実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

医師が勧める風邪のセルフケア6カ条

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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知っているようで、ほとんど知らない風邪の秘密【15】

 高頻度に眠気が起こること、高齢者であれば尿が出なくなる副作用のリスクが小さくないこと、まれとはいえインフルエンザ脳炎・脳症のリスクがあることなどから、総合感冒薬は飲むべきではないケースが多い、という話を前回のこの連載で紹介しました。そして、そもそも風邪は、軽症なら薬は一切使わずに休養を取るのが最善の治療であるという話をしました。

 風邪に対してこれまで私が述べてきたことをもう一度振り返ると、うがいは水道水が最善でヨードうがい薬は不要(「うがいの“常識”ウソ・ホント」の回参照、以下同じ)、手洗いに抗菌せっけんは不要(「手洗いの“常識”ウソ・ホント」)、総合感冒薬は不要(「医師が総合感冒薬を勧めない理由」)、鎮痛薬は注意が必要(「解熱鎮痛剤 安易に使うべからず」)、インフルエンザの検査は不要なことが多い(「医師がインフルエンザの検査を勧めない理由」)、抗菌薬が必要な場合はわずか(「抗菌薬が引き起こす危険な副作用と、『キス病』」「あなたは恐ろしい「耐性菌」を生み出していませんか?」など)--と「〇〇は不要」「〇〇は使わないように!」という内容ばかりです。

初期の風邪には漢方薬を上手に使う

 では、薬は一切使うべきでないのかと問われれば、そういうわけではなく、風邪の初期には葛根湯や麻黄湯といった漢方薬が極めて有効です。これについては以前述べたので(「私が風邪をひいたときは--予防と治療の総まとめ」)、ポイントだけを簡単に振り返っておきます。

 一般に、漢方薬の選択は簡単ではなく、じっくりと話を聞き、脈をとり、おなかを触り、舌を診ます。詳しい説明は省きますが漢方では「証」というものが重要になります。患者のAさんとBさんが同じ症状であっても、用いる漢方薬は異なることがありますし、逆にAさんBさんがまったく異なる症状で受診したとしても処方される漢方薬は同じという場合もあります。ですから「〇〇の症状には◇◇という漢方薬が有効」とは一概には言えません。

 しかしながら、風邪の初期であれば葛根湯・麻黄湯は多くの場合有効です(注)。麻黄湯はインフルエンザにもよく効きます。一方、風邪が長引いたときの、せき、鼻水、咽頭痛などに対しては、有効とされる漢方薬はいくつかありますが、処方の前に東洋医学的な診察をしっかりとおこなうことが不可欠になります。

 何があってもまずは漢方薬を使いたいという患者さんもいますから、そういう場合は、初期以外の感冒症状にも漢方薬を処方することは私自身もあります。しかし、多くの場合(私の場合)、風邪に伴う諸症状に対しては漢方薬とは異なるアプローチをおこないます。

長引く鼻水・鼻づまりはアレルギー性鼻炎の併発かも

 風邪をひいたときに困るひとつの症状として「鼻水・鼻づまり」があります。前回述べたように総合感冒薬に含まれる抗ヒスタミン薬はこれらに有効ですが眠くなるという欠点があります。ですから、寝る前だけ総合感冒薬を飲むというのは一つの方法です。また、仕事や学校を休める場合は、終日安静にして決められた用量の総合感冒薬を飲むのはOKです。

 鼻水・鼻づまりが長引いた場合はどうすればいいでしょうか。そのような例では、風邪をきっかけにアレルギー性鼻炎が発症した可能性があります。子供の頃にぜんそくやアトピー性皮膚炎があった、春先だけ花粉症の症状がでる、といったアレルギーのエピソードのある人に起こりやすいのですが、そういったものがなくても、風邪で鼻粘膜が敏感になっているところにハウスダストが反応して鼻水が長引く、ということはよくあります。この場合、眠くならないタイプの抗ヒスタミン薬の処方が考慮されることになります。

睡眠妨げる夜のせき、元気になっても止まらないせきは要注意

 次に「せき」について考えてみましょう。せきは日中に出ても困りますが、夜間にせきがひどくて眠れないということは何としても避けたいものです。十分な睡眠が取れなければ免疫能がさらに低下してしまいます。この場合、せきを止める効果をうたった総合感冒薬を寝る前に飲むことを試してもいいでしょう。同時に抗ヒスタミン薬の副作用の眠気のおかげで、せきが静まってすぐに眠れるかもしれません。

 問題は市販の総合感冒薬ではせきが止まらない場合です。この場合は比較的元気であったとしても医療機関を受診した方がいいでしょう。特にせきで眠れないという人は早めの受診を検討すべきです。

 実は最近、このような症例が増えてきています。「感冒後咳嗽(がいそう)」といって、発熱や咽頭痛といった風邪の症状は消失しているのにもかかわらずせきだけが残るケースです。また、「せきぜんそく」という言葉も一般的になってきました。これは通常の気管支ぜんそくとは異なり、普段は無症状なのに風邪やアレルゲン(花粉やダニなど)が原因でアレルギー的なメカニズムを介してせきが出る状態のことです。これらのケースでは通常のせき止めがほとんど効かず、気管支ぜんそくと同じような治療が必要になる場合もあります。

風邪のセルフケア 重要6項目

 最後に風邪のセルフケアについてまとめておきます。

・最も大切なのは予防! うがいは水道水で。手洗いは普通のせっけんで。

・インフルエンザのワクチンは誰もが接種すべきだ。(「インフルエンザワクチンは必要?不要?」参照)

・風邪の初期なら原因の病原体にかかわらず葛根湯や麻黄湯が有効。

・軽症なら一切薬を用いずに休養をとること。

・総合感冒薬には多くの副作用がある。高頻度に起こるのは眠気。

・もちろん重症化すればかかりつけ医を速やかに受診することが必要(抗菌薬が必要なケースは少数。長引く鼻水、長引くせきなどには別のアプローチが必要なことがある)。

   ×   ×   ×

注:葛根湯も麻黄湯も教科書的には「証」が「実証」の人に用いることになっています。しかし、実際には「実証」でない人(=「虚証」の人)でも効果が認められることがありますし、医療機関ならともかく、薬局で「実証」か否かを診てもらうことはできませんから、「証」を気にせずに試して悪くはないと思います(ただし副作用には注意が必要です)。なお実証と対になる「虚証」の人でも風邪の初期に使える漢方薬もあります。私の診察では「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」をしばしば処方しています。

谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト