教養としての診断学

千変万化の結核~病名の数が増えた理由

津村圭・府中病院総合診療センター長
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 この連載で以前掲載した「世界を二つに分ければ、見えてくる」の記事で、病名のもっともシンプルな分類は「病気である」か「病気でない」かであると述べました。しかし、病名は時代とともにその数が増えてきます。「結核」を通して、どうして病名が増えたのか、またその意味は何かについて考えてみましょう。

 19世紀以降、「肺結核」という病名が小説に登場するようになってきます。1848年に刊行されたデュマ・フィスの小説「椿姫」は「肺結核」を患った主人公の悲恋の物語です(注1)。しかし、この時代の読者にとっての「肺結核」は、現代の私たちと同じ意味をもつ「病気」ではなかったのです。ヒロインのマルグリットは高級娼婦(しょうふ)で「肺結核」にかかっています。彼女は体調を崩し、湯治に行き、そこでやはり療養中の老公爵の娘に出会います。

 「二人は同じ病だったうえに、顔立ちも周囲の人が姉妹かと思うほどよく似ていた。だが、病状だけは違っていた。公爵の娘の肺結核は第三期の重症だった」と描かれています。日本語訳では「肺結核」とされていますが、その部分のフランス語は「phtisie」(「消耗」を意味する結核の古語。現在結核を意味するフランス語は「tuberculose」)です。進行した「肺結核」は著しく痩せて、ひどいせきも出ます。「結核菌…

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津村圭

府中病院総合診療センター長

つむら・けい 大阪府出身。1977年大阪市立大学医学部を卒業後、国立循環器病センター(現・国立循環器病研究センター)に心臓内科レジデントとして勤務。その後の28年間は大阪市立大学医学部教員として、学部学生、大学院学生、研修医、指導医、教員の指導と医学部カリキュラムの企画と作成に携わった。診療面では循環器内科をベースとしつつ、早い時期から原因疾患の判別が困難な症例で、診断を担当する総合診療医として従事。研究面では、各種疾病のリスクファクターについての臨床疫学研究を行い、ランセット(Lancet)など欧米医学誌で発表してきた。2014年1月から現職。総合診療医として地域医療に関わるとともに、初期、後期研修医の指導を担当、臨床研修室顧問も兼任する。地域医療を充実させるため院内に家庭医療専門医後期研修プログラムを立ち上げるなど、診療と教育をリンクさせた活動を現在も続けている。府中病院ウェブサイト