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逮捕されても制御不能の衝動…セックス依存

林公一・精神科医
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絵=画家・絵師 OZ-尾頭-山口佳祐(http://oz-te.com)
絵=画家・絵師 OZ-尾頭-山口佳祐(http://oz-te.com)

「やめられない」の先にある破滅 依存症【3】

 自分がセックス依存ではないかと悩む26歳独身女性のお話です。

奔放な女性の性行動は依存か?

 幼少期から家族関係も良好、幸せな家庭で育ちました。今は仕事も友人関係も楽しくやっており、人から見たらなんの問題もない、むしろ成功している人間だと思います。ところが、私はもしかしたらセックス依存と呼ばれるものではないかと心配になっております。性欲は子どもの頃から人一倍強かったと思います。小学校にあがる前の幼少期より、自覚なく自慰行為をしていました。小学生のとき、どうしても人に体を触ってほしかったので、男子に頼むのはよくないと思い女友達と裸でいちゃいちゃしていました(女性には興味はないです。最中は目を閉じて男性のことを考えていました)。

 それでも同時に私はいわゆる優等生で、18歳で彼氏ができるまでは実際の性行為はしたことがありませんでした。それから今までに20人以上の男性と性行為をしています。

 大人になった今、問題だと感じるのは次のような点です。

・少しでもタイプの男性がいると、すぐに性的なことを考えてしまいます。女性の場合は好きになってからそのような気持ちになることが多いようですが、私はむしろ逆です。

・自分としては好きになった人と性行為をするのですが、1回すると気が済んでしまい、もはや相手への興味がなくなってしまいます。普通、女性は逆だそうで、知人に話したら男性みたいだと言われました。

・セックスのコンディションに異常にこだわりがあります。例えば「酔った勢いで」というのは絶対に嫌です。

 こうして書いてみると、我ながら異常だと感じますが、セックス以外の点については、自他ともに認めるしっかりした人間なのです。現在、私が好意を持っている男性が数人います。でも、してしまったらもうどうでもよくなってしまうのが目に見えていますので、「たいして好きじゃないけどタイプ」の人にそのことを告げたうえで行為をし、した後は案の定どうでもよくなり連絡すら返す気が失せ、申し訳なく思っています。こんな私ですが、世間体はちゃんと考えており、また、人並みには正義感も持っていますので、人から後ろ指をさされるような性行為はしていないのですが、私の性癖の全貌を人に知られたら驚がくされると思います。

「行動への依存」の特徴は

 依存症と呼ばれる病気は2種類に分けられます。一つはアルコール依存や薬物依存など「物質への依存」です。それに対してネット依存、ギャンブル依存、そしてセックス依存は「行動への依存」です。どちらも「やめられなくなる」ことのほかに、症状に多くの共通点があります。この女性は確かに、少なくとも現代の日本の一般常識からは逸脱しているかもしれませんが、依存症と診断するうえで最も重要なポイントの、「コントロール喪失」は認められません。ご自分の特性を理解し、生活に支障が出ないように性行動をコントロールしています。また、依存症に共通する特徴である「離脱症状」(シリーズ第1回「ゲームでスマホで…人ごとではないネット依存」参照)もありませんし、仕事や人間関係を大切にするというように優先順位もつけられているからです。

 したがって、この女性はセックス依存とは言えません。言えるのは「性に奔放である」ということまでです。

 それに対して、次の30歳男性は、セックス依存です。

幼少時からのぞき、痴漢を繰り返し…

 僕は普通の幸せな家庭で育ちました。でも性についての興味は人一倍強く、幼稚園のときは先生のロッカー室に忍び込んでストッキングを触ったりしていました。小学校のときは、ばれないように女の子のスカートの中をよくのぞきこんでいました。電車やテーマパークの人混みでは、必ず女性に体を密着させ、時には手で体を触るといった痴漢行為を、小学校から大学までしていました。でも(こんな言い方は不謹慎だとよくわかっていますが)、なにしろ幼少のときから経験を積んで巧妙にやっていましたので、決してばれることはありませんでした。

 就職し、仕事や友人関係はごく普通でしたが、スマホを手にしてからは盗撮も常習的にするようになりました。痴漢行為はエスカレートし、ついに駅で捕まってしまったのですが、そのときは目撃者もいなかったので放免になりました。さすがにこのまま続けてはまずいと思ったのですが、痴漢も盗撮もやめられず、下着泥棒までするようになり、何回目かのときに逮捕されてしまいました。警察でスマホの写真も調べられ、大量の盗撮画像も見つかってしまいました。そして処罰を受けたのですが、その後もまもなく痴漢・盗撮を再開してしまいました。絶対にやめなければと思うのですが、どうしてもやめられないのです。下着泥棒はさすがに控えていますが、またやりたいという気持ちが抑えられなくなりそうです。

「ばれたら全てが崩壊」分かっていてもやめられない

 最初の女性のケースと比べれば、違いは明らかです。この男性にはコントロール喪失が見られます。社会的に大きな支障も出ています。依存症の定義を満たすということになります。

 有名人、聖職者、政治家など、社会的地位があり、もしばれればそれまで積み上げてきたものが崩壊することはわかっているのに、不適切な性行為を繰り返すケースがあることは、メディアでも時々報道されています。彼らは、やめられないのです。まずいと認識するだけの十分な知能もあるのにやめられないのです。この男性もそうです。こうなると依存症ということになりますが、犯罪の範疇(はんちゅう)に入る行為をしているのですから当然に非難の対象となります。「症状」が他人にとって迷惑となるとき、そして犯罪になるとき、何を病気とするかという難しい問題が発生します。

<「やめられない」の先にある破滅 依存症1「ネット依存」、2「ギャンブル依存」はこちら>

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林公一

精神科医

はやし・きみかず 精神科医、医学博士。著書に「統合失調症という事実」「擬態うつ病/新型うつ病」「名作マンガで精神医学」「虚言癖、嘘つきは病気か」など。ウェブサイト「Dr.林のこころと脳の相談室」は、読者からの質問に林医師が事実を回答するもので、明るい事実・暗い事実・希望の持てる事実・希望の持てない事実を問わず、直截に回答するスタイルを、約20年にわたり継続中。