体内時計の研究をしていると、よく介護の仕事をされている方からこんな意見を頂きます。

 「施設に入居している認知症患者さんが、昼夜逆転して夜間に徘徊(はいかい)するので介護が大変です。これは体内時計がおかしくなっているのでしょうか?」

 答えは、「イエス」です。

 認知症患者の約半数を占めるアルツハイマー病と、体内時計の関係については、いくつか報告があります。これまでに明らかになった研究成果の一部を紹介していきましょう。

 認知症の一つであるアルツハイマー病は、高齢になるほど発症率が高くなります。認知機能の低下とともに日常生活に支障が生じるため、介護の必要性が出てきます。患者数は、医療の進歩による寿命延長による高齢化で、年々増加しています。しかし現状、根本的な治療法は見つかっておらず、症状の緩和を目的とした薬を服用する治療法が一般的です。

 発症の原因は、脳内の神経細胞が変性し脱落することですが、記憶障害、判断力の低下、感情や人格の変化などといった軽度の認知機能低下症状が表れた時には、既に多くの神経細胞が変性しており、治療が困難である場合が多いと言われています(図)。よって、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使って、失われた神経細胞を元に戻す再生医療が唯一の根本的な治療法と言えるのかもしれませんが、それはまだまだ基礎研究の段階です。

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柴田重信

早稲田大学教授

しばた・しげのぶ 1953年生まれ。九州大学薬学部卒業、薬学研究科博士修了。九州大学助手・助教授、早稲田大学人間科学部教授などを経て、2003年より早稲田大学理工学術院教授。薬学博士。日本時間生物学会理事、時間栄養科学研究会代表。時間軸の健康科学によって健康寿命を延ばす研究に取り組む。専門は時間栄養学、時間運動学とその双方の相乗効果を健康に活かす商品・プログラム開発。田原助教との共著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法-時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康-」(杏林書院)。

田原優

カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教

たはら・ゆう 1985年生まれ。早稲田大学理工学部、同大学大学院先進理工学専攻卒業。博士(理学)。早稲田大学助手を経て、2015年より早稲田大学高等研究所助教、17年1月よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部助教。07年より、柴田重信教授と共に、時間栄養学研究の確立に取り組んできた。また、発光イメージングによるマウス体内時計測定、ストレスによる体内時計調節などの成果も発表している。常にヒトへの応用を意識しながら、最先端の基礎研究を行っている。柴田教授との共著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法-時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康-」(杏林書院)。