医療プレミア特集

「20~30代に感染拡大」風疹患者1400人超える

中村好見・毎日新聞 医療プレミア編集部
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 昨年から続く風疹流行で、1月の埼玉県に続き、4月に東京都で先天性風疹症候群の赤ちゃんが報告された。国立感染症研究所によると、5月12日までに報告された今年の風疹の累計患者数は1486人で、約1万4000人の患者が出た2013年に次ぐペースで増え続けている。気になるのは、風疹予防接種の“空白世代”で、抗体検査や予防接種が無料で受けられる対策が始まった40~50代男性だけでなく、本人やパートナーが妊娠出産する機会の多い20~30代男女の患者も多いことだ。風疹流行はしばらく収まりそうにない。改めて感染予防の注意点を取材した。

 14年を最後に先天性風疹症候群の赤ちゃんの報告はなかったが、今年に入って埼玉県で男児1人、東京都で男児1人の計2人が報告された。国立感染症研究所の多屋馨子(たや・けいこ)感染症疫学センター室長は「昨年からの流行である程度予測していましたが、厳しく悔しい現実です」と話す。

 妊娠20週ごろまでの女性が風疹ウイルスに感染すると、生まれてくる赤ちゃんが、心臓病や難聴、白内障などの「先天性風疹症候群」という病気を発症する恐れがある。12~13年の流行に関連して、先天性風疹症候群の赤ちゃんが45人確認され、うち11人は生後1年3カ月までに亡くなった。

20代の女優やプロ野球選手も風疹にかかったと報道

 今月、女優の池田エライザさん(23)や中日ドラゴンズの井領雅貴選手(29)が風疹にかかったと報道された。風疹は感染後2~3週間の潜伏期間の後、主に発熱、発疹、リンパ節の腫れなどの症状が出る。一方、発疹の症状が出る1週間前から周囲への感染力を持ち、症状が出ない不顕性感染も15~30%の割合である。感染したことに気づかない人が通勤中や外出中に、妊娠初期の女性にうつす恐れがある。

 今年の風疹感染者をみると、20~30代にも流行が広がっているのが分かる。男性では多い順に40代409人▽30代300人▽20代233人▽50代161人。女性は男性より少ないものの、20代100人▽30代91人▽40代36人――と続く。

東京都世田谷区は3月末、対象者約5万3000人に風疹対策のクーポンを発送した=中村好見撮影
東京都世田谷区は3月末、対象者約5万3000人に風疹対策のクーポンを発送した=中村好見撮影

 これまで公的な風疹予防接種の機会が一度もなかった1962年4月2日~79年4月1日生まれ(57~40歳)の男性には、居住自治体から風疹抗体検査や予防接種の無料クーポン券が届く追加対策が始まった。しかし、それ以外の世代、特に本人やパートナーが妊娠出産する機会の多い20~30代については、抗体検査や予防接種の助成制度がある自治体は多いものの、自分で調べて対策を取る必要がある。

母親のワクチン接種歴「2回」で先天性風疹症候群の報告はない

 風疹を予防するには、1歳以降で2回の風疹ワクチン接種が必要だ。感染研などのこれまでの調査から、母親の風疹ワクチン接種歴が2回だった場合は、先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれたケースは報告されていない。

 一方、母親の接種歴が1回だったケースでは少なからず報告されている。同研究所などが取り組んだ「12~14年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査」によると、1回接種の母親から先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれたケースは11例(24%)あった。

 多屋さんは「妊娠を希望する女性はまず、母子健康手帳などで風疹を含むワクチンの接種歴を確認し、接種記録がない、または1回しかない場合は、すぐに予防接種や抗体検査を受けることが大切です」と訴える。

 
 

 また、妊娠中の女性は風疹ワクチンを接種することができないので、妊娠の可能性がある女性はただちに抗体検査を受け、抗体が足りない場合は、家族や職場の同僚に予防接種を受けてもらい、妊娠20週ごろまでは人混みを避けることが必要だ。

20~30代で1回か、全く接種していない人もいる

 ではなぜ、風疹予防接種を受ける制度のあった20~30代にも感染が広がっているのだろうか。

 現在は2回、1歳と小学校入学前に病院で個別接種を受ける。しかし90年4月2日より前に生まれた人は、公的な風疹ワクチンの接種機会があっても1回しかなかった。

 さらに集団接種から個別接種に変わったり、中学生で接種する経過措置があったりしたため、その1回も接種していない人がいる。多屋さんは「自分が必要な回数の接種を受けているか、“記憶”ではなく必ず母子健康手帳などの“記録”で確認してほしい」と話す。

 多屋さんはまた「もし妊娠中に『風疹にかかったかもしれない』と不安を感じたら、受診する前に、まずかかりつけの産科医に電話で相談してください。全国に産科医のための各地区ブロック相談窓口も作られています」と話した。

マイクを手に「風疹を必ず排除してください」と涙ながらに訴える「風疹をなくそうの会『hand in hand』」共同代表の可児佳代さん(手前右から2人目)=中村好見撮影
マイクを手に「風疹を必ず排除してください」と涙ながらに訴える「風疹をなくそうの会『hand in hand』」共同代表の可児佳代さん(手前右から2人目)=中村好見撮影

 妊娠中に風疹に感染し、先天性風疹症候群の娘を18歳で亡くした「風疹をなくそうの会『hand in hand』」の共同代表、可児佳代さんは「もしも赤ちゃんに先天性風疹症候群の可能性があったら、1人で悩まないで私たちに連絡してください。元気に育っているお子さんもいますし、たとえ障害があっても子どもたちの笑顔はすばらしいです。可能性を信じてほしい」と呼びかけている。

 「お母さんは『なせ感染を防げなかったのか』と自分を責めます。中絶を選択した人は誰にも話せず苦しんでいます。そんなつらい思いをもう誰にもさせたくない。風疹が流行しない社会にして、未来の命を守りたい。ワクチンで防ぐことができる病気なのですから」

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中村好見

毎日新聞 医療プレミア編集部

なかむら・よしみ 1984年生まれ。2008年に毎日新聞社へ入社、高松支局、和歌山支局を経て15年から医療プレミア編集部。幼少時に家族がくも膜下出血で倒れた経験から、医療とそれを取り巻く社会問題に興味を持つ。関心のあるテーマは公衆衛生、根拠と語りに基づく医療など。twitter:@yoshimi_nakamu