実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

MMRV ワクチン接種回数の考え方にある日米の大差

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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理解してから接種する--「ワクチン」の本当の意味と効果【29】

 最近私自身が悩んでいる感染症対策のひとつが「MMRVのワクチンは何回うてばいいのか」という問題です。MMRVは、麻疹(measles)、おたふく風邪(mumps)、風疹(rubella)、水ぼうそう(varicella)の四つ。2017年10月にこの連載に掲載した「おたふく風邪のワクチンは何回うてばいいのか」で述べたように、ワクチンを2回接種したのに抗体が形成されていない人が少しずつ増えてきています。

CDCが3回接種を推奨

 そのコラムでは、医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された論文に「おたふく風邪のワクチンは3回接種が必要」と述べられていることを紹介しました。この論文が発表されたのは17年9月7日、本連載でそれを取り上げたのが10月15日です。そして、その10日後の10月25日、米疾病対策センター(CDC)が「MMRワクチンの3回目接種をおこなうべきだ」という見解を発表しました(注)。

 日本のメディアはほとんど取り上げていませんが、私自身はCDCがこのような発表をしたことは非常に大きな意味を持つと考えています。それは、日本との差があまりにも大きいからです。話を進める前に、米国と日本のMMRVワクチン接種回数に関する現時点での考え方の違いを確認しておきましょう。

 日本が米国と同じなのは水ぼうそうのみということになります。ただし、日本で水ぼうそうワクチンが定期接種になったのは14年10月からで、現在3歳以上の小児及び成人は一度も接種していない人が多いはずです。

 他の三つについてみていきます。役所はいつも仕事が遅い……とまでは言いませんが、感染症に対しては「自分の身は自分で守る」が原則であり厚生労働省に頼りっぱなしではいけません。厚労省の基準ではなく、医療界のものを参照しましょう。下記は、先述のおたふく風邪ワクチンを論じたコラムでも紹介した日本環境感染学会のMMRVワクチン接種のフローチャートです。このフローチャートは「医療関係者のための」ものとされており、いわば最も“厳しい”ガイドラインです。

日本では厳しいガイドラインでも2回接種でOK

 この最も厳しいものでさえ、MMRVの各ワクチンは「2回接種をしていれば抗体検査もしなくてOK」とされています。しかし、冒頭で述べたように、私自身がみている患者さんのなかにこれらワクチンを2回接種していても抗体が形成されていないことがあります。先述の「New England Journal of Medicine」の論文によれば、ワクチンを2回接種した学生1000人あたり14.5人もおたふく風邪に罹患(りかん)していました。

 一方、日本ではおたふく風邪は3回接種どころか定期接種にすらなっていません。これは、国としては「うちたい人だけうてば? 副反応が起こっても定期接種のような補償はありませんが」と言っているようなものです。ワクチンは「理解してから接種する」が原則であることを私はこの連載で言い続けています。ですから「理解してから接種しない」という選択肢はあるべきです。ですが、先述のコラムに詳しく書いたように、おたふく風邪に罹患すれば高率で難聴が後遺症として残ることや妊娠中に感染すれば流産を起こしやすいということは知っておかねばなりません。17年9月には日本耳鼻咽喉科学会が記者会見を開きワクチンの重要性を訴えましたが、現在のところ定期接種に入るという話は聞きません。ということは、自分の身は自分で守るしかありません。

 ここで、過去の連載(「本当に『大丈夫』?渡航前ワクチンの選び方」)でも紹介した、私が日々感じている“違和感”について述べたいと思います。太融寺町谷口医院は若い患者さんが多く、海外にビジネスや観光、留学、ボランティアなどで渡航する人たちが少なくありません。感染症に対しても関心があり、A型肝炎、狂犬病、日本脳炎などについてはよく問い合わせを受けます。しかしMMRVに対する関心が高くないのです。

 海外渡航で最も注意しなければならない感染症はA型肝炎でも狂犬病でもなくMMRVと認識すべきです。なぜならA型肝炎は食べ物に気を付けていれば防げますし、狂犬病は動物の咬傷(こうしょう)などに注意しアクシデントがあってからでも速やかなワクチン接種で防げますが、MMRVは日常生活上のごく些細(ささい)な出来事で感染するからです。CDCがワクチン3回接種を推奨したことを報じたCNNは、おたふく風邪が、せき、くしゃみ、キス、共用の家庭用品(utensils)やリップスティックの共用、1本のたばこを一緒に吸う--ことなどで感染することを指摘しています。

 また、麻疹と水ぼうそうは空気感染しますから、人が集まるところ、例えば空港を利用するだけで感染のリスクが生じます。16年夏に関西から広まった麻疹は、同年7月に関西国際空港を利用した中国人が発端だったと言われています。上記渡航前ワクチンのコラムでは、ジャカルタで麻疹に感染し後遺症を残した30代男性の話を紹介しました。この男性は会社の方針でA型肝炎、B型肝炎、日本脳炎の3種のワクチンだけをうっていたそうです。

MMRVの「知識」を確認し接種を考えよう

 「命を救う5分の知識」がこの連載のタイトルです。ここでMMRVの「知識」を確認しておきましょう。下記はそれぞれの「症状と重症性」です。

麻疹:小児・成人とも重症化し後遺症を残すこともある。妊婦に感染しても奇形はないとされているが、胎児、時には母親も助からないことがある。また、幼児期に感染後、学童期になってから「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」という、進行性で致死的な中枢神経疾患を起こすこともある(参照:「SSPE 恐ろしい『はしかのような』病から学ぶこと」)。

風疹:小児・成人とも重症化はまれだが、妊婦に感染すると新生児に先天性風疹症候群が生じることがある。

おたふく風邪:小児期の感染は難聴のリスク。成人では精巣炎や卵巣炎のリスク。妊娠中に感染すると流産のリスク。

水ぼうそう:小児・成人とも健康体であれば重症化は少ないが見た目の後遺症が残ることがある(参照:「感染症は治っても…水ぼうそうがもたらす『あばた』の苦悩」)

 MMRVのうち特効薬があるのは水ぼうそうだけです(ただし妊娠中の使用は危険性が伴います)。ですが、これら四つの感染症にはワクチンがあります。ワクチンを「理解してから接種する」か「しない」か、接種するなら何回接種すべきかについて、まずはあなた自身で考え、そしてかかりつけ医に相談することを勧めたいと思います。

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注:CNNが報道しています。http://edition.cnn.com/2017/10/25/health/cdc-mumps-outbreak-syracuse-university/

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。