医療プレミア特集

「親子の幸福論」を語り合う 読者交流イベント

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毎日メディアカフェイベントの「『定時で帰ります』が守る子供の心と体〜親子の幸福論〜」で、参加者と語り合う可知さん(左)と天野さん
毎日メディアカフェイベントの「『定時で帰ります』が守る子供の心と体〜親子の幸福論〜」で、参加者と語り合う可知さん(左)と天野さん

 「『定時で帰ります』が守る子供の心と体~親子の幸福論~」が26日、毎日メディアカフェで開催されました。毎日新聞ニュースサイトの「医療プレミア」でコラム「“子ども食堂”の時代-親と子のSOS-」を連載している北里大医学部の可知悠子講師と、子育て当事者の声を集め、国などに対して提言している「みらい子育て全国ネットワーク」(みらこ)の天野妙代表が語り合いました。

 可知さんは東京大大学院医学系研究科博士課程修了。2006年から10年間、臨床心理士として子どもや女性のカウンセリングにあたり、帝京大医学部衛生学公衆衛生学講座助教、日本医科大衛生学公衆衛生学教室助教を経て、18年4月から北里大医学部公衆衛生学単位講師。共著に「子どもの貧困と食格差~お腹いっぱい食べさせたい」(大月書店)。自身も3歳児の子育て中。労働者とその子どもの健康の社会格差をテーマに研究しています。

 天野さんは1997年、日本大学理工学部建築学科卒。建設不動産業界でコンサルタントとして活動し、2016年、妊娠9カ月で女性活躍推進のコンサルティング会社「Respect each other」を設立。17年1月、第3子出産後に「みらい子育て全国ネットワーク」(みらこ)の前身である「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」を設立。「#保育園に入りたい」の発起人として知られています。現在は、子育てしやすい社会の実現に向けて「待機児童ゼロ」「男の家庭進出」「子育て政策聞いてみた」などのプロジェクトを推進しています。3人の女児を持つワーキングマザーでもあります。以下は、イベントの抄録です。

福岡市から参加の読者も

 親の長時間労働と子どもの健康への影響については、欧米で盛んに研究されています。長時間労働が子どもの健康や発達に悪影響を及ぼすとすると、労働条件の見直しが必要になると考えられるからです。ワーク・ライフ・バランス施策を充実させ、「親の定時退社」などへの理解を深めるには、どうすればいいのか。可知さんと天野さんが登壇し、福岡市から参加した読者らと議論を深めました。 

 はじめに、天野さんは「3人の母親、Respect each other社長、みらこ代表の三つの顔を持つアラフォー女性です。会社は女性活躍推進法施行に伴うコンサルティング業務や講義、講演、研修などをしています」と自己紹介し、「現在地を知る」クイズを出しました。

 
 

男性の育休取得率は? 

Q1 共働きと専業主婦世帯どっちが多い? 答えは「共働き世帯」。専業主婦の2倍近くあります。

Q2 女性の30~35歳の就労率は? 女性の就労率は約70%。70年には約44%でした。

Q3 第1子出産時に退職する女性の割合は? 第1子出産時に退職する割合は50%。 「働き続けているイメージがありますが、意外に少ないです」とコメントしました。

Q4 「生涯正社員」と「出産時退職」で生涯賃金の差額はいくら? *生涯正社員の設定は係長まで。管理職(課長職)にならない場合と想定。 何と2億円です。

Q5 全く育児参加しない夫(ゼロコミット男子)は何割? *6歳児未満の未就学児がいる家庭の夫 実に7割です。 「子育て世代の日本男子は、家事も子育てもしないのが主流です。がっかりしますよね。妻が働いていても働いていなくても、何もしないのです。日本男児、頼みますよ!」ときついコメント。

Q6 男性の育児休業取得率、日本は何パーセント? 6.16%と、極めて低い数字です。

Q7 「平均寿命-健康寿命」の差は、男性は80.98歳-72.14歳=8.84歳。では女性は男性より高いか低いか? 女性の場合、健康寿命87.14歳-74.79歳=12.45歳で、男性よりも長くなっています。

Q8 正社員男性の賃金を100としたら、非正規女性はどれぐらい? 54.4で、半分近い賃金です。 

 「女性のほうが睡眠時間が少ないという調査があります。低賃金で睡眠不足の女性たちなのです」 世界経済フォーラム(WEF)が発表する「ジェンダーギャップ指数」(GGGI:The Global Gender Gap Index)」という男女格差を測る指数があります。経済活動や政治への参画度、教育水準、出生率や健康寿命などから算出されます。「16年は144カ国中、日本は110位。11年の98位から年々順位を落としています。衆議院議員の女性議員・女性閣僚の数が少ない、女性の所得が低い、企業での女性上級管理職・役員が少ない、専門的な職業(弁護士・医師など)の女性が少ないことなどが低い原因です。世界1位はアイスランド(GGGIスコア0.858。スコア1.0が男女平等)です。このまま推移すると、日本が今のアイスランドと同じになるのに、あと138年かかる計算になります。男女が平等になるには、さらに100年かかります。アイスランドは45年に男女平等に達すると考えられます」

 ここでブレークタイムに入りました。参加者は、周囲の3、4人で「Q1~Q8のどれに一番ショックだったか」について話し合いました。「健康寿命です。女性のほうが元気かなと思っていました」「育児参加率です」「ゼロコミ男子です」「男女平等でアイスランドには絶対追いつけないという絶望感です」などの感想がありました。ゼロコミ男子を挙げる人が多くいました。

 
 

「心と体の健康をむしばむのは孤立」

 続いて、可知さんが話しました。「私の専門は社会疫学で、健康の社会的決定因子を研究する分野です。特に、社会、経済、政治、環境的な条件が健康に与える影響に着目するマクロな視点からの研究をしています。研究テーマは働く世代とその子どもの健康の社会格差です。臨床心理士としても活動していました。渋谷区のスクールカウンセラー、練馬区男女共同参画センターでのカウンセリング、東京都こころの電話相談の相談員などの活動を通じて、心と体の健康をむしばむのは孤立だと感じました」

 「健康でありたいと誰もが願いますが、本人の努力でかなう部分とそうでない部分があります。私たちの健康は個人の生活習慣のようなミクロな要因だけでなく、よりマクロな社会のありようと密接にかかわっています。不健康なのは、自分の選択だけでなく、社会環境も影響しているということです。社会の枠組みから、親の働き方と親子の健康や幸福について、エビデンスを交えながら考えてみたいと思います」。可知さんはこう話し、数々の研究、調査結果を紹介しました。

 「女性の就労率が向上していると言われていますが、母親の正社員割合はどのくらいでしょうか。約2割です。意外に少ないと思いませんか。過去15年間で母親の正社員は大きく増えていない。女性労働者が増えたというのは、パートのことです。女性では初職から非正規というパターンも少なくないのですが、結婚前までは6割以上が正規雇用で働いています。結婚後は4割になり、第1子出産後には2割まで減っていきます。正社員とは①無期雇用②フルタイム③直接雇用--の3条件を満たしているものと定義されます。それだけでなく、職務、勤務地、労働時間が限定されないことが特徴です。基本的に正社員は人事異動や転勤を断ることはできません。企業が広い人事権を持つ代わりに、正社員は雇用が保障されています」

 
 

父親の半分が「残業」

 「東京都子どもの生活実態調査(17年)によると、子どもの両親がともに正社員という比率は十数%で、実は多くない。父親の5割が残業しています。父親の2割強と母親の1割弱に夜勤経験があります。長時間労働はデータがありすぎるほどです。長時間労働は生活習慣の悪化につながり、心血管疾患、うつ病などにつながる恐れがあります。男性の非正規労働者は正規労働者に比べて、うつ・不安障害発症が2倍になるというデータが発表されています。非正規でいることがつらいということの表れだと思います。一方、既婚女性では正社員のほうが主観的健康感が悪い。これはワーク・ライフ・バランスの悪さが要因だと考えられます。女性の中にはハンディキャップを抱えつつも、男性並みにばりばり働けている方もいます。しかし、『職位が高い女性は努力が報われないことで、ストレスを感じている』ということを示す研究があります。私の研究では、子どものいる男性は雇用が不安定化するとストレスが高く、子どものいる女性は、雇用が安定化すると、むしろストレスが発生するという結果でした。求められる責任と労働時間が増えるからだと考えられます。女性が非正規雇用で家計を担って、子どもを一人で育てる場合は特に大変です。非正規雇用のシングルマザーは、他のタイプの世帯に住む女性労働者と比べて健康状態が悪い傾向にありました」

 「あなたは幸せだと思っていますか。それとも、不幸だと思っていますか」を尋ね、とても幸せ(5点)からとても不幸せ(1点)の5段階で答えてもらった研究があります(佐藤一磨氏「専業主婦が本当に一番幸せなのか」)。専業主婦が最も高い数値でした。「海外ではフルタイムと専業主婦の間に差がない」とのことです。

 「子育ての現状をみると、家事時間は効率化により減少し、育児時間は増加しています。親による体罰は減っています。東京都は子どもへの体罰を禁止する条例ができました。子どもの健康に影響する親の働き方とは何か。両親の帰宅時間が遅いと、子どもの心理・行動上の問題が多くなるという研究報告があります。親子のコミュニケーションが少なくなるためだと考えられます。中学生では母親の残業・夜勤(午後8~10時)、1人での夕食が問題行動と関連しています。母親が残業していると、夕食にコンビニのおにぎり・弁当の頻度が多くなります。母親が残業していると子どもの肥満が多い傾向もあります。何も、母親を責めたいわけではありません。父親が子育てや家事にコミットしていないので、父親の影響がデータに表れないのです。午後5~10時を『生活コアタイム』(育児・介護に不可欠な時間)とし、新たな価値を付与するよう提言する『かえせ☆生活時間プロジェクト』という動きが出ています」

 
 

 この後、再び参加者同士が話し合いました。「ヘルパーなどの活用で、夫婦だけの子育てにしない」「長時間労働を是正して、固定概念、古い価値観をリリースする。家事、育児をフィフティーフィフティーにするのが理想です」「働き方の選択肢がもっとあるといいと思いました」といった意見が出ました。 最後に、天野さんは「同一労働同一賃金の考え方は重要です。仕事を8時間することが本当に必要なのかは問い直す必要があります」、可知さんは「限定正社員など、働き方を多様化してほしい。『わたし、定時に帰ります』の主人公のように、自分が大事にしたいものをよく考え、定時に帰る必要があると思えば、その覚悟を決めることが大事だと思います。その人が何を大事にしたいか。最後は個人の覚悟だと思います」と語りました。【構成・斗ケ沢秀俊】