実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

入試ストレスでも発症「カンジダ」三つの原因

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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大学入試の直前に、参考書やノートを広げる受験生。受験のストレスもカンジダ発症の一因だ
大学入試の直前に、参考書やノートを広げる受験生。受験のストレスもカンジダ発症の一因だ

 今回から計3回にわたり、病気の原因になるカビ(真菌)の話をします。まず初めに取り上げるのが、前回はニキビに使う抗菌薬の長期使用で発症しうることを紹介した「カンジダ」です。カンジダは「常在真菌」と呼ばれ、誰の体にも生息している真菌です。口の中や、食道・腸管などの消化管内、皮膚の表面や爪、膣(ちつ)の中にもすんでいます。ただ「いる」だけなら害をもたらしませんが、異常増殖すれば、ときにかゆみや痛みをもたらすことがあります。

 カンジダに関する誤解で最も多いのが「原因は性感染」です。確かに、教科書にも性感染すると書いてありますし、理論的には感染しうるのも事実です。しかしながら、私自身は性感染症としてのカンジダを、ほとんど診たことがありません。「前の病院でカンジダの診断がつき『性病』と言われたけれど、そんなはずはありません」と訴えて太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)を受診する女性の患者さんがときどきいます。彼女らは口をそろえて「何年も性交渉がないからそんなわけがない……」と言います。もちろん、彼女たちがうそを言っているわけではありません。

 では、実際には、カンジダはどのような理由で発生するのでしょうか。谷口医院の経験でいえば、要因は大きく三つに分かれます。

 まず一つ目は「薬剤性」、つまり薬の副作用です。前回の記事「ニキビ治療の抗菌薬で『カンジダ』発症のなぜ」でお伝えしたように、抗菌薬を用いると膣内に生息する細菌が死滅し、“ライバル”のいなくなったカンジダが仲間を増やします。前回は「長期投与が問題」という話をしましたが、短期間、例えば3~4日程度の内服でも発症することがあります。短期間だと「性器のカンジダ」以外はあまり起こりません。口腔(こうくう)内や食道、爪や皮膚にカンジダが異常増殖するのは、長期間使用したときです。

 さて、同じ薬剤性でも、違う仕組みでカンジダが増える場合があります。

 カンジダが健康な人の皮膚や粘膜に生息しているのは、いわば人と“共存”しているといえます。その共存は、人体の免疫能が、正常に働くことで維持されています。つまり免疫細胞が、カンジダが異常増殖しないように見張っており、「お前ら、すまわせてやってもいいけど、あんまり調子に乗るなよ!」と日ごろから警告しているのです。

 ところが、その免疫細胞たちが薬など何かの理由で弱ると、カンジダは「調子に乗って」増殖し始めます。

 そうした「免疫能を下げる薬」には、まず「ステロイド」があります。「膠原(こうげん)病」と呼ばれる数種類の病気や「リウマチ」の治療にはステロイドを使うことがあり、その内服を長期間続けていると、けっこうな確率でカンジダが発症します。この場合は、膣内のみならず皮膚や口腔内にも生じることが珍しくありません。

節分の行事で鬼にふんした人たち。暴れ回るが最後には調伏される。カンジダは、免疫能が低下した時に暴れ出す
節分の行事で鬼にふんした人たち。暴れ回るが最後には調伏される。カンジダは、免疫能が低下した時に暴れ出す

 そしてステロイドは、内服や点滴のみならず、外用で使ってもカンジダが発症します。「外陰部にかゆみが生じて、自宅にあったステロイドを塗って余計にかゆくなった」という訴えは非常に多く、「おむつかぶれだと思ってステロイドを使って……」といって乳児を連れてくる母親もいます。ただ、この場合は「最初はこの母親の診断通りおむつかぶれでステロイドを選択したのは正しかったけれど、そのうちにカンジダが発生した」という可能性もあります。ステロイドは、内服はもちろん、外用も使用方法が簡単ではなく“自己流の治療”で悪化させている患者さんが少なくありません。

 咽頭(いんとう)からカンジダが見つかれば、ぜんそくなどで用いるステロイド吸入薬の副作用を疑います。ステロイド吸入薬には使用上の注意点がいくつかあり「うがいによるカンジダの予防」もその一つです。医師は、初回の処方時にはしっかりとうがいの重要性を説明せねばなりません。もしも「カンジダ性咽頭炎」が発症すれば、それは医療者の責任と言えます。谷口医院の患者さんで過去に1人発生させてしまったことがあり、改めてうがいについて尋ねてみると、うがいの時間が短すぎることが分かりました。それ以来、うがいの方法や所要時間についてはしつこいくらいに説明するようにしています。

 免疫能を抑えてしまいカンジダをもたらす他の薬剤としては「免疫抑制剤」や「抗がん剤」があります。これらを使っているうちに、皮膚がかゆなってきた▽爪が濁ってきた▽帯下(たいげ、性器からの分泌物)の異常がある▽口の中や喉に痛みがある▽胸(食道)が痛い――などといった症状が出現すれば、カンジダが原因かもしれません。

 カンジダを起こす二つ目の原因は「他の疾患」です。病気には免疫能を低下させるものがあります。そうした病気で一番多いのは糖尿病です。谷口医院の例でいえば、30~60代くらいの男性で「陰茎がかゆい」と言って受診する人からカンジダが見つかれば、そのうちの約半数は糖尿病です。

 「健康診断受けてないでしょ」と言うと「なんで分かるんですか?!」と驚かれますが、カンジダを発症するほど免疫能が低下するのは、糖尿病を長年放置しているからであり「健診による早期発見のチャンスを逃している」と推測がつくのです。

 糖尿病の次に多いのは、「薬剤性」のところで説明した膠原病で、具体的な病名は「シェーグレン症候群」や「全身性エリテマトーデス」などです。治療薬のステロイドのせいでなく、病気そのものが原因で、免疫能が下がり、カンジダの増殖を許すことがあるのです。

 この場合は、膣や外陰部のカンジダ以外に「口腔カンジダ」を発症することも珍しくありません。特に女性が口腔内のカンジダを発症し、薬剤性が否定でき、健診を受けていて糖尿病の可能性がなければ、膠原病を疑います。膠原病は圧倒的に女性に多い疾患だからです。

 ほかに谷口医院の例でいえば、男性の場合は膠原病よりも先にHIV(エイズウイルス)を疑います。実際に、カンジダからHIV感染が発覚した方が数人います。また男女どちらでも、高齢者の場合は、がんを疑うこともあります。

 カンジダの原因となる三つ目は「ストレスや睡眠不足」です。よく言われるように、これらは免疫能を低下させます。ですから「薬剤性」も「他の病気が原因」の可能性も否定できた場合、ストレスの程度を問診することになります。

 女性には「生理前になるとカンジダを発症する」という人がいますが、これは、生理前に起こる症状、例えば、生理痛▽頭痛(月経前に起こることが多い)▽生理前のイライラ(月経前症候群)――などによるストレスで免疫能が下がっているわけです。ただし、「生理前にカンジダに必ずなる」という訴えの人を調べてみると、実際はカンジダではなく、単に帯下の量が増えているだけ、ということもしばしばあります。

 ストレスが生じる要因は、職場の人間関係の悪化▽残業過多によるストレス▽ペットの他界▽プライベートでのいざこざ――など多岐にわたります。治療の際は、患者さんから職場の状況を聞いて解決策を探ったり、職場の産業医に手紙を書いて協力を依頼したりすることもあります。

 原因だったストレスが解消されると、一気にカンジダを発症しなくなるのもよくあることです。数年前に谷口医院で診ていた予備校生は、模試の前になると決まってカンジダ膣炎を発症していましたが、大学に合格してからはまったく再発しなくなりました。

 
 

 ただ「ストレスに注意してね」と言っても簡単に減らせるわけではありません。度々カンジダを繰り返す患者さんには「ストレスのコントロールが困難なら、カンジダが起これば残業を控えるなど、カンジダを健康のバロメーターと考えましょう」と話すこともあります。

 ところでカンジダの治療には、病気が起きている場所が皮膚や粘膜なら外用薬、膣内なら膣錠を使います。咽頭炎や食道炎だと内服薬が必要になりますが、皮膚、粘膜、膣内の場合は、内服薬まで必要になることは(健常者では)ほとんどありません。治るまでの期間は、病状や、患者が持っている別の病気によりますが、健常者で、皮膚・粘膜・膣内のカンジダなら数日です。 最後にポイントをまとめます。

 ・カンジダは常在真菌で、人体の皮膚・粘膜、爪、口腔内、食道・腸管、膣内などに生息している。

 ・性交渉が原因のカンジダは多くない。

 ・カンジダの原因となる三つの要因は(1)薬剤性=抗菌薬、ステロイドなど(2)免疫能が低下する疾患=糖尿病、膠原病、HIV、がんなど(3)ストレスや睡眠不足――である。

 ・ストレスコントロールはときに困難。「ストレスをためないようにしてカンジダを防ぐ」よりも、「カンジダが起これば休養をとる」といった対策の方が現実的なこともある。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。