風疹の流行が収まらない。国立感染症研究所によると、3月24日までに報告された今年の累計患者数は1000人を超えた。約1万4000人の患者が出た2013年に次ぐペースだ。国は19~21年度にかけて、これまで公的な風疹ワクチン予防接種を受ける機会がなかったため、流行の中心になっている40~57歳男性の接種費用を無料(定期接種)にする事業を始めた。市区町村から届くクーポン券を使って抗体検査を受け、抗体が足りない人はワクチン接種を受けられる。働き盛りの世代が対象のため、「勤務先近くで検査や接種を受けたい」「職場の健康診断で抗体検査を受けたい」といった声にも応える仕組みだ。
クーポンの対象者は?
対象は1962年4月2日~79年4月1日生まれ(57~40歳)の男性。国は「事業を円滑に進めるため」として、1年目の19年度はまず、72年4月2日~79年4月1日生まれ(47~40歳)の男性にクーポンを送ることにした。一方、62年4月2日~72年4月1日生まれ(57~47歳)の男性も、希望すればクーポンは送られる。首都圏や大阪府、福岡県などで流行が続いているため、早く検査を受けたい人は住んでいる市区町村に問い合わせてほしい。
風疹を予防するには、過去にかかったことがない場合、1歳以降で2回の予防接種が必要だ。現在の定期接種は2回で、1歳と小学校入学前に個別接種を受ける。しかしクーポン対象世代の男性は過去、定期接種の対象でなかったために公的な予防接種を受ける機会が一度もなく、他の世代に比べて風疹の抗体保有率が約80%と低い。国はこの事業を通して、対象者世代の抗体保有率を90%以上にすることを目標に掲げている。
計1万6730人の患者が出た12~13年の流行以降、風疹患者数は減少傾向だったが、昨年は計2917人の患者が出て、19年も流行拡大が続いている。24日までに報告された今年の患者1033人のうち、男性は809人で、女性(224人)の3.6倍も多く、特に男性では40代だけで36%を占める。
抗体検査とワクチン接種の2段階

クーポンは抗体検査用と、予防接種用がつづりになっている。クーポンと住所地が確認できる証明書(免許証、保険証など)を医療機関に持参して、抗体検査(採血)を受ける。1~2週間後に結果がわかり、結果が記された受診票は医療機関か郵送で受け取る。
抗体が足りないことがわかった人は、結果が記された受診票とクーポン、住所地が確認できる証明書を持って医療機関に行き、ワクチンを接種する。接種を受ける人は少なくとも2回、医療機関に行く必要があるということだ。
一方、14年度以降に、自治体の助成制度などを使って抗体検査を受け、抗体が足りないことが判明した対象世代の男性は、検査結果を持参すれば、抗体検査を受けずに接種を受けられる。事前に医療機関に相談してみよう。
クーポンの有効期限は、基本的には今年度末まで。クーポンを使わなかった場合は、来年度以降に再送付される予定だ。また、抗体検査や予防接種を受ける日に、住民票のある市区町村が発行したクーポンのみが有効だ。引っ越した人には新たにクーポンが送付される運用になっているが、急ぐ人は、転出先の市区町村で確認してほしい。
国は事業の自治体向け手引で「できる限り3月中にクーポン券を送付する」としていた。しかし、一部を除いてほとんどの市区町村は4月以降の送付となる見込み。
東京都世田谷区は3月29日、対象者約5万3000人に発送した。しかし、参加する医療機関リストが厚生労働省のホームページにアップされたのが4月になってからだったり、事業開始についてまだ浸透していなかったりして、「どこで検査を受けたらよいのかわからない」「勤務先の近くの医療機関に聞いたら事業のことを知らなかった」という問い合わせも多かったという。

勤務先近くの医療機関や、健康診断でも受けられる
抗体検査や予防接種は、参加する全国の医療機関で受けられる。近所だけでなく、職場近くの医療機関でも受けられる。夜間や休日に対応する医療機関もある。参加する医療機関はリスト(厚生労働省ホームページ「風しんの追加的対策について」)で確認できる。このリストは随時追加、更新される予定だ。
また、会社の健康診断や、国民健康保険加入者の特定健診で検査を受ける仕組みもある。希望する人は、勤務先や市区町村に問い合わせよう。
今回接種するワクチンは、流通量が少ない風疹単独ワクチンではなく、麻疹風疹混合(MR)ワクチンだ。
麻疹も風疹と同様に、過去かかったことがない場合、1歳以降に2回の予防接種が必要だ。しかし、90年4月2日より前に生まれた人は、麻疹ワクチンの定期接種を1回か、あるいはまったく受けていない可能性がある。麻疹は今年、3月24日までに342人の患者が報告され、09年以降最多のペースで増えている。今回の接種で、麻疹の抗体を高めることもできる。
風疹の流行の何が問題か
風疹流行が問題なのは、妊娠20週ごろまでの女性が風疹ウイルスに感染すると、生まれてくる赤ちゃんが、心臓病や難聴、白内障などの「先天性風疹症候群」という病気を発症する恐れがあるからだ。

12~13年の流行に関連して、先天性風疹症候群の赤ちゃんが45人確認され、うち11人は生後1年3カ月までに亡くなった。そして14年以降では初めて今年1月、先天性風疹症候群の赤ちゃん1人が報告された。
風疹は感染後2~3週間の潜伏期間の後、主に発熱、発疹、リンパ節の腫れなどの症状が出る。一方、発疹などの症状が出る1週間前から周囲への感染力を持ち、症状が出ない不顕性感染も15~30%の割合である。感染したことに気づかない人が通勤中や外出中に、妊娠初期の女性にうつす恐れがある。
風疹ワクチンは病原性を弱めたウイルスを使う生ワクチンなので、妊娠中の女性は接種を受けられない。妊娠を希望する女性は、妊娠前に2回の予防接種を受ける必要がある。しかし免疫不全などで接種できない人や、まれにワクチンを接種しても抗体価が上がりにくい人もいるため、社会全体で免疫を持ち、風疹の流行を防ぐことが大切だ。
また、大人が風疹にかかると、子どもに比べて重症化することがあり、1週間以上仕事を休まなければならなくなる場合もある。自身のためにも、今回の事業を活用してほしい。
今回の事業の対象でない人についても、90年4月2日より前に生まれた人は、風疹ワクチンの定期接種を受ける機会があっても1回しかなかった。妊娠を希望する女性やそのパートナーらを対象に、抗体検査や予防接種を助成している自治体も多いので、市区町村に問い合わせてほしい。
