野をリードしている。