感染リスクもあるが犬を飼うと長生きの利点も?!

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知っていますか? 意外に多い動物からうつる病気【6】

 過去5回にわたり、動物からうつる感染症について犬を中心に紹介してきました。犬からの感染症は多数あり、たとえ飼い犬であったとしても接しすぎてはいけないということを繰り返し述べてきました。

 ですが、危険性ばかりが強調されすぎるのも問題です。そもそも犬は大昔から人間と共存してきました。牧羊犬のような明らかに人間にとって実利がある例を持ち出すまでもなく、多くの人が(私も含めて)あの愛らしい姿に癒やされてきたはずです。

 ですが、繰り返し述べているように感染症を中心とするリスクがあるのも事実ですし、ときには取り返しのつかないことも起こります。ですから「正しい知識」を持ち、上手に付き合っていかねばなりません。感染症は知識で防ぐことができるのです。今回は、犬から感染しうる感染症をあと二つだけ紹介し、後半では犬と過ごすことにより得られる健康上の利点について述べていきます。

フンに“そうめん”が混じっていたら…

 私が子供の頃、実家の近くには野良犬がたくさんいました。そのなかで、足をひきずりながら歩くやせ細った黒い子犬がいて、私はよく残した給食のパンなどをやっていました。その子犬のフンにはなぜかいつも“そうめん”が混じっていました。もちろんそうめんなら消化されて便に混じることはありませんから本物のそうめんであるはずがないのですが、当時の私にそんなことがわかるはずもありません。ある日突然いなくなったその子犬に対し、しばらくの間センチメンタルな気持ちを抱き続けていたのですが、いつの間にか思い出すこともなくなっていました。

 20年後、医学部のある講義でその子犬のことを突然思い出しました。あの“そうめん”が回虫だったことに気付いたからです。現在の日本では回虫を見ることはほとんどありませんが、私が小学生だった1970年代当時は珍しくありませんでした。現在は野良犬も含めて日本の犬が回虫に感染していることはほとんどありませんし、よほどのことがない限りその回虫がヒトに感染することはありませんから心配は不要です。ただし、もしも飼い犬の便に「白くて細長いもの」を見つけた場合は直ちに獣医に相談しなければなりません。

 もうひとつ、これも現在の日本にはそれほど多くはありませんが「犬疥癬(かいせん)」という、ダニが引き起こす皮膚疾患があります。このダニが犬に寄生すると犬の皮膚の下に卵を産み付け、どんどん仲間を増やしかゆみが増していきます。そして、ヒトにもかゆみをもたらします。ただ、ヒトに対しては皮膚を刺すことはできても皮下にすみ着くことは(通常は)できません。ですから、治療はそう難しくありません。かゆみは激烈ですが適度な強さのステロイド外用薬で比較的簡単に治るのです。これはヒト疥癬との大きな違いです。ただし犬に対して犬疥癬の治療をおこなわなければ同じことを繰り返しますから、犬がかゆそうにしている場合は獣医に連れて行かねばなりません。

 ヒト疥癬といえば、過去の連載(「〈番外編〉疥癬--ノーベル賞・大村智先生、もう一つの功績」)で、ノーベル賞を受賞された大村智先生が画期的な薬を開発されたことを紹介しました。犬疥癬の原因となるダニが犬の皮下に寄生するのと同様、ヒトの疥癬ではヒトの皮下にすみ着き卵を産んで仲間を増やします。ヒトの疥癬の治療にステロイド外用薬を使うと余計に悪くなってしまうのです。

心血管系疾患や死亡リスク低減も

 さて、これまで主に犬を中心にペットからうつる感染症を紹介してきました。これ以外にもこういった感染症はまだまだありますし、特に猫からの感染に注意しなければならない疾患については次回から紹介していきます。また、ペットを飼うときに起こるトラブルとしては、実際には感染症よりもアレルギーの方が多いので、動物アレルギーについても(感染症から脱線しますが)機会があればお話ししたいと思います。注意点ばかりを述べるのはペットに失礼かもしれませんので、このあたりで犬を飼うことの利点を医学的な観点から述べたいと思います。

 動物療法(動物介在療法、ペット療法、アニマルセラピーなどとも呼ばれる)が心身の健康に良いことが指摘されています。エビデンス(科学的確証)が十分ではなく、すべての医療者が推薦しているわけではありませんが、私の経験からいっても、犬を飼いだしてから笑顔が戻った引きこもりの若者や、パートナーをなくしてふさぎ込んでいたところ犬と一緒に暮らしだして元気になった高齢者などを何人か知っていますから、「犬を飼おうと思っているんですけど……」と相談されたときは、積極的に推奨するようにしています。

 「犬を飼うと長生きする。単身者は特に」という研究結果(注)が発表されました。研究の対象は約340万のスウェーデン人です。犬を飼育していると、死亡リスクは家族のいる人で11%低下、単身者だと33%低下していることが分かりました。心血管系疾患の死亡リスクでみると、家族のいる人で15%、単身者は36%も低下しています。

 この研究では犬の種類ごとの検討もおこなわれています(表)。

 興味深いことに、猟犬タイプ(ポインター=表では「ポインティングドッグ」=、レトリバー、ハウンドなど)は心血管系疾患のリスクも全死亡のリスクも低くなっている一方で、雑種やトイドッグはさほどリスク低下が認められません。特に雑種は、心血管系疾患のリスクが逆に13%増加しています(全死亡のリスクは2%の低下)。

 このデータに従って、飼うのであれば雑種でなく猟犬を、となるかもしれません。しかし、品種ではなく一緒にいたいと思えるタイプの犬がいいのではないか、というのが私の個人的な考えです。一緒にいる時間が長くなれば精神的にも安定し、散歩に行く時間も増えますから身体的にも健康になるのではないでしょうか。犬の種類ではなく、犬とどれだけ一緒にいるか、あるいは犬をどれだけ愛しているかで統計を取り直すと違った結果になるのではないか、と私は考えています。

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注:科学誌「Scientific Reports」2017年11月17日号(オンライン版)に掲載されています。研究の対象はスウェーデンのデータベースに登録されている合計343万2153人(男性が48%、中間年齢57歳)。犬を飼っているのは全体の13.1%で調査期間は12年間です。

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