医をめぐる情景

「午後の遺言状」新藤兼人監督が描いた“老い”

上田諭・東京医療学院大学教授
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主演の杉村春子さん(左)と、新藤兼人監督の妻で共演の乙羽信子さん(右)
主演の杉村春子さん(左)と、新藤兼人監督の妻で共演の乙羽信子さん(右)

 久しぶりに会った親友が認知症になっていて、あなたのことがわからなくなっていたら、あなたはどうするだろう。昔ともに過ごした2人の時間を一生懸命に話しても、心が通じあわなければ、悲しみは余計深まるかもしれない。さらに、親友の連れ合いが、悲壮な決意を秘めて最後の「お別れ」の気持ちをもって、親友を連れてきたとしたら--。

 映画「午後の遺言状」(新藤兼人監督)の主人公は、避暑地の別荘にいる女優の蓉子。ある日、親友の登美江が久しぶりに蓉子を訪ねて来た。しかし、登美江は蓉子の顔を見ても誰だかわからない。感激の対面から一転、驚き嘆く蓉子。それでも数日間過ごすうちに、かつて築地小劇場の舞台に一緒に立ったことを、登美江は断片的に思い出す。「蓉子ちゃん」と名前も呼ぶようになった。

 5年ほど前から登美江には認知症の兆候が表れ、だんだん進んだ。能役者だった夫は、介護に専念するために仕事をやめた。最近、登美江が急に「蓉子に会いたい」と言ったので、連れてきたのだという。

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上田諭

東京医療学院大学教授

うえだ・さとし 京都府生まれ。関西学院大学社会学部では福祉専攻で精神医学のゼミで学ぶ。卒後、朝日新聞に記者で入社したが、途中から内勤の編集部門に移され「うつうつとした」日々。「人生このままでは終われない」と、もともと胸にくすぶっていた医学への志向から1990年、9年勤めた新聞社を退社し北海道大学医学部に入学(一般入試による選抜)。96年に卒業、東京医科歯科大学精神神経科の研修医に。以後、都立の高齢者専門病院を中心に勤務し、「適切でない高齢者医療」の現状を目の当たりにする。2007年、高齢者のうつ病治療に欠かせない電気けいれん療法の手法を学ぶため、米国デューク大学メディカルセンターで研修し修了。同年から日本医科大学(東京都文京区)精神神経科助教、11年から講師、17年4月より東京医療学院大学保健医療学部教授。北辰病院(埼玉県越谷市)では、「高齢者専門外来」を行っている。著書に、「治さなくてよい認知症」(日本評論社、2014)、「不幸な認知症 幸せな認知症」(マガジンハウス、2014)、訳書に「精神病性うつ病―病態の見立てと治療」(星和書店、2013)、「パルス波ECTハンドブック」(医学書院、2012)など。