実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

医師が総合感冒薬を勧めない理由

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 過去のコラム「解熱鎮痛剤 安易に使うべからず」で、風邪をひいた時の解熱鎮痛剤の選択には、十分な注意が必要であることを述べました。今回は、その「姉妹編」として、風邪に対して、いわゆる「総合感冒薬」を勧められない理由を解説したいと思います。

 風邪(感冒)に総合感冒薬が勧められない、という見解は製薬会社に対してけんかを売っているようなものかもしれません。しかし私には、危険性や副作用のリスクが十分に理解されていないまま、販売されているのが現状ではないかと思えます。

 「勧められない」一つ目の理由は、先述のコラムにも書いている「インフルエンザ脳炎・脳症」を悪化させるリスクの存在です。サリチル酸系解熱剤をはじめとするいくつかの解熱剤は、まれではありますが、インフルエンザ脳炎・脳症を悪化させる可能性があります。このタイプの解熱剤は多くの総合感冒薬に使われています。薬局で総合感冒薬を購入する時「この薬に入っている解熱剤は、インフルエンザ脳症を悪化させるリスクがあります。あなたの風邪がインフルエンザでないなら、飲んでもかまいません」と薬剤師に言われたことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。ならば自分の身は自分で守るしかありません。頻度は少ないとはいえ、わざわざリスクのある薬を飲む必要はないのです。

 ニつ目の理由は、鼻水を抑えることを目的として加えられている「抗ヒスタミン薬」の副作用です。1950年代に市場に登場した抗ヒスタミン薬は、鼻水・鼻づまりやじんましんなどの皮膚のかゆみに極めて有効な薬剤であり、開発したイタリアのダニエル・ボベット氏はノーベル賞を受賞しています。それだけ画期的な薬ではあるのですが、欠点もあります。「眠気」です。

 最初に市場に登場した抗ヒスタミン薬を服用すると、多くの人が強い眠気を感じます。その後の抗ヒスタミン薬の改良の歴史は「いかに眠気をなくすか」に集約されるといっても過言ではありません。90年代より眠気の伴わない抗ヒスタミン薬が次々と開発され、現在は眠気がほぼ起こらないことから「乗り物を運転する時でも飲んでいい」とされるタイプのものも登場しています。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト