実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

真菌マラセチア増殖が起こす「脂漏性皮膚炎」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
  • 文字
  • 印刷

 「これからは、どんなに疲れていても寝る前には必ずシャワーを浴びてください。起床時や帰宅後すぐにもシャワーを浴びるべきですが、寝る前だけは欠かさないでください」

 これは私が、3種類の皮膚病、「癜風(でんぷう)」「脂漏性皮膚炎」「マラセチア毛包炎」のいずれかを発症したことがある人に、繰り返し伝えている言葉です。この三つの病気はいずれも、有名ではないかもしれませんが、珍しいものではありません。そして原因は同じ病原体の「マラセチア」です。

「3大真菌感染症」の一つ

 マラセチアは、人間に感染する真菌(かび)です。このマラセチアが起こす病気と、前回紹介した「カンジダ」による病気、そして次回紹介する「白癬(はくせん)菌」が起こす水虫などが、健常者もかかりうる「3大真菌感染症」となります。

 ちなみに、以前に「ハトの糞(ふん)からの感染に注意」とお伝えしたクリプトコッカス(参考:「本当はキケンな公園のハト 特に妊婦は要注意」)も真菌の一種です。こちらは、重症になると、脳が障害されて認知障害や人格障害まできたす重要な感染症ですが、健常者では問題とならず、発症するのは免疫抑制剤を使っている人やHIV(エイズウイルス)陽性の人などに限られます。

 マラセチアは、カンジダと同様に「常在真菌」で、誰の皮膚にもある程度は生息しています。ですから、「そこにいる」だけでは問題はありません。病気を起こすのは、異常増殖したときです。

 マラセチアを少し細かく分類すると、癜風の原因となる種類のマラセチアは「マラセチア ファーファー」▽マラセチア毛包炎を起こすのは「マラセチア グロボーサ」▽脂漏性皮膚炎の原因はこの双方――とされています。

 けれども、どちらのマラセチアが起こす病気でも、治療に対する考え方や用いる薬剤は同じですから、細かい分類はあまり考える必要はありません。それでは3つの疾患を順に紹介していきましょう。

皮膚がまだらに変色する「癜風」

 癜風は、胸、背中、肩、首、上腕などに斑(まだら)状の皮疹ができる病気です。痛みはなく、かゆみもまったくないか、あってもごく軽度です。家族に指摘されて初めて気づいた、という人も少なくありません。

 この病気は別名を「なまず」とも言い、黒っぽいものを「黒なまず」、白っぽいものを「白なまず」と呼ぶこともあります。教科書にも黒(褐色)と白があると書かれていますが、私の経験で言えば、赤やピンクの場合もそれなりにあります。

癜風(でんぷう)の患者の背中。右側の真ん中あたりの淡いピンクのまだらが癜風
癜風(でんぷう)の患者の背中。右側の真ん中あたりの淡いピンクのまだらが癜風

 患者さんの中には、赤い斑が広範囲に広がり「じんましんができた」と言って受診する人もいます。前胸部に大きく広がった皮疹に驚いて受診し「梅毒ですか?」とか「エイズですか?」と言う人もいます。

 これらはあながち間違った考えではありません。私の経験上、「前の病院でカビ(癜風のことでしょうがなぜか検査がされていない)と言われたのですが治りません」と言って受診した人が梅毒であった、ということも何度かあります。また、梅毒を疑って受診し実際は癜風だった場合もあります(このケースは最近増えています)。

 診断は簡単で、皮膚をこすって取ったサンプルを顕微鏡で見て、マラセチアが異常増殖していることを確認すれば、それで「確定」です。治療も簡単で、抗真菌薬の外用薬を1日1回塗っていれば通常は数日で治ります。

癜風(でんぷう)の患者の皮膚の顕微鏡写真。中央部にいくつか並ぶ、白くて丸い”卵”のようなものがマラセチアの胞子。このように胞子が集まって見えると、病気の原因はマラセチアだと診断できる
癜風(でんぷう)の患者の皮膚の顕微鏡写真。中央部にいくつか並ぶ、白くて丸い”卵”のようなものがマラセチアの胞子。このように胞子が集まって見えると、病気の原因はマラセチアだと診断できる

