口から考える命と心と病

「虫歯の犯人は乳酸菌」の冤罪を晴らした研究

落合邦康・日本大学特任教授
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 多くの人は虫歯になった経験があるでしょうから、その不快さは知っていますよね。ずっと昔から、人はどうすれば不快な虫歯にならなくて済むのかを知りたがっていました。そして、多くの研究者が虫歯の原因を突き止めようと研究を続けてきました。その成果によって、今では虫歯の原因が分かっており、予防方法も明らかになっています。私も虫歯の研究に携わってきた研究者の一人です。今回は虫歯の研究がどのように進展してきたのかをお話ししたいと思います。

 現在の研究の基礎になっているのは、主に乳酸菌(乳酸桿菌<かんきん>)が作り出す酸が歯を溶かすという「化学細菌説」です。この説は19世紀末に提唱され、是非を巡っては、その後半世紀以上にわたって議論が続けられました。そして1960年ごろ、米国の研究者らが、細菌やウイルスの全くいない環境で育てた「無菌動物」を使った実験で、虫歯が細菌によって起こることを証明したのです。

 ただし、虫歯の原因菌は乳酸菌ではありません。しかし、本当の原因菌が分かるまでには、さらに多くの時間を必要としました。ですから、日本でも「乳酸菌が虫歯の原因」という説が広まり、大問題になったことがあります。

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落合邦康

日本大学特任教授

おちあい・くにやす 1973年、日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)獣医学科卒業。73年に日本大学松戸歯科大学(現・松戸歯学部)で副手(研究助手)となり、口腔(こうくう)細菌の研究を始める。75年に松戸歯学部助手に就任し、78~80年は米国University of Alabama at Birminghamへ留学。82年に歯学博士号を取得した。87年に松戸歯学部講師、2000~05年に明海大歯学部教授、05~15年に日本大学歯学部教授を歴任。15年4月から日本大学歯学部特任教授。エイズやインフルエンザ、アルツハイマー病と歯周病菌の関係、口腔細菌と腸内細菌の関係など、独創的でありながら人々に身近な研究で注目されてきた。著書(監修、共著)に「腸内細菌・口腔細菌と全身疾患」(シーエムシー出版)や「口腔微生物学―感染と免疫―」(学建書院)など。