前回は、口腔(こうくう)内に生息する細菌について、また1日5食の生活を送るスペイン人のダイエット事情について紹介しました。さて今回は、体内に生息する腸内細菌が私たちの体内時計にもたらす恩恵について、最新の研究結果と共に説明していきたいと思います。今回の話で腸内細菌とともに重要な役割を果たすのが食物繊維です。便通や消化を改善するだけではなく、善玉菌の増加、さらには体内時計のリセットにも効果を発揮します。

 食物繊維とは、ヒトが消化できない食物成分のことを総称していいます。食物繊維にも種類があり、特に水に溶けない「不溶性の食物繊維」と、水に溶ける「水溶性の食物繊維」に分けることができます。セルロースなどの不溶性の食物繊維は、腸内で水分を吸収し、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促進させることで便通の改善をもたらします。一方で、水溶性食物繊維は、粘性があることから食べ物の消化を遅らせ、食後の急激な血糖値の上昇を抑えます。また、腸内細菌により発酵されて「短鎖脂肪酸」に生まれ変わり、体内にさまざまな利益をもたらします(後述)。例えば水溶性食物繊維の一つ、難消化性デキストリンは、特定保健用食品(トクホ)の「関与成分」とされています。食後の血糖値上昇抑制、肥満予防、便秘予防などの効果があり、飲料や食品に広く使われています。

 前述のように食物繊維はヒトの体内の酵素では消化できませんが、一部は腸内細菌によって発酵、分解されます。それによって生成される酢酸、酪酸、プロピオン酸などは「短鎖脂肪酸」という脂質を構成する重要な成分で、腸管粘膜の栄養・エネルギーになるだけではなく、免疫、代謝など多くの生理機能に良い効果をもたらします。

 この中でも特に、酪酸は「制御性T細胞」という免疫細胞に作用し、大腸炎などの炎症性腸疾患を抑制することが分かっています。また、プロピオン酸は交感神経を活性化し、エネルギー代謝を上げることで抗肥満効果をもたらします。さらに短鎖脂肪酸は、腸内の特定の細胞と結びつくことで「GLP-1」というホルモンの分泌を促します。GLP-1は、膵臓(すいぞう)の細胞に働きかけ、血糖値を下げるインスリンの分泌を手助けす…

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柴田重信

早稲田大学教授

しばた・しげのぶ 1953年生まれ。九州大学薬学部卒業、薬学研究科博士修了。九州大学助手・助教授、早稲田大学人間科学部教授などを経て、2003年より早稲田大学理工学術院教授。薬学博士。日本時間生物学会理事、時間栄養科学研究会代表。時間軸の健康科学によって健康寿命を延ばす研究に取り組む。専門は時間栄養学、時間運動学とその双方の相乗効果を健康に活かす商品・プログラム開発。田原助教との共著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法-時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康-」(杏林書院)。

田原優

カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教

たはら・ゆう 1985年生まれ。早稲田大学理工学部、同大学大学院先進理工学専攻卒業。博士(理学)。早稲田大学助手を経て、2015年より早稲田大学高等研究所助教、17年1月よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部助教。07年より、柴田重信教授と共に、時間栄養学研究の確立に取り組んできた。また、発光イメージングによるマウス体内時計測定、ストレスによる体内時計調節などの成果も発表している。常にヒトへの応用を意識しながら、最先端の基礎研究を行っている。柴田教授との共著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法-時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康-」(杏林書院)。