再発予防に「頻繁なシャワー」を

 診断も治療も簡単ならわざわざ「医療プレミア」で紹介するほどでもないではないか、と思われますが、問題はここからです。それは「再発」です。

 癜風は、一度治っても、かなりの確率で再発します。再発しても痛くもかゆくもないわけですが、やはり皮膚に皮疹(斑)があり放っておくのは気持ちのいいものではありません。では再発を防ぐにはどうすればいいでしょうか。それには「頻繁にシャワーを使う」必要があります。そもそも癜風を発症する多くの人は、不潔にしているわけではありませんが「寝る前にシャワーを浴びていない」人や「寝ているときによく汗をかく」人が多いのです。

 汗をかいてじめっとした状態は、真菌が増殖するにはうってつけの環境です。ですから、一日に何度もシャワーを使うことが、再発予防に有効なのです。ただし、シャワーといってもせっけんを使ったり、タオルを使って体を洗ったりする必要はありません。ぬるま湯を数秒かけるだけでOKです。せっけんは抗真菌薬入りのボディソープが推薦されていますが、これにはあまり頼らず使用は1日1度までとし、頻繁にシャワーで汗を流すことに重きを置いた方が効果的です。

皮膚がはがれ落ちる「脂漏性皮膚炎」

 次に「脂漏性皮膚炎」を紹介します。これは、顔面や頭皮に落屑(らくせつ=皮膚が細かくはがれて落ちること)が生じる皮膚炎です。

 顔面にできると少し赤くなり、小さな皮の破片がめくれたような感じになります。頭皮に生じればフケができて赤くなります。かゆみはほとんどないこともあれば、頭皮の場合はかきむしりたくなるほどかゆくなることもあります。

 脂漏性皮膚炎は、感染症というよりは「湿疹」の仲間に入る病気で、ステロイド外用薬がよく効きます。細かくいうと、この皮膚炎の原因はいくつか考えられるのですが、単純な湿疹ではなくマラセチアの異常増殖が関与していることが多く、ステロイド外用に抗真菌薬の外用薬を加えて治療を行います。ステロイドの長期使用には副作用のリスクが伴いますから、ステロイドは短期間で終わらせて、後は抗真菌薬のみでコントロールできるように努めます。

ニキビに似ているが別の病気「マラセチア毛包炎」

 最後に紹介するマラセチア毛包炎は、胸部や背部、肩などに、一見すると「ニキビ」に見える、ブツブツが生じる病気です。

 ニキビの正体は、毛穴にニキビの原因となる細菌が入り込んで、その細菌が異常増殖することにより炎症が起こったものです。一方、マラセチア毛包炎は、毛穴の中で、真菌であるマラセチアが異常増殖することにより、炎症が起こります。

 診断をつけるには、毛穴で異常増殖しているマラセチアを見つければいいわけですが、実際には癜風のときほどうまくいきません。癜風のように、マラセチアの増殖した所見を顕微鏡上で得ることはときに難しいのです。ですから、実際の臨床では、細菌性のニキビなのかマラセチア毛包炎なのか区別がつきにくいこともあります。

 治療はやはり抗真菌薬の外用薬を用いますが、重症化している場合は内服薬を用いることもあります。

湯での洗髪は頻繁に、シャンプー使用は1日1度

 癜風と同様、脂漏性皮膚炎もマラセチア毛包炎も、再発に注意しなければなりません。ですから、やはりシャワーを頻繁に浴びる必要があります。

 
 

 脂漏性皮膚炎が頭皮にできた場合、洗髪しなければなりません。胸部や背部だけに浴びるなら数秒で済みますが、洗髪だともう少し時間がかかり、1日に何度もおこなうのは困難です。ですが、寝る前には必ず、そしてあと1度くらいは洗髪することを私は勧めています。

 シャンプーは抗真菌薬入りのものが推奨されますが、お湯だけでの洗髪は頻繁に行っても、シャンプーを使うのは1日1回までにしておいた方がいいでしょう。シャンプーをしすぎると頭皮を適切に維持するのに必要な脂が取れすぎることがあるからです。

 ではマラセチアについてまとめておきましょう。

 ・マラセチアは、真菌(かび)の一種で、誰の皮膚にも生息している常在真菌である

 ・異常増殖すると、治療が必要な「疾患」を起こす。それらには「癜風」「脂漏性皮膚炎」「マラセチア毛包炎」の三つがある。

 ・診断は、異常増殖しているマラセチアを顕微鏡で見つければよい。

 ・治療には抗真菌薬を使う。外用薬で改善することが多いが、重症例では内服を用いることもある。脂漏性皮膚炎はステロイド外用も併用すべき場合が多い。

 ・いずれも再発を繰り返すことが多い。再発予防には、頻繁にシャワーを使うことが必要である。

<医療プレミア・トップページはこちら>

谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。