
映画「時をかける少女」(1983年)
だれでも、ある記憶がなくなったり、混乱したりするときがある。それは、健康な状態で起こることもあるし、病的な場合もある。
意識がなくなるような状態を除けば、病的に記憶が混乱する一つ目の疾患は、せん妄である。身体的な問題が脳の機能に影響し、昔のことと現在が混同されてしまったりする。幻覚や妄想が出ることもある。だれにも起こり得る一時的な精神症状で、通常は短期間で回復する。高齢者に多いが若者にもあり、入院中はより生じやすい。
二つ目の疾患は認知症で、高齢者に多い。多くの認知症は発症原因がわかっていないが、脳細胞が変性、脱落していく病気のため、失われた記憶は回復しない。
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上田諭
東京医療学院大学教授
うえだ・さとし 京都府生まれ。関西学院大学社会学部では福祉専攻で精神医学のゼミで学ぶ。卒後、朝日新聞に記者で入社したが、途中から内勤の編集部門に移され「うつうつとした」日々。「人生このままでは終われない」と、もともと胸にくすぶっていた医学への志向から1990年、9年勤めた新聞社を退社し北海道大学医学部に入学(一般入試による選抜)。96年に卒業、東京医科歯科大学精神神経科の研修医に。以後、都立の高齢者専門病院を中心に勤務し、「適切でない高齢者医療」の現状を目の当たりにする。2007年、高齢者のうつ病治療に欠かせない電気けいれん療法の手法を学ぶため、米国デューク大学メディカルセンターで研修し修了。同年から日本医科大学(東京都文京区)精神神経科助教、11年から講師、17年4月より東京医療学院大学保健医療学部教授。北辰病院(埼玉県越谷市)では、「高齢者専門外来」を行っている。著書に、「治さなくてよい認知症」(日本評論社、2014)、「不幸な認知症 幸せな認知症」(マガジンハウス、2014)、訳書に「精神病性うつ病―病態の見立てと治療」(星和書店、2013)、「パルス波ECTハンドブック」(医学書院、2012)など。
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