ギャンブル依存症と闘う

「やめようとしてもやめられない」

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ギャンブル依存症患者の家族らのための無料セミナーで、依存症の実態を話す三宅隆之さん=大阪市内で
ギャンブル依存症患者の家族らのための無料セミナーで、依存症の実態を話す三宅隆之さん=大阪市内で

 「一日何十万円もの金を持ち歩くようになって、金銭感覚がぶっ壊れた。勝つと頭がしびれた感じになって、ふわふわした安堵(あんど)感があった」。大阪湾を見渡すビルの一室。ギャンブル依存症患者の家族ら50人ほどを前に話すのは、インターネットカジノにはまっていた男性(28)だ。色白でいたずらっ子のような大きな瞳、短く刈った髪を立て、ジーンズに短めのジャケットを羽織った今風のイケメンだ。「勝った快感が忘れられず、総額で1000万円ほど借金してしまった」。マイクを手にこともなげに言う男性を、家族らは真剣な表情で見つめた。

 大阪府・市が、カジノを含む統合型リゾート(IR)を計画する大阪市の夢洲(ゆめしま)。ギャンブルなどの依存症回復支援に取り組む民間団体「ワンネスグループ」の相談所は、その地域に隣接している。男性が話していたのは、同会が依存症患者の家族のために開いた無料セミナーだ。

 男性はワンネスの施設に入所し、入所者同士が体験を語り合うなど依存症から回復するためのプログラムを受けている。「ギャンブルのほかに、大麻やコカイン、脱法ハーブなんかもやった。仕事は繁華街での客の呼び込みぐらい。後ろめたいことばかりだったので、両親に聞かれるのがつらくて、なるべく関わらないようにしていた」とギャンブルにのめり込んでいたころを振り返る。

 「借金がどうしようもなくなって、やっと両親に打ち明けたら、『弁護士さんに相談する』と言われ、家で待っていたら、スタッフが来て施設に入る羽目になった」とおどけた調子で話す。真剣な表情で身じろぎもせず聞く人や何度もうなずく人。そして「うちと同じ」と感じるのだろうか、時には失笑も漏れた。

ギャンブル依存症が疑われる国内の成人 約320万人

 厚生労働省が2017年に発表した調査では、ギャンブル依存症が疑われる国内の成人は3.6%で推計320万人に上る。仏の1.2%、独の0.2%などに比べて高い。うち、パチンコやパチスロへの依存の疑いがある人は8割を占め、複数の民間支援団体によると、パチンコ依存症患者のほぼ全員が100万円から1000万円程度の多重債務に陥っているという。

 「ワンネスグループ」の三宅隆之共同代表(45)は8年前、ギャンブル依存症に特化した施設を開設。これまで2000人以上の相談に乗り、約260人の依存症患者を施設に受け入れた。施設を退所して半年後の調査では、患者の7割は回復したという。活動が評価され、大阪府・市のギャンブル等依存症対策研究会専門委員を務めるほか、高校やカジノの専門スクールを回り、ギャンブル依存症の実態を伝える活動をしている。そして、三宅さん自身もこの依存症に苦しんだ一人だ。

ワンネスグループの相談所を訪れたギャンブル依存症患者の家族やパートナーらに依存症について説明する三宅さん(奥中央)=横浜市内で
ワンネスグループの相談所を訪れたギャンブル依存症患者の家族やパートナーらに依存症について説明する三宅さん(奥中央)=横浜市内で

 三宅さんは「だらしがない、意思が弱いだけ、と思われがちだが、やめようとしてもやめられないのが依存症」と表現する。自らの体験から「依存症患者はギャンブルで借金しているのは恥ずかしいと思い、うそをついて家族に金をせびる。だから周囲は問題が深刻になるまで気づけない。家族は家族で『ギャンブルで借金したなんて家の恥』と思い、周囲に相談できない。借金が膨らみ、窃盗や傷害、殺人などの犯罪に手を染めることもある。自殺をする人もいる」と話す。そして「かつて借金の返済ができなくて苦しんでいた時、私も『あの高齢夫婦を殺して金取っても分からないんじゃないか』と考えてしまったことがあった」と、その深刻さを訴える。

 日本では、すでにパチンコなどの依存症による多重債務に苦しむ人が数多くいて、自分が依存症と気づいていない人たちもいる。複数の地方自治体がIR誘致に名乗りをあげる一方で、カジノによって、ギャンブル依存症患者が増えるのではないかという懸念が広まっている。【和田明美、写真も】

 三宅さんらのこれまでの体験から、ギャンブル依存症の実態と依存症から脱却し回復するまでの道のりを5回にわたって報告する。次回は、ギャンブル依存症だった三宅さんが、自身の壮絶な過去を振り返る。