実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

食中毒の原因カンピロバクターが子犬から感染

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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知っていますか? 意外に多い動物からうつる病気【4】

 カンピロバクターといえば細菌性食中毒を代表する細菌であり、すでに過去の連載(「鶏の生食が危険な二つの理由」)で紹介しました。そのときに述べたカンピロバクターの特徴は次の二つ。鶏のタタキや刺し身から感染することが多いということ、もうひとつは薬剤耐性菌が増えてきているということです。

米国のペットショップチェーンから集団感染

 そのカンピロバクターが犬からヒトに感染することがある、というのが今回のポイントです。2017年9月11日、米疾病対策センター(CDC)は、特定のペットショップチェーンの従業員やそのチェーンのペットショップで子犬(puppy)を買った人たち合計39人がカンピロバクターに感染し発症したことを発表し、米国の各メディアが一斉に報道しました。(参考:https://www.washingtonpost.com/news/animalia/wp/2017/09/11/pet-store-puppies-linked-to-bacterial-outbreak-among-people-in-7-states-cdc-says/

 問題のペットショップチェーンは「ペットランド(Petland)」という名前で、全米に80の店舗をもっています。オハイオ州、フロリダ州、カンザス州など合計7州で感染者がみつかり、死亡者はいないものの39人のうち9人は入院したことが報じられました。感染源は「犬のフン」です。

犬に生肉を食べさせることの危険

 CDCによると、米国では年間約130万人のカンピロバクター感染者のうち食べ物からの感染は3分の2のみで、残りは動物のフンなど他のことが原因です。日本ではカンピロバクターが犬から感染したという報告はほとんどありませんが、米国がこのような状態であるなら、近いうちに日本でも問題となるかもしれません。なぜなら、米国で生まれた犬は日本にも輸入されているからです。農林水産省によると、15年の犬の輸入は合計6343匹。そのうち米国からは全体の3分の1以上に相当する2317匹です。

 また、もちろん米国以外の国からも、カンピロバクターを腸内に有している犬が日本に輸入される可能性はあるでしょうし、日本国内でも報告されていないだけで感染している犬はきっといるはずです。ドッグフードのみを食べている限りはあまりリスクが高くないと思いますが、一部の犬愛好家はあえて生肉を与えています。ネットで調べてみると、「犬は本来生肉を食べる動物」「生肉を食べさせた方が元気になる」といった理由で積極的に生肉を食べさせている人もいるようです。

 たしかに、野生の犬は生肉を食べていますから、飼い犬に元気になってほしいと考える飼い主の気持ちは分かります。ですが、カンピロバクターを含む食中毒のリスクが飼い犬・飼い主共にあるということは知っておくべきでしょう。

多剤耐性菌を多数検出

 さらに、米国のペットショップチェーンで生じた一種の集団感染にはある「重要な問題」が伴っています。CDCは18年1月30日、最終報告書を公表しました。

 まず、9月以降も報告が相次ぎ、一連の感染者は最終的に合計17の州で113人、入院した人は23人に上っています。感染者が発症したのは16年6月17日から18年1月7日です。今回の集団感染が問題なのは特定のペットショップチェーンの犬の管理体制に不備があったということですが、医学的にそれよりも重要なのは、多剤耐性のカンピロバクターが多数検出された、ということです。

 過去のコラム(「鶏の生食が危険な二つの理由」)で紹介した、世界保健機関(WHO)が指定する「最も重要な薬剤耐性菌12種」の一つにもなっているのが「ニューキノロン耐性カンピロバクター」です。今回の集団感染でも、シプロフロキサシンというニューキノロン系抗菌薬に耐性があるカンピロバクターが見つかりました。また、カンピロバクターに対する切り札として使われるマクロライド系抗菌薬にも耐性があることが分かりました。特にアジスロマイシン(先発品の商品名はジスロマック)という、さまざまな場面でよく使われる抗菌薬にも耐性が見つかったことは、今後の治療に影響を与えることになります。さらに他の種類の抗菌薬への耐性もみつかっています。こうした、多数の抗菌薬に耐性をもつ菌の出現は、これからも止まらないでしょう。

 もしも飼い犬が下痢をしていれば直ちに獣医師を受診する必要があります。まずは、原因を突き止め、カンピロバクターによるものなら効果のある抗菌薬を投与することになります。この連載を継続して読まれている方にはもうお分かりだと思いますが、間違っても抗菌薬をインターネットなどで入手してはいけません。抗菌薬の選択は専門家でなければできないと考えてください。

犬を飼う時の注意点

 CDCは今回の集団感染を受けて、犬を飼っている人、これから飼おうと思っている人に対して助言しています。ここではそれをまとめたものを紹介しておきます。

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 犬に触れたり、食事を与えたり、体を拭いてあげたりした後は必ずせっけんを使って手洗いをしてください。手元にせっけんがないときは、その場で携帯用の消毒液を用いて手指をきれいにし、その後できるだけ早くせっけんを使った手洗いをしましょう。飼い犬を拭くときは使い捨ての手袋を用いてその後手洗いをしてください。尿、フン、嘔吐(おうと)物の掃除は速やかにおこない、汚染された場所は消毒も必要です。あなたの口や顔、傷やあれている皮膚をなめさせてはいけません。そして定期的に獣医を受診しましょう。

 新しい犬を飼ったときは数日以内に獣医師を受診してください。また、飼い犬を選ぶときは活発で元気な犬にしましょう。元気がない、食欲がない、下痢をしている、呼吸が荒いといった症状がまったくなく健康そうにみえても、病原体を持っていて人や他のペットが感染する可能性はあります。飼い始めてすぐに病気になったり死んでしまったりした場合はできるだけ早く獣医師に連れて行くとともに、ペットショップ、ブリーダー、その他関連施設に連絡しましょう。その犬が触れた箇所を消毒しなければなりません。犬が死んだ場合は、次のペットを飼うまでに少なくとも2~3週間は空けてください。

   ◇  ◇  ◇

 ペットショップでの購入ではなく、他人からもらったり、捨て犬を拾ったりして犬を飼い始める場合もあるでしょう。そういうとき、元気な犬よりも弱っている犬やけがをしている犬に愛着を持ってしまうという人もいると思います。そういう犬こそ、しっかり抱きしめてあげたくなりますが、犬からヒトにうつる感染症のリスクも覚えておかなければなりません。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。