2012~13年の流行期に、都内の企業が社員向けに実施した集団ワクチン接種
2012~13年の流行期に、都内の企業が社員向けに実施した集団ワクチン接種

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「風疹の記憶」に要注意 半数に抗体なしの恐れ

中村好見 / 毎日新聞 医療プレミア編集部

 風疹の流行拡大が止まらない。10月7日までに報告された今年の累計患者数は、過去5年間では初めて1000人を超え、昨年1年間のおよそ12倍、1103人にのぼった。専門家は「年間1万4000人を超えた2013年の流行前の状況と似ている」と指摘し、過去風疹になったことがなく、1歳以上で2回の予防接種歴がない場合、妊娠20週ごろまでの女性は外出を控え、それ以外の人は予防接種を受けるよう呼びかけている。また、「自分は子どものころ感染したと親に聞いたから大丈夫」という人も、要注意だ。「感染したことがある」と答えた人の半数以上が、実際には感染していなかったことを示す調査結果があるからだ。風疹予防について、国立感染症研究所の多屋馨子(たや・けいこ)・感染症疫学センター室長に聞いた。

「風疹にかかったことがある」と答えた人の半分以上は抗体なし

 調査は、兵庫県内のある中学校で1993~97年の5年間実施したものだ。風疹ワクチン接種前の中学2年生を対象に、過去風疹にかかったことがあるかどうかを自己申告させ、風疹抗体の有無を調べた(「風疹既往歴と風疹抗体価-中学校における5年間の血清疫学」(兵庫県立衛生研究所年報第34号Page133-136,1999 http://www.chieiken.gr.jp/chieiken/hyg_PDF/a281e.pdf)。

 その結果、5年間で調査した310人のうち、「風疹にかかったことがある」と答えた42人中、24人(57%)に風疹抗体がなかったことがわかった。論文は「個人の認識する(風疹の)既往歴は不確実であることが明らかとなった」とまとめている。「風疹にかかったことがある」と思っていても、その半数以上が思い違いだった可能性がある、ということだ。

検査診断記録がない人はワクチン接種検討を

 なぜ、このようなことが起きるのだろうか。風疹は感染後2~3週間の潜伏期間の後、主に発熱、発疹、リンパ節の腫れなどの症状が出る。しかし、3つの症状がそろって報告されたのは約半数の人で、15~30%の割合で症状がない(不顕性感染)ケースがある。一方、出血しやすく止まりにくい「血小板減少性紫斑病」や、けいれんや意識障害を起こす脳炎など、重い合併症を引き起こす場合もあり、症状は幅広い。また、溶連菌や伝染性紅斑でも似たような発疹と熱が出ることがあり、症状だけで風疹と確定することは難しい。ベテラン医師でも診断を間違えることがあるほどだという。

 風疹の診断は、検査する方法と、症状で診る方法がある。多屋室長によると、現在は大半が検査によって確定診断されているが、過去には症状だけで診断することが多かった。

風疹ウイルス=米疾病対策センターのサイトから
風疹ウイルス=米疾病対策センターのサイトから

 「母子健康手帳に検査診断の記録がなく、症状だけで風疹と診断された人、自分や親の記憶しかない人は、風疹にかかっていない可能性があることを念頭に、ワクチン接種を検討してほしい」と指摘する。

 実際には風疹にかかっていて免疫があっても、ワクチン接種で特別な副反応が起こることはないし、さらに免疫を強化する可能性もあるという。

社会全体で風疹の流行を防ぐために

 妊娠初期の女性が風疹ウイルスに感染すると、生まれてくる赤ちゃんに心臓病や難聴、白内障など「先天性風疹症候群」という障害が出る恐れがある。前回12~13年の流行期に関連して、先天性風疹症候群の赤ちゃんが45人確認され、うち11人は生後1年3カ月までに亡くなった。

 過去、風疹ウイルスに感染したことがない人は、原則、1歳以上で2回予防接種を受けることで風疹にかかるのを防ぐことができる。しかし、生ワクチンのため妊娠中の女性は接種を受けることができない。女性はまず、妊娠前に必要回数の予防接種を受けておくことが大切だ。また、妊娠の可能性がある女性は抗体検査を受け、抗体がない場合は、家族や職場の同僚に予防接種を受けてもらう。免疫不全などで接種できない人や、極めてまれにワクチンを接種しても抗体価が上がりにくい人もいるという。

 妊婦や、生まれてくる赤ちゃんを風疹から守るために、社会全体で風疹が流行しないよう、積極的に予防接種を促す対策が必要だった。今の流行の中心は過去、国の定期接種の対象でなかった、あるいは接種率が低く、抗体が足りない人が多い30~50代の男性だ。

 「今の流行を止めるには、抗体が足りない人にワクチンを接種してもらうしかありません。流行地域にいて、抗体が足りない可能性のある人、特に家族や職場に妊娠出産年齢の女性がいる人は、抗体検査を待たず、今すぐワクチンを接種することを勧めます」

関東圏と愛知県で感染が拡大している

 現在、累計患者数が多いのは東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、愛知県の順で、すぐに流行が収束しそうな気配はない。市区町村によっては、妊娠を希望する女性やそのパートナーに対し、予防接種や抗体検査の費用を助成するところもある。接種を希望する場合は、まず自分の住む自治体に問い合わせてほしい。

 公費補助がない場合は自費で接種する。推奨されている麻疹風疹混合(MR)ワクチンの接種費用は8000~1万円ほどだ。風疹ワクチンは5000~6000円ほどだが、製造量が少なく手に入りにくい。抗体検査は3000~5000円ほどで受けられるが、もちろん、抗体がなかった場合にワクチン接種をしないと意味がない。

インフルエンザワクチンと麻疹風疹混合(MR)ワクチンの同時集団接種をした企業=2013年
インフルエンザワクチンと麻疹風疹混合(MR)ワクチンの同時集団接種をした企業=2013年

 成人が風疹にかかると、一週間以上仕事を休まなければならない場合がある。12~13年の流行時には、77人が血小板減少性紫斑病、18人が脳炎を合併した。こうしたことから、企業が接種費用を負担する動きも広がっている。

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中村好見

中村好見

毎日新聞 医療プレミア編集部

なかむら・よしみ 1984年生まれ。2008年に毎日新聞社へ入社、高松支局などを経て14年にデジタルメディア局異動。ニュースサイトの編集に携わり、新しいニュースの見せ方、伝え方について日々研鑽中。幼少時に家族がくも膜下出血で倒れた経験から、医療とそれを取り巻く社会問題に興味を持つ。

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