環境と健康の深い関係

殺虫剤「ネオニコ」 国の安全基準の信頼性は

遠山千春・東京大学名誉教授(環境保健医学)
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ホウレンソウとベーコン炒め
ホウレンソウとベーコン炒め

 これまで2回にわたって「ネオニコチノイド系殺虫剤(ネオニコ)の有害作用は、ミツバチなどの益虫や、広く生態系(トンボ、ウナギとワカサギ、渡り鳥など)に及んでいること」、「安全基準を決める根拠となった量よりも微量のネオニコで、実験動物の脳機能に悪影響が出ていること」、「ネオニコが人の体内に蓄積していること」を記しました。国が「現行の安全基準で人の健康へのリスクはない」と考えるのなら、その根拠をていねいに、農業経営者や消費者などに伝えて理解を得ることが必要です。今回は、ネオニコの残留農薬基準の問題を取り上げ、国が定める基準の信頼性を高めるために必要な問題を論じます。

 農薬を体内に取り込んでも、わずかな量なら健康を損ないません。ではどの程度の量までなら大丈夫でしょうか。その限度を示すのが「一日許容摂取量(ADI)」です。この値は「一生の間、毎日、体内に取り込んでも健康に影響が出ないとみなせる量」として、内閣府の食品安全委員会が、動物実験などに基づいて決めています。ただしADIを決めるだけでは食べ物の安全を保証できません。私たちは毎日、さまざまな食べ物から農薬を体内に取り込んでいるので、その合計がADIを超えないようにする必要があります。

 そこで個別の食べ物ごとに「農薬がどれだけ含まれても許容できるか」の基準が必要になります。これが「残留農薬基準」です。この基準は、「基準値以下の食べ物だけを食べれば、体内に入る農薬の量がADIの8割を超えることはない」ように設定されています。ADIという制限を、さらに8割にして、安全にゆとりを持たせるわけです。

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遠山千春

東京大学名誉教授(環境保健医学)

とおやま・ちはる 1950年、東京都出身。東京大学医学部保健学科卒、ロチェスター大学大学院修了。筑波大学、北京大学、中国医科大学の客員教授。医学博士、Ph.D。国立公害研究所(現・国立環境研究所)領域長、東京大学医学系研究科疾患生命工学センター教授を経て、2015年4月より「健康環境科学技術 国際コンサルティング(HESTIC)」主幹。世界保健機関、内閣府食品安全委員会、環境省などの専門委員、日本衛生学会理事長、日本毒性学会理事、日本医学会連合理事などを歴任。