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医師が総合感冒薬を勧めない理由

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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知っているようで、ほとんど知らない風邪の秘密【14】

 過去のコラム「解熱鎮痛剤 安易に使うべからず」で、風邪をひいた時の解熱鎮痛剤の選択には、十分な注意が必要であることを述べました。今回は、その「姉妹編」として、風邪に対して、いわゆる「総合感冒薬」を勧められない理由を解説したいと思います。

 風邪(感冒)に総合感冒薬が勧められない、という見解は製薬会社に対してけんかを売っているようなものかもしれません。しかし私には、危険性や副作用のリスクが十分に理解されていないまま、販売されているのが現状ではないかと思えます。

インフルエンザ脳炎・脳症のリスク

 「勧められない」一つ目の理由は、先述のコラムにも書いている「インフルエンザ脳炎・脳症」を悪化させるリスクの存在です。サリチル酸系解熱剤をはじめとするいくつかの解熱剤は、まれではありますが、インフルエンザ脳炎・脳症を悪化させる可能性があります。このタイプの解熱剤は多くの総合感冒薬に使われています。薬局で総合感冒薬を購入する時「この薬に入っている解熱剤は、インフルエンザ脳症を悪化させるリスクがあります。あなたの風邪がインフルエンザでないなら、飲んでもかまいません」と薬剤師に言われたことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。ならば自分の身は自分で守るしかありません。頻度は少ないとはいえ、わざわざリスクのある薬を飲む必要はないのです。

強い眠気を呼ぶ旧世代の抗ヒスタミン薬を含有

 ニつ目の理由は、鼻水を抑えることを目的として加えられている「抗ヒスタミン薬」の副作用です。1950年代に市場に登場した抗ヒスタミン薬は、鼻水・鼻づまりやじんましんなどの皮膚のかゆみに極めて有効な薬剤であり、開発したイタリアのダニエル・ボベット氏はノーベル賞を受賞しています。それだけ画期的な薬ではあるのですが、欠点もあります。「眠気」です。

 最初に市場に登場した抗ヒスタミン薬を服用すると、多くの人が強い眠気を感じます。その後の抗ヒスタミン薬の改良の歴史は「いかに眠気をなくすか」に集約されるといっても過言ではありません。90年代より眠気の伴わない抗ヒスタミン薬が次々と開発され、現在は眠気がほぼ起こらないことから「乗り物を運転する時でも飲んでいい」とされるタイプのものも登場しています。

 では、その眠くならないタイプの抗ヒスタミン薬を総合感冒薬に加えればいいではないか、となるわけですが、総合感冒薬と呼ばれる薬に配合されている抗ヒスタミン薬はほぼすべて古いタイプのもの、すなわち眠くなるものなのです。実際、総合感冒薬の添付文書にはまず間違いなく「乗り物の運転をしないでください」といった記載があるはずです。なかには「自分は総合感冒薬を飲んでも眠くならない」という人もいるでしょう。しかし、古いタイプの抗ヒスタミン薬は「眠気を感じなくても作業効率が落ちる」という報告があります。仕事や勉強をしなければならない人は総合感冒薬を飲むべきでないのです。

尿が出にくくなり、動悸、依存性の危険も

 続いて三つ目の理由を挙げます。高齢者の場合、総合感冒薬を飲んで尿が出なくなることがしばしばあります。これは総合感冒薬の成分に「抗コリン作用」のある薬剤が含まれているからです。抗コリン作用のある薬剤は多数あり、先述した古いタイプの抗ヒスタミン薬にもこの作用があります。また、ヨウ化イソプロパミドという(抗ヒスタミン薬でない)鼻水を抑える作用のある薬剤にも抗コリン作用があり、市販のいくつかの総合感冒薬に含まれています。尿が出なくなれば、医療機関を受診し、尿道に管を入れてもらって排尿しなければなりません。また抗コリン作用によって眼圧上昇、口渇(口の渇き)、便秘などの症状も起こりえます。

 さらに「勧められない」理由を挙げていきましょう。適量なら過剰な心配はいりませんが、高齢者であれば鼻づまりを抑える目的で総合感冒薬に使われている「エフェドリン」も注意が必要です。動悸(どうき)や血圧上昇のリスクがあるからです。せき止めの成分として「コデイン(またはジヒドロコデイン)」が含まれていることがあります。これも適量であれば問題ありませんが、飲酒をすれば呼吸抑制が起こることがあります。また、エフェドリンもコデインも大量摂取すると中毒性・依存性があります。過去に嗜好性(しこうせい)を目的として(いわゆる“トリップ”することを期待して)大量にこれらを摂取する若者が社会問題になったこともありました。

 ここまで、特に強調したいものを五つ挙げましたが、総合感冒薬には他にも多数の副作用があります。重症の薬疹が起きることもありますし、成分として含まれる鎮痛剤は、使いすぎると依存症を起こす問題があります。そもそも総合感冒薬はさまざまな薬を寄せ集めたものですから、それだけ副作用の数も多いと考えるべきです。

医療機関でもらう感冒薬も同じ

 ここでよくある「誤解」に答えておきましょう。総合感冒薬は市販のものは良くないが、医療機関で処方されるものなら安全と考えている人がいます。これは完全に誤解です。医療機関で処方される感冒薬、たとえば「PL顆粒(かりゅう)」や「ピーエイ錠」も、市販の総合感冒薬とそれほど大きな違いはありません。実際、これらの感冒薬のせいで「眠くなった」「尿が出なくなった」という訴えはよくあります。

 このようにみてみると、総合感冒薬は欠点だらけのように思えてきます。では総合感冒薬は「飲んではいけない」のでしょうか。前回も紹介した世界中の医師の共通の教科書である「UpToDate」には、「軽症の風邪ならほとんどの患者は治療不要」と書かれています。私自身も軽症の感冒症状なら一切薬を飲みませんし、総合感冒薬に関してはもう20年以上飲んでいません。「飲んではいけない」とまでは言いませんが、私は自分の患者さんに「総合感冒薬を積極的に飲んでください」と言ったことは一度もありません。

 では、軽症でない場合にはどうすればいいのでしょうか。重症であれば医療機関を受診することになりますが、軽症と呼ぶには症状が強くてつらい、しかし医療機関受診まではいらない(もしくは時間がなくて受診できない)という場合にはどうすればいいのでしょうか。なんとか市販薬で対処する方法はないのでしょうか。

 次回述べたいと思います。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。