実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

急増A型肝炎の感染経路は「食べ物と性交渉」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
  • 文字
  • 印刷

理解してから接種する--「ワクチン」の本当の意味と効果【35】

 A型肝炎がはやっているから注意してください、という報道を何年かに一度見聞きします。今年はその「何年かに1度」になります。特に東京都で顕著なようで、東京都感染症情報センターによれば、今年、2018年の報告者数はすでに例年の6倍を超えています。東京都の特徴として、17年までは年ごとの増減はさほどなく、毎年コンスタントに発生していたようです。

 一方、全国的には2000年代でみてみると、02年、06年、10年、14年、そして今年と、決まったように4年に1度の流行を繰り返しています(http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/eiken/idsc/disease/hav1.htmlの図2)。そして国立感染症研究所によると、今年は、全国で9月9日までに報告された患者数が724例となり、すでに例年の患者数を大きく上回っています。

劇症肝炎で死亡することも

 A型肝炎は、A型肝炎ウイルスによる感染症です。感染経路は、ウイルスに汚染された食べ物を食べたり、ウイルスが付着した手で口に触れたり、性的接触による「経口感染」です。上下水道の整備されていない一般に先進国以外の地域では、感染するリスクが高くなります。

 潜伏期間は2~7週間程度です。発熱、全身倦怠感などの症状に続いて、食欲不振・嘔吐などの消化器症状が出て、数日後には肝機能低下による黄疸(おうだん)などの症状が出ます。B型肝炎やC型肝炎のように慢性化することは原則としてありません。乳幼児の感染では症状が軽いことが多いですが、年齢が上がると症状が重くなる傾向があり、まれではありますが劇症肝炎を起こし死に至ることもあります。

 また、成人が感染すると大半は長引く倦怠感や発熱に苦しめられ、1カ月程度入院しなければならないこともあります。当たり前ですが、できることなら感染したくはありません。では、どうすればいいのでしょうか。

食べ物と性交渉に気をつける

 実はA型肝炎は、よく比較されるB型肝炎に比べると対処方法は簡単です。食べ物と性交渉に気を付ければいいだけだからです。B型肝炎がとてもわずらわしい理由は「感染すると病原体を体内から追い出すことができないこと」と、「簡単に感染することがあること」です。過去の記事「誤解だらけのB型肝炎ウイルス(1)」で述べたように、2002年には佐賀県で合計25人もの保育所職員及び保育園児が集団感染しました。成人の場合も、教科書的には「性交渉」で感染するとされていますが、とても性交渉とは呼べないようなささいなスキンシップで感染することもあります。

 一方、A型肝炎が感染しうる「性交渉」というのは肛門を介した感染です。A型肝炎は基本的に「経口感染」ですから、口に入った病原体が体内で増殖して肛門から出てきます。つまり、なんらかの経路で肛門周囲に付着した病原体が、口腔内に入らない限りは感染しないのです。ですから、性交渉でのA型肝炎は一般的には男性同性愛者に多いとされていて、私の臨床経験でもその通りだとは思います。ですが、ストレートの男女にもないわけではありません。

生ガキや生の海産物、輸入食品には要注意

 A型肝炎ウイルスを不活化するには、十分な加熱(85度より高温で1分以上)が必要です。では、どのような食べ物に気を付ければいいのでしょうか。

 国内での感染源として最も有名なのはカキ(特に生ガキ)です。過去の記事「今日から使えるノロウイルス対処法」で、医療者の多くはノロウイルスの危険性を考慮して生ガキを食べられないことを述べました。人から人へ感染させることも多いノロウイルスに医療者が感染した場合、院内感染を防ぐため出勤できなくなりますから、もしもカキで感染するようなことがあれば上司から大目玉をくらうことになります。

 A型肝炎は定期接種ではありませんが、安全性と効果の高いワクチンがあります。医療者は(おそらく)ワクチンを接種しているのでA型肝炎は心配不要ですが、それでもノロウイルスの存在がある以上は、生ガキに手を出せません。一方、A型肝炎ワクチンを打っていない人はどうでしょう。ノロウイルスは健康な人なら感染しても数日で治癒しますが、A型肝炎はそうはいきません。

 カキ以外に“国内で”注意すべき食べ物は、アサリやムール貝などの二枚貝や生の魚介類ですが、原因がはっきりしないケースもあります。17年6月に長野県小諸市で発生した食中毒は、そばやてんぷらを提供する飲食店だったようです。

 米国では2013年、トルコから輸入したザクロからの集団感染が発生しました。10州で合計165人が発症し、69人が入院、2人が劇症肝炎を発症し、そのうち1人は救命はできたものの肝移植までしなければなりませんでした。ちなみに、このザクロを提供した販売店は、ザクロが使われた商品を購入した約25万人の顧客に電話連絡し、1万人以上にワクチン代金を支払っています。集団感染の詳細については医学誌「The Lancet」に掲載された論文に詳しくまとめられています。

流行国に渡航予定の人やリスクの高い人はワクチン接種を

 米国でのこの事件は大きな話題となりましたが、日本人が注意すべき国は米国のような先進国ではなくアジアです。日本と同様、生の魚介類をたくさん食べる韓国での感染は珍しくなく、日本人もしばしば感染しています。日韓ほどは生の魚介類を食べない台湾、香港、中国、ベトナム、タイ、インドなどでも日本人が感染することが少なくありません。A型肝炎ウイルスに汚染された水から感染することもあるからです。もちろん海外で水道水をそのまま飲む人は(まず)いないと思いますが、例えば不潔な水で洗った生野菜から感染するリスクがあります。外国人用の高級レストランばかりで食事をするという人は心配不要ですが、現地の人が日常的に利用する屋台のようなところで食事をしたい人はワクチンで対処すべきです。

 ここでよくある質問が「(決して安くない)A型肝炎のワクチンを現地の人は打っていないのに感染しないのはなぜ?」というものです。この答えは「現地の人たちは子供時代に感染していて免疫があるから」です。

 全例ではありませんが、A型肝炎は幼少時に感染すると軽症(もしくは無症状)で済み、生涯にわたり免疫が維持できます。ですから日本でも上水道が整備されていなかったころには、大勢の人が幼少時に感染して免疫を持っています。1984年時点で45歳以上の人(現在79歳以上の人)であれば9割以上が抗体陽性というデータもあります。

 A型肝炎のワクチンはとても優れていて、副作用がほとんどなく高い効果が得られます。日本製ワクチンの添付文書には3回接種と書かれていますが、ほとんどの人は2回で抗体が形成されます(ただし長期で効果を得るには3回接種の方がいいでしょうし、何回にするかはかかりつけ医に相談してください)。

 問題は「費用」で、1回7000~1万円ほど。B型肝炎のワクチンに比べると1.5~2倍近くします。私はアジア渡航の多い人には、「日本のワクチンは高いから現地で打つのも一つの方法ですよ」とよく言っています。狂犬病や麻疹・風疹混合ワクチン(注)は、国によっては日本の10分の1以下の価格で接種できます。一方、A型肝炎については日本よりは安いですが海外でもそれほど差がありません。

 「ワクチンは理解してから接種する」が基本ですから、まずはA型肝炎ウイルスという病原体の理解から始めなければなりませんが、海外、特にアジア方面への渡航が多い人はぜひ一度考えてみてください。また、国内でもますます盛んになる国際交流や、発展途上国からの輸入食料品の増加など、 A型肝炎の感染予防対策は再び重要な問題として認識されるようになってきました。医療者以外のリスクの高い環境にある人も、接種を検討してください。ただし、ワクチン接種後も生ガキには気を付けて!

注:海外では通常、おたふく風邪ワクチンも加えたMMRとなります。ちなみに、タイではMMRワクチンを1,000円以下で接種できる医療機関も複数あります。

医療プレミア・トップページはこちら

谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト