前回に続き、アンデスの雲霧林で出合った薬用植物を紹介しよう。「樹海」とも呼ぶアンデスの斜面に広がる原生の雲霧林には、日本人になじみのある南米原産の野菜や果物がまだまだある。早朝から樹海に入り、樹高が20m以上もある大木の森に引き込まれるように歩みを進めた。すると、巨木に太陽光が遮られるせいか、だんだん森の中が薄暗くなってきた。何かを発見したのか、案内人のセニョール・ペドロが振り返った。

 「この実が何だかわかりますか?」とペドロがクイズを出してきた。ラグビーボール形の実が、幹から直接生えている姿は実にユニークだ。「これはカカオの実ですね!」と答えると、ペドロは「そうです。では、カカオの原産はどこだか知っていますか?」と続けた。「アフリカのイメージが強いけれど、アマゾン源流を旅したときに、カカオに出合ったことがあります」。そう答えると、「そう、アマゾン流域です! カカオの成長には熱帯雨林特有の高温多湿な環境が必要なのです」。ペドロは、これも南米原産なのだと言わんばかりに誇らしげに力説した。さらに、「カカオ豆からは何ができるか知っていますか?」と聞いてきた。簡単な質問だったので即座に「チョコラテ(スペイン語のチョコレートの意味)です」と答えると、ペドロはチョコラテを思い浮かべたのか「チョコラテはおいしいですよね」と笑顔を見せた。

 カカオと健康の関係について、南米の人はどうとらえてきたのかを知りたくて、問いかけてみた。「日本ではここ数年、カカオの成分が健康によいとされて、見直されています。南米の古代の人たちは薬として使っていたのでしょうか?」。ペドロは「昔から先住民たちは滋養のために飲んでいたようです。たしかに森での仕事で疲れたあとにチョコラテを飲むと、疲れがとれて元気になりますね」と教えてくれた。

 調べてみると、カカオの原産地は南米のアマゾン川上流とオリノコ川上流域。そこから紀元前にはすでに、カカオはアンデスや中米にまで広まっていたといわれている。最初は人間も動物も、実の中のカカオ豆のまわりについている白く甘酸っぱい果肉「カカオパルプ」を食べていた。人間はさらに、カカオパルプをお酒にも加工していたという。紀元前1100年代に作られたカカオ酒を入れるつぼが、ホンジュラスで発見されている。生の…

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鷺森ゆう子

エスノ・メディカル・ハーバリスト(民族薬用植物研究家)

さぎもり・ゆうこ 神奈川県生まれ。動物専門学校看護科卒。日本大学英文学科卒。1994年より動物病院で獣医助手として勤務する。同時に海や川の環境保全を行う環境NGOに携わり、海洋環境保全に関するイベントの運営などを行う。また中米のベリーズを訪れ、古代マヤ人の知恵を生かしたナチュラルメディスンに触れ、自然の薬に、より関心を持つようになる。このような体験を会報誌へ執筆する。95年から1年間、東アフリカのケニアにて動物孤児院や、マサイ族の村でツェツェフライコントロールプロジェクトのボランティアに参加する。このときサバンナでは、マサイ族直伝のハーブティーなどを体験する。帰国後は再び環境NGOなどに関わりながら、国内での環境教育レクチャーや、中米グァテマラの動物孤児院にてボランティア活動を行うなど、野生生物と人との共生について探求する。2006年から野生生物の生きる環境や、世界の自然医療の現場を巡る。

藤原幸一

生物ジャーナリスト/NATURE's PLANET代表

ふじわら・こういち 秋田県生まれ。日本とオーストラリアの大学・大学院で生物学を学ぶ。現在は、世界中の野生生物の生態や環境問題、さらに各地域の伝統医学に視点をおいて取材を続けている。ガラパゴス自然保護基金(GCFJ)代表。学習院女子大学・特別総合科目「環境問題」講師。日本テレビ「天才!志村どうぶつ園」監修や「動物惑星」ナビゲーター、「世界一受けたい授業」生物先生。NHK「視点論点」「アーカイブス」、TBS「情熱大陸」、テレビ朝日「素敵な宇宙船地球号」などに出演。著書は「きせきのお花畑」(アリス館)、「森の声がきこえますか」(PHP研究所)、「マダガスカルがこわれる」(第29回厚生労働省児童福祉文化財、ポプラ社)、「ヒートアイランドの虫たち」(第47回夏休みの本、あかね書房)、「ちいさな鳥の地球たび」(第45回夏休みの本)、「ガラパゴスに木を植える」(第26回読書感想画中央コンクール指定図書、岩崎書店)、「オーストラリアの花100」(共著、CCCメディアハウス)、「環境破壊図鑑」(ポプラ社)など多数。