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子ども時代の貧困は50年後の健康を損なう

近藤克則・千葉大学予防医学センター教授

 子どもの貧困や教育支援への関心が高まっている。日本の子どもの7人に1人が相対的貧困状態にあり、教育費の家庭負担も大きな国になってしまったからである。しかし貧困対策や子ども支援が将来の成長戦略や高齢者の健康政策にもなることはあまり知られていない。

  私たちが取り組む日本老年学的評価研究(JAGES)プロジェクトで調べてみたら、要介護状態に移行しやすい「閉じこもり」高齢者の割合は、子ども時代に十分な教育を受けられなかった人で3倍以上多かった。65歳以上の高齢者が教育を受けたのは50年以上も前だが、その影響は高齢期にも認められ死亡や要介護状態の発生も多い。

 そのメカニズムは複雑である。貧しいが故に進学を諦め中卒や高卒で我慢する人がいる。大学進学には800万円くらいかかることが珍しくないからだ。すると正社員になるのが難しく給与水準も低くなりがちだ。勤務先が変わる派遣社員など不安定雇用だと人間関係が希薄になりやすく同僚からの支援も受けにくい。国民年金だけなら満額でも月約6万円である。子どもの貧困はこのような「負の連鎖」を生み、社会から排除されてしまう。…

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千葉大学予防医学センター教授

1983年千葉大学医学部卒業。東大医学部付属病院リハビリテーション部医員、船橋二和(ふたわ)病院リハビリテーション科科長などを経て日本福祉大学教授を務め、2014年4月から千葉大学予防医学センター教授。2016年4月から国立長寿医療研究センター老年学評価研究部長。「健康格差社会ー何が心と健康を蝕むのか」(医学書院2005)で社会政策学会賞(奨励賞)を受賞。健康格差研究の国内第一人者。