実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

やせ型腸内細菌を死なせる? 抗菌薬の罪

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 抗菌薬を摂取した家畜が太るなら、人が摂取しても太ると常識的には考えられます。しかしこれを証明するには、実際に人に抗菌薬を投与して体重増加が起こるかどうかを観察しなければなりません。「実験」には対象者も必要です。つまり、同じような年齢・体格の人を集めて、一方には抗菌薬を投与し、もう一方には与えず(正確に言えばプラセボ<偽薬>を投与して)長期間にわたり比較しなければなりません。もちろんこのようなことは人道的にできるはずがありません。ですが、ここ数年のさまざまな研究から、抗菌薬と肥満、また肥満と腸内細菌に関する多くのことが分かってきています。今回はそれらを紹介したいと思います。

 まず基本的な事実を確認しておきましょう。我々が抗菌薬を内服するのはターゲットの細菌をやっつけるためです。時には咽頭(いんとう)の細菌に、時には化膿(かのう)した傷口に存在する細菌に、またある時には腟(ちつ)内や尿道に生息する細菌が標的です。ですが、どのような目的で抗菌薬を飲んだとしても、最初に作用するのは腸内にいる細菌です。つまり、我々が抗菌薬を飲めば、必ず腸内細菌が影響を受けるのです。

 抗菌薬を飲んで結果として体重増加が起こるなら、その前に腸内細菌のバランスが内服前後で変わるはずです。そして、やせている人と太っている人では腸内細菌のバランスが異なることが次第に明らかになってきています。ということは、元々やせ型の腸内細菌を持っていたとしても抗菌薬を内服することによって、やせ型の腸内細菌が死んでしまって、肥満型の細菌だけが生き残り、その結果太ってしまうという可能性がでてきます。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト