高齢者の“運転寿命”を考える【前編】
横浜市で昨年(2016年)10月下旬、80代の男性が運転していた軽トラックが登校中の小学生の列に突っ込み、小学1年の男児が死亡した事故などをきっかけに、高齢者の運転に関する議論が高まっている。17年3月には改正道交法が施行され、75歳以上のドライバーに対する認知機能検査が強化される。こうした中、高齢ドライバーに対し自主的な運転免許の返納を促す風潮が広がるが、返納後の移動手段の確保については、抜本的な対策が見えていないのが現状だ。
高齢者が安全に運転を続けることは可能なのか。その条件や訓練法などについて研究している国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)予防老年学研究部部長の島田裕之さんに、これまでの研究や今後の課題を聞いた。
認知症の疑いが強い人も運転している
島田さんらは2011~13年、愛知県内で65歳以上の高齢者約9100人を対象に、運転状況を調査した。運転をしている人は全体の63%で、男性の86%、女性の41%が現役ドライバーだった。一方、全員を対象に行った認知機能検査で軽度認知障害(MCI)と判定された人は、男性84%、女性37%で、運転している人とほぼ同数。さらに、認知症の簡易診断に用いるミニメンタルステート検査(MMSE)で20点以下の人の中で男性では58%、女性でも15%の高齢者が運転していた。「20点以下」は、認知症と診断されるレベルだ。認知症の疑いがかなり強い人も、日常的に運転をしているのが実態なのだ。
「運転は高齢者の生活の一部です。運転できなくなることによって、生活に支障をきたし、続いてさまざまな健康への悪影響が起こります。可能なら、運転を続けていただく価値はあると思っています」と島田さんは指摘する。そのうえで「ただ、それは『安全に運転できる』という前提があっての話。すでに認知症の疑いがかなり強いような方については、自主的に免許を返納していただくべきだと思います」と話す。
運転をやめると要介護のリスクが高まる
運転をやめることが健康にもたらす悪影響は、島田さんらが研究で明らかにしている。65歳以上の高齢者3556人(平均年齢71.5歳)を、▽運転を続けている人(運転継続群)▽もともと運転をしていない人(非運転群)▽運転をやめた人(運転中止群)--の3群に分け、2年間にわたり要介護の状態を追跡調査した。その結果、運転中止群は運転継続群より、要介護になるリスクが7.8倍高かったという。また別の研究では、運転をしている人は、もともと運転していない、または運転をやめた人と比べて、認知症の発症リスクが半減することが分かった。
なぜこんなにも差が出るのか。…
この記事は有料記事です。
残り1886文字(全文3006文字)
連載:医療プレミア特集
- 前の記事
- 指導者は最新のスポーツ医学の知識を
- 次の記事
- 認知症患者の“足”確保に必要な策