実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

HIVは「薬で抑えていればうつらない」が今の常識

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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効果的な治療を続けていれば感染しないことが「HIVの新常識」だと啓発するマークとキャッチコピー(U=Uジャパンプロジェクト提供)
効果的な治療を続けていれば感染しないことが「HIVの新常識」だと啓発するマークとキャッチコピー(U=Uジャパンプロジェクト提供)

 今回は、世界的には当然のことなのに、日本ではあまり知られていないHIV(エイズウイルス)の新しい二つの“常識”について述べたいと思います。HIVに関しては、我々医療者にとっては当然のことだけれども、一般の方に話すと驚かれることがたくさんあります。今回はその中で私が特に世間に訴えたい二つを取り上げます。一つは「U=U」という言葉で象徴される、HIVが昔に比べてはるかにうつりにくくなった現状。もう一つは「PrEP(暴露前予防)」及び「PEP(暴露後予防)」です。どちらもアルファベットで、なじみのない言葉かもしれませんが、大切なことなのでじっくり説明します。

 過去の記事(「HIV感染者の内定取り消しで問う『医療者の姿勢』」)で紹介した「札幌HIV陽性ソーシャルワーカー内定取り消し事件」は、大方の予想どおり原告側が勝訴しました。つまり、病院に就職が内定していたHIV陽性の男性に対し、病院が内定を取り消したのは、違法だと認定されたのです。これは医療の「常識」に照らし合わせて考えれば当然すぎる結論であり、だからこそ私は先述のコラムで「病院側は裁判を進めるのではなく直ちに原告に謝罪し和解交渉をすべきだ」と提言したのです。

 では判決後に、病院は原告に謝罪したのかというと、そうはせず「自分たちは正しい」という姿勢を崩していません。かといって控訴もせずに、病院を運営する「北海道社会事業協会」のウェブサイトに”釈明”を表明しました。これが「論理のすり替え」にしか見えないのは私だけではないでしょう。少し抜粋してみます。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト