実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

膀胱炎治療にサプリや漢方がNGの理由

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 膀胱(ぼうこう)炎を発症したなら、早い段階で医療機関を受診し、グラム染色で細菌の種類と炎症の程度から(細菌性)膀胱炎であることを確認し、適切な抗菌薬を選択すれば大半のケースで1回きりの受診で治ります。また、難治性であったとしても、培養検査をおこなえば治療に難渋することはそう多くありません。

 ですが、できることなら医療機関を受診せずに済ませたいものです。つまり、日ごろから予防をしっかりおこなうことが大切です。今回は私が日々患者さんに伝えている細菌性膀胱炎に対する三つの予防法について解説し、さらにサプリメントや薬局の薬を推薦できない理由を説明したいと思います。

細菌性膀胱炎 三つの予防法

 一つ目に、まず何といっても重要なのは「十分な水分摂取」と「適切な頻度の排尿」です。女性の場合、解剖学的に皮膚や粘膜に存在する細菌が尿道に入りやすい構造にありますから、定期的に排尿をして細菌を洗い流す必要があります。特に若い女性のなかに、トイレに行くのがイヤだから水分摂取を控えるという人がいます。また、むくみの予防に水分摂取を控えているという人もいます。しかし、このようなことを続けると膀胱炎のリスクが跳ね上がります。

 「むくみ」については本題から外れるので多くは述べませんが、一言だけ触れておくと、原因を突き止め、改善するために治療を受けたり、日常生活を見直したりする必要があります。太融寺町谷口医院の患者さんのなかにも、むくみの治療をおこなうと膀胱炎を起こさなくなったという人が少なからずいます。

 むくみをとるのに最もよく使われるのが利尿薬です。個人輸入などで簡単に手に入るようですが、利尿剤には副作用も多く、医師の処方によらずに入手するのは危険です。あるネット上のサイトには「有名モデルの〇〇〇も使用しているむくみどめ。安くて安心」といったうたい文句が書かれていましたが、信じると危険なことになります。

 適切な排尿のためには、利尿薬を使わなくてもコーヒーや紅茶、ウーロン茶、ジャスミン茶、日本茶(煎茶、抹茶、ほうじ茶)にも利尿作用はあります。ですから、こういった飲み物を朝、昼、夕方に積極的に摂取するようにすれば、膀胱炎の予防になります。ただし、夕食後は飲まない方が無難です。夜中にトイレで目覚めることになりかねません。

 では、適切な水分摂取と排尿ができているかについて、どのように確認すればいいのでしょうか。それは「尿の色」を見ればいいのです。濃い黄色は水分が足りていない証拠です。理想は透明にうっすらと黄色がかった色です(ただし、薬やビタミン剤を飲んでいる場合は、水分が足りていても濃い黄色になることがあり指標として使えません)。

 膀胱炎の二つ目の予防としてお勧めしたいのは、お尻を拭くときのポジショニングを「後ろから」にすることです。これは医学の教科書に書いていないことで、患者さんとの対話から分かったことであり、私の「印象」に過ぎないかもしれませんが、膀胱炎を繰り返している女性の何割かはこのポジショニングを「前から(内もも側から手を入れる)」から「後ろから(体側からお尻に手を回す)」にすると起こさないようになります。おそらく、前から拭いたときに、お尻の皮膚についている細菌を尿道に近づけてしまうのでしょう。また、これはよく言われていることですが、拭く方向(ストローク)は「前から後ろへ」です。長年の習慣を変えるのは思いのほか大変ですが、膀胱炎発症のリスクを下げることができるのであれば試みるべきだと思います。

 三つ目の予防策は「性交渉の後すみやかに排尿する」です。患者さんのなかには膀胱炎のきっかけが性交渉という人が少なからずいます。パートナーの体に付着している細菌が性行為により尿道に入ってしまうのでしょう。愛を交わしたその直後にトイレに立つのは味気ないかもしれませんが、これをするのとしないのとでは膀胱炎発症のリスクが大きく異なります。なお、これは男性の尿道炎予防にも言えることです。男性のなかに、性行為のあとに雑菌性の尿道炎を起こす人がいますが、この「性交後直ちに排尿」を実践すればリスクを下げられます。

「サプリメントで予防」にエビデンスなし

 次にお伝えしたいのは、サプリメントや薬局の薬に頼るべきではない、ということです。「膀胱炎のサプリメント」といえばクランベリーが有名です。その理由として、細菌が膀胱壁に付着するのを防ぐことができる、と言われています。しかし、これを検証した研究からは有意差をもって有効との結果は出ておらず、現時点ではクランベリーが膀胱炎を予防する「エビデンス(根拠)」はありません(注)。もっとも、エビデンスがすべてではありませんから、私自身は「クランベリーを飲みだしてから膀胱炎を起こさなくなりました」という患者さんには、「よかったですね。ではそのまま飲み続けましょうか」と話しています。

 ですが、「膀胱炎予防にクランベリーを飲もうと思うんですけど……」と相談された場合は、エビデンスがないことを説明し、むしろ飲むならコーヒーや紅茶ですよ、という話をします。なお「クランベリーが膀胱炎に有効」とする考えはあくまでも「予防」に関してであり「治療」には無効であることに注意が必要です。

漢方薬では治療できない

 そして、もうひとつ世間に強く訴えたいのが「薬局で売られている漢方薬を細菌性膀胱炎の治療に使わないで!」ということです。

 漢方薬のなかに「膀胱炎に効く」とされているものがあります。ですが、これは高齢者によくみられる非感染性の慢性の膀胱炎症状に対して有効であるだけで、細菌を死滅させる効果はありません。ですが、世間では「(細菌性)膀胱炎の治療に使える」と思っている人が少なくなく、ひどい場合は薬局で勧められたというケースさえあります。また、いかにも膀胱炎によく効くような商品名のものもあります。

 こうした漢方薬は「排尿を促すことによって細菌を洗い流す」「炎症を抑えて治療する」などと説明されています。しかし、細菌性膀胱炎を発症しある程度重症化すると、いくら適切に排尿してもほとんど効果はありませんし、炎症を抑えることができたとしても原因菌を排除しない限り根本的な解決にはなりません。また、自然治癒もあまり期待できません。治すには一刻も早く抗菌薬を使用することが必要です。治療が遅れれば、重症化して腎盂(じんう)腎炎を起こすこともあるからです。効かない漢方薬をダラダラと飲み続けた揚げ句、抗菌薬による治療開始が遅れた、では目も当てられません。

 一般に感染症に対しては漢方薬に頼るべきではありません。私はどちらかというと日ごろの診療で漢方薬をよく処方します。この連載でも、風邪の初期治療には「麻黄湯」や「葛根湯」を積極的に使いましょう、と述べました(参考:「私が風邪をひいたときは--予防と治療の総まとめ」)。私自身も自分が風邪をひきそうになったときはこれら漢方薬に頼ります。ですが、細菌性膀胱炎に関しては「まずは漢方薬で……」などと悠長なことは言っていられません。

 私は、このことは薬局の店員にも強く主張したいと思っています。「あなたの目の前の患者さんにその漢方薬を販売することにより、治療が遅れて重症化する可能性があることをお忘れなく!」と。

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注:エビデンスを日本語で読むことができる「コクラン」にも取り上げられています。下記URLを参照ください。

http://www.cochrane.org/ja/CD001321/niao-lu-gan-ran-zheng-yu-fang-niokerukuranberi

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト