実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

ペットアレルギーでも猫と暮らしたいならば…

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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知っていますか? 意外に多い動物からうつる病気【番外編】

 本シリーズではペットを中心に動物から感染する可能性のある感染症について紹介してきました。原因不明の発熱やリンパ節腫脹(しゅちょう)などを診察したときには、ペットの飼育や動物と接触したエピソードを尋ねる理由についても繰り返し述べてきました。一方、患者さんの方から、「動物からの感染でしょうか」と尋ねられることもありますし、トキソプラズマについては、「妊娠したんですけど大丈夫でしょうか」と質問を受けることもよくあります。ですが、患者さんからの動物に関する相談で感染症よりもずっと頻度が高いのは「アレルギー」です。そこで、今回は「番外編」としてペットアレルギーにどう付き合うか、を取り上げたいと思います。

【症例】50代女性

 --特に大きな病気はない。3カ月前から原因不明のせきが続き、次第に悪化。1カ月前から息苦しさを自覚するようになった。近くのクリニックを受診すると猫が原因ではないかと言われ、血液検査をすると猫に対するIgE抗体価が高く、猫と別れるように言われた。「それはできません」と答えると、「とにかく猫と離れて暮らすほかはない」と突き放されてしまい、医師との関係が悪化し太融寺町谷口医院を受診。

 実は、こういう症例がけっこう多くあります。犬やウサギが原因のこともありますが、息苦しくなったりぜんそく発作が出たりと重症化するのは猫が最も多いといえます。この症例も含めて、「猫は5年前から飼っているんです。猫が原因であるはずがありません」などというのが患者さんの言い分です。

アレルギーは突然やってくる

 患者さんの気持ちはよく分かります。しかし、このケースは前にかかっていたクリニックの医師の診断に誤りはありません。まず間違いなく猫アレルギーです。動物に限らず、アレルギーというのは、必ずしも初めから反応が出るわけではありません。しばらく飲み続けていた薬や、長年使っている化粧品でアレルギーを起こすこともよくあり、こういった場合も患者さんは「これまで問題がなかったから、それが原因ではありません」と言います。しかし、例えば花粉症を思い出せばわかるように、ずっと同じものに触れているがゆえに、ある日突然発症するのです。

 もっとも、これまで一緒に寝ていても何の問題もなかった愛猫を、自分の体が突然“敵”(アレルゲン)と見なし免疫系の細胞が愛猫を排除しようと働くという現実は、理屈では分かっても受け入れるのは困難です。医師としては、患者さんの猫への思い入れの度合いを確認する必要があります。

 この患者さんの場合、5年前に離婚したことをきっかけに猫を飼い始めたそうです。気まぐれな猫で、人には懐かず友達が部屋に来たときには愛想が悪いし、自分にも寄ってこないことも多いものの、なぜか自分が元気がないときには近づいてきてゴロゴロと喉を鳴らして寄り添ってくれると言います。数日に一度は布団に入ってきて朝まで一緒に眠るそうです。猫が「生きがい」だと話します。

医師と患者で妥協点を探る

 患者さんから生きがいを奪うのは心苦しいのですが、息苦しさまで出ているのですからこれまで通りの生活を続けてもらうわけにはいきません。こういった場合、まずは部屋の間取りを聞いて、寝室に猫が絶対に入らないような工夫をするよう話をします。

医師(私):「猫を寝室に入れないだけでなく、猫を抱っこしたときはそのときに着ていた衣服は寝室の外で脱ぐ。つまり猫の毛は1本たりとも寝室に入れないようにできますか」

患者:「そんなの無理です。私にとって猫と一緒に寝られないなんて考えられません」

 この女性が小柄で、ペットが猫でなく大型の犬なら一緒に寝るのは絶対にNGです。以前紹介した権勢症候群(参照:「犬をベッドにあげてはいけない二つの理由」)となる可能性があるからです。猫の場合、それはなくても、この患者さんの場合、今のままだと夜中に命にかかわるような激しいぜんそく発作を起こす可能性もあります。一人暮らしですから他人に救急車を呼んでもらうことはできません。私としても今のままの生活維持を認めるわけにはいきません。ですが、正論を押し付けて帰らせてしまえば、医療不信が一層深まり、患者さんの生命に危機が及ぶ可能性もあります。

 そこで私は「猫を寝室に入れない」に「可能な限り」と限定をつけました。そして、寝室だけでなく家中のカーペットやラグを除去し、すべてフローリングにするよう助言しました。猫アレルギーを起こすのは猫のフケが原因で、カーペットなどにフケが付着するからです。そして全部屋に空気清浄機を設置し、寝具は定期的にクリーニングに出すよう言いました。飼い猫がとても気に入っているラグがあるとかで、最初は気乗りしない様子でしたが、最終的には同意してくれました。

アレルギーともペットとも共存するには

 しかし、これだけではまだ不十分です。アレルギーの飲み薬を毎日2種類飲む▽ぜんそくの吸入薬を毎日吸入する▽ぜんそく発作が起こったときの緊急用の吸入薬の使い方を覚えて枕元に必ず置く▽(鼻炎や結膜炎症状もあるため)点鼻薬や点眼薬も用いる▽さらに定期的に受診する--ことを約束してもらいました。結果、最初の2週間は緊急用の吸入薬を何度か使いましたが、その後、ほとんど症状が起こらなくなり、通院しだして3カ月が経過する頃には、飲み薬は2種類とも中止できて、緊急用の吸入薬はほとんど不要となり、毎日の吸入薬と点鼻薬、点眼薬だけになりました。相変わらず猫は、毎日は布団に来てくれないそうですが、やってきたときには以前よりもくっついて寝ているそうです。

 基本的に猫アレルギーが根治することはありません。この患者さんも吸入薬を完全にやめてしまえば元のもくあみになります。また、現在は安定していますが、アレルギーの程度がもっと強くなったときは再び薬の量や種類を増やさねばならない可能性もあります。ですがペットが「生きがい」なら、かかりつけ医に思いをすべて打ち明けて何をすべきかを学べばいいのです。アレルギーは慢性疾患であり、感染症のように「5分で学ぶ」というわけにはいきませんが、主治医と共に解決法を見いだすことができるのです。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト