1月2、3日に行われた第93回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)の復路、10区を走っていた選手が、交差点でワゴン車にはねられそうになったというニュースがありました。この時は、選手がとっさの判断で、スピードを落とし、事故を回避しました。しかし、私たち一般人がマラソン大会中に同じようなアクシデントに遭った時、同じ対応ができるでしょうか? その答えは、多くの場合で否定的です。マラソン大会中は疲れていて、通常は他のことを考える余裕がありません。特に後半は疲れ切っています。今回のケースは、練習を積んだエリート選手だから対応できたのだと考えるべきでしょう。両者の違いは走っている時の脳の働きにあるのではないか、という見方があります。今回は、不測のアクシデントを避けることにも役立つ、走る時の脳の使い方について紹介してみましょう。

 実は「脳の働きの強い選手は速い」というデータがあります。2010年、カナダの研究者が一般人がランニングをした時の脳の酸素消費量を調べ、大きな話題になりました。続いてほぼ同じ方法でケニアの一流ランナーについても調べた結果が、14年に報告されました。研究の細かい条件は違いますが、どちらも近赤外分光法という脳表面の酸素状態を捉える方法で、脳の酸素レベルを測定しながら、被験者に自分のペースで5000mのタイムトライアルを走ってもらう、というものです。近赤外分光法では、血液中で酸素を運搬するヘモグロビンが酸素と結びついているかどうかを見極めることができます。

 二つの研究によると、一般の人の場合、酸素と結びついたヘモグロビン「オキシヘモグロビン(酸素化ヘモグロビン)」の量は、レース開始直後に、脳の酸素要求の増加にあわせて上昇するものの、その後横ばいになり、最後の1kmで減少してしまいます。

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奥井識仁

よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック院長

おくい・ひさひと 1999年東京大学大学院修了(医学博士)後、渡米し、ハーバード大学ブリガム&ウイメンズ病院にて、女性泌尿器科の手術を習得する。女性泌尿器科とは、英語でUrogynecology。“Uro”は泌尿器科、“Gynecology”は婦人科を意味し、“Urogynecology”で、両科の中間にあたる部門という意味がある。都内の複数の大学病院から専門領域の診療に関する相談を受けながら、「よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック」を運営し、年間約800件の日帰り手術を行っている。水泳、マラソン、トライアスロンなどのスポーツ、音楽(サックス演奏)が趣味で、さまざまなスポーツ大会にドクターとして参加している。著書に「人生を変える15分早歩き」「ドクター奥井と走るランニングのススメ」(いずれもベースボールマガジン社)など。