医療プレミア特集

丸山氏問題発言で考える「人はなぜ酒乱になるのか」

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記者団に北方領土をめぐる自身の発言などについて語る丸山穂高衆院議員=国会
記者団に北方領土をめぐる自身の発言などについて語る丸山穂高衆院議員=国会

 北方四島ビザなし交流で国後島を訪れた丸山穂高衆院議員が宿泊先で、北方領土問題の解決に「戦争」を持ち出す発言をした問題。当時酒を飲んでいた丸山氏は、大声で騒いだり、夜間に外出を試みたりしたが、翌朝には謝罪している。人はなぜ、酔うと常識外れの言動に及ぶ「酒乱」になるのか。「酒乱になる人、ならない人」(2003年)の著者で脳神経内科医の真先敏弘・帝京科学大教授に、そのメカニズムや注意点を聞いた。【毎日新聞統合デジタル取材センター・和田浩幸】

「戦争」発言だけでなく、迷惑行為も

 まず、国後島での経緯を振り返っておきたい。

 丸山氏は5月11日夜、ロシア人の家庭を訪問して飲酒した後、宿泊先の「友好の家」(通称・ムネオハウス)でも酒を飲み、ビザなし交流の訪問団長を務める元国後島民の男性に北方領土問題について「戦争しないとどうしようもなくないですか」などと言い放った。

 また、北方領土はロシアが実効支配しており、不測の事態を避けるため訪問団は夜間の外出を自粛している。だが、ビザなし交流に職員を派遣した内閣府や外務省の衆院議院運営委員会への報告によると、丸山氏は卑わいな発言を繰り返して外出しようとしたり、自室に戻るよう促した同行者ともみ合いになったりしたという。

 一夜明けた12日、丸山氏は訪問団員の抗議を受けて2回にわたって謝罪した。「戦争」発言を撤回し、14日には所属先の日本維新の会に離党届を出したものの受理されず、「(発言は)非常識極まりない」として除名処分。「酒に酔っていた」では済まされない事態に発展してしまった。

衆院の大島理森議長(右から5人目)らに丸山穂高議員の辞職などを求める抗議決議を提出する北海道根室市議たち=国会内で2019年5月31日、川田雅浩撮影
衆院の大島理森議長(右から5人目)らに丸山穂高議員の辞職などを求める抗議決議を提出する北海道根室市議たち=国会内で2019年5月31日、川田雅浩撮影

「酒を飲むと、理性をつかさどる大脳新皮質がまひする」

 丸山氏の国会議員としての資質はさておき、いわゆる「酒乱」とはどういう状態を指すのか。真先さんは「酒の主成分であるエタノールによって大脳皮質がまひし、社会的な規範を逸脱する言動が出ている状態、またはそういった状態にしばしば陥る人」と定義する。

 エタノールは、摂取後1~2時間で70%が小腸から、30%が胃から吸収され、血液を通って全身に行き渡る。大脳の神経細胞にも入り込み、まずは理性をつかさどる新皮質の働きをまひさせるという。

 「新皮質の働きがまひすると、感情や欲望などをつかさどる旧皮質や古皮質が新皮質の抑制から解放される。時間とともに眠くなるのは大脳全体の活動が抑制された結果と考えられます」(真先さん)

血中アルコール濃度の急上昇が酒乱の原因

 では、しばしば酒乱になる人と絶対にならない人がいるのはなぜなのか。

 実は、酒乱になる原因は酒の量ではなく、血中アルコール濃度の急上昇にある。同じ量を飲んでいるのに、濃度が急上昇する人とそうでない人がいるのは個々人が持つ遺伝子が関係しているのではないかと考えられるという。真先さんは、十数人の医師仲間の遺伝子を調べ、次のような仮説を導き出している。

酒乱について語る真先敏弘・帝京科学大教授=東京都足立区の同大で2019年5月29日、和田浩幸撮影
酒乱について語る真先敏弘・帝京科学大教授=東京都足立区の同大で2019年5月29日、和田浩幸撮影

 まず、体内に吸収されたエタノールは、アルコール脱水素酵素(ADH)の働きで有毒なアセトアルデヒドに分解される。アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きで無害な酢酸に分解されていく。

日本人の半数に「下戸遺伝子」

 ALDHにはアセトアルデヒドの分解速度が速い遺伝子と遅い遺伝子があり、両親から一つずつ受け継ぐ形で、速い遺伝子を二つ持つ人▽速い遺伝子と遅い遺伝子を一つずつ持つ人▽遅い遺伝子を二つ持つ人――の3種類に分かれる。

 分解速度が遅い遺伝子を「下戸遺伝子」と呼び、二つ持っている人はすぐに気持ち悪くなるため一滴も飲めない下戸タイプになる。一つの人は多少飲めるが、顔が赤くなり、量を飲めないタイプだ。「下戸遺伝子が一つでもあれば、基本的に酒乱にならないと考えられ、日本人の半数が該当します」(真先さん)

5~6人に1人は酒乱になりやすい

 ADHも、エタノールの分解速度が速い遺伝子「酒豪遺伝子」と、遅い遺伝子「酒乱遺伝子」があり、同様に二つの組み合わせで3種類に分かれる。下戸遺伝子を一つも持たず、酒豪遺伝子を二つ持つ人は、血中アルコール濃度が急上昇しないため、落ち着いて飲み続けられる酒豪タイプとなる。

 
 

 一方、下戸遺伝子を持たず、酒乱遺伝子を二つ持つ人は最も酒乱になる可能性が高い。酒乱になるには血中アルコール濃度が0・2%を超える必要があるが、分解速度が遅く濃度が急上昇するためだ。下戸遺伝子を持たず、酒乱遺伝子が一つの人は酒豪タイプと酒乱タイプの中間的な飲み方をする傾向がある。

 下戸遺伝子がなく、酒乱遺伝子を一つ以上持つ人は全体の2割弱に上るため、日本人の5~6人に1人は酒乱になりやすい計算だ。

「酒乱は遺伝子に支配されている」

 真先さんは「実は私も酒乱遺伝子が二つある典型的な酒乱タイプで、過去に何度も失敗しています」と打ち明ける。「一度酒を飲んで盛り上がってしまうと、自分をコントロールすることが難しい。酒乱になるかどうかは、その人の性格やストレスが多い環境なども影響していると考えられますが、遺伝子に支配されていることは間違いない。そのため、粗相をしてはならない宴会であれば、酒量を控えるなど意識して酒乱にならないようにしています」

 遺伝子のタイプは専門の病院などで調べられるが、簡単な方法である程度見分けることもできる。まず、酒が飲める体質かを調べる「アルコールパッチテスト」をして皮膚が赤くなれば、下戸遺伝子を一つ以上持っていることになる。また、記憶を失う「ブラックアウト」は血中アルコール濃度が上がると起きるため、何度も経験があれば酒乱遺伝子を持っている可能性が高いという。

 一方、下戸遺伝子がなく、酒豪遺伝子が二つの人も安心はできない。エタノールを長時間にわたって摂取し続けられるため、アルコール依存症になる危険性があるためだ。

記憶を失う「ブラックアウト」の経験が何度もある人は要注意=ゲッティ
記憶を失う「ブラックアウト」の経験が何度もある人は要注意=ゲッティ

注意点は「ゆっくり飲む、ブラックアウトを起こさない……」

 下戸遺伝子と酒乱遺伝子は日本人を含む一部のアジア人などにしかないため、世界的に酒乱に関する研究はほとんどない。しかし、「欧米では酔って醜態をさらすことはマナー違反とされていますが、日本では宴会で騒ぐことが社会的にある程度許容されている。統計的根拠はありませんが、遺伝的な要因と社会的な背景を考えれば日本人に酒乱が多いのは確かでしょう。ただ、酒乱の傾向にある人は飲めばそうなることが予測でき、予防もできるのだから、相手の立場や場所をわきまえずにやりたい放題するのは許されません」(真先さん)

 丸山氏も「戦争」発言について、記者団に「自分のキャパシティー(許容量)をうまく制御できなかった。飲み過ぎになってしまったのではないか」と釈明している。

 真先さんは「人のことは言えませんが、医師の立場で言えば」と前置きし、酒はゆっくり飲む▽ブラックアウトを起こす酒量を経験から割り出し、それを超えない▽必ずつまみを食べる▽昼夜とも飲まない、深酒をしない▽仲間と外に出るときだけ飲む――ことを心がけるよう呼び掛けている。

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