実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナも風邪も「軽症なら自宅療養を」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 今月25日、政府が「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を公表しました。この方針は「今後」としながらも、従来の厚生労働省の方針と異なり「風邪症状が軽度である場合は、自宅での安静・療養を原則とし、状態が変化した場合に、相談センターまたはかかりつけ医に相談した上で受診する」としています。我々開業医の立場からすればこの方針は非常に分かりやすく、また現実に即したものです。今回は、この方針により新型コロナウイルスへの対策がどのように変わるのかについて、一般の人の立場からみたポイントを述べたいと思います。

 新型コロナウイルスが流行し出した1月末には、中国・湖北省などの流行地を訪れた人や、流行地を訪れた人に濃厚接触した人で、しかも発熱と呼吸器症状がある人が「帰国者・接触者相談センター」(以下、単に「センター」とします)に連絡をする、というのがルールでした。

 この方針は2月17日の厚労相の記者会見で大きく変わりました。新しいルールでは「風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続いている」なら、流行地とは何の縁もなくても、まずセンターに連絡しなければならなくなったのです。

 このルールは患者さんを混乱させました。風邪の症状が4日続く人などいくらでもいるわけで、花粉症でも鼻水と微熱が続くことがあります。「なんでこんな症状で、海外渡航もしていなければ渡航者と接してもいないのに、いつものようにかかりつけ医を受診する前に(センターに)電話しなければならないの?」という声が多数上がっていました。「センターの人も面倒くさそうな対応でしたよ」と話す患者さんもいました。

「かかりつけ医への相談」でOK

 そんな中、25日の基本方針の発表で「(今後、相談するのは)センターまたはかかりつけ医」とされました。「今後」がいつからかはっきりしませんが、太融寺町谷口医院ではすでに新しい対応を開始しています。電話やメールで相談を受け、新型コロナを疑うべき患者さんだと考えた場合は、谷口医院からセンターに問い合わせるのです。相談してきた人を日ごろから診察し健康状態をよく知っているかかりつけ医が、その人を知らないセンターの職員より的確な判断ができるのは当然です(編集部が厚労省に確認すると「『今後』は患者が大きく増えた場合を意味し、今はまだ全国的には『今後』ではない。しかし谷口医院のような対応は現在でも望ましい」ということでした)。

 「基本方針」のもう一つのポイントは、やはり今後、「風邪症状が軽度である場合は、自宅での安静・療養を原則」としていることです。なぜ「自宅で」なのか。理由は二つあります。そしてその二つの理由はきちんと理解しておかねばなりません。

軽症なら受診しない方が「早く治りそう」

 一つめの理由は「自分自身のため」です。つまり軽症の場合は、医療機関を受診するよりも自宅で安静にしている方が、結果として早く治る可能性が高く、自身にとって有益です。風邪症状の原因が、今ならまだほとんどの場合を占めるはずの「普通の風邪」でも、少ないと思われる新型コロナウイルス感染でも同じことです。

 そしてそもそも新型コロナウイルスには(「普通の風邪」にもですが)このウイルスだけに対応した特別な治療法がありません。当初期待された抗HIV(エイズウイルス)薬である「カレトラ」は、使用したのに救命できなかった事例が報告されています。期待されている新型インフルエンザ用の備蓄薬「アビガン」は副作用が心配され、現時点では重症例にしか使用されません。

「新型インフルエンザ」が流行していた当時の混雑する病院の外来待合室=2009年11月
「新型インフルエンザ」が流行していた当時の混雑する病院の外来待合室=2009年11月

 また、前回のコラム「新型コロナ 心配でも検査してもらえないわけ」で述べたように、軽症の患者は新型コロナウイルスの検査を受けられません。現行の、精度の高い「PCR法」という検査はまだ限られた施設でしかできません。今後、一般の医療機関で実施できるようになっても結果が出るまでに少なくとも丸1日はかかります。簡単に検査ができる簡易検査キットの登場が期待されていますが、これが登場しても、やはり前回のコラムで述べたように、精度はPCRに比べて大きく劣るでしょう。

病院で新型コロナに感染リスク

 一方で、医療機関を受診すると他人と接する機会が増え、院内感染させられるリスクがあります。つまり、あなたが「新型コロナかな」と心配して受診したところ、実際には単なる風邪だったのに、病院の待合室で新型コロナ(あるいはインフルエンザなど他の病気)をうつされた、という冗談ごとでは済まない事態も起こり得るわけです。

 病院の待合室で感染させられることなどあってはならないではないか!という声もあるでしょう。しかし、新型コロナウイルスが、軽症者(ときには無症状者)からも感染する可能性があることはもはや自明で、こうなるといくら医療者や医療機関が細心の注意を払ったとしても完全に感染を防ぐことは困難です。

船内から新型コロナウイルスの感染者が多発したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」=横浜市鶴見区で2020年2月22日、横浜港で本社ヘリから
船内から新型コロナウイルスの感染者が多発したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」=横浜市鶴見区で2020年2月22日、横浜港で本社ヘリから

 ここで、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の事例を考えてみましょう。船内からは700人を超える感染者が出て死亡例も出ています。検疫官や、災害派遣医療チーム(DMAT)として派遣された医師も感染したことが報道されています。さらに検査していない乗客を下船させたことも明らかになっていますから、現場の医師や検疫官の責任は検証されなければなりません。

 しかしながら、船内で最も権限を持っているのは外国籍の船長で、日本の当局の考える通りには物事を進めにくかったことが指摘されています。また過去のコラム「新型コロナウイルス 元気でも『隔離』の覚悟を」で述べたように、病棟と船内では構造も違いますから感染予防を徹底するのは困難です。感染症対策にたけた医療者も業務を担っており、現場の関係者は最大限の努力をしたと私は思っています。

 ただ、私が言いたいのは「精いっぱいがんばったんだから関係者を悪く言わないで」ということではありません。「新型コロナの感染力は強いので『十分な対策をとったはずなのに感染を防げない』ことはこれからもあり得る」と主張したいのです。

 一般に、何か好ましくないことが起こったときには“犯人”を見つければすっきりします。だから「政府が悪い」「医師が知識不足」などといった意見がでてきます。「優秀な人間が担当すれば同じことが起こらない」と思えて安心できるのです。けれどもその安心は幻想に過ぎず、現実には“犯人”をみつけても将来が安泰にはなりません。

 話を戻します。結局、新型コロナウイルス感染を疑っても、軽症である場合、医療機関の受診にはほとんど意味がありません。治療薬はなくて検査もできない。おまけに人混みに出ることで新たに感染するリスクもあるわけですから。

 なお、自宅療養すべきかどうか迷ったときは、その時点でかかりつけ医に相談するのがいいでしょう。風邪を引くと高確率で細菌性へんとう炎を併発する人や、ぜんそくのようなせきが出て夜間眠れなくなる人もいます。こうした場合、新型コロナウイルスの「受診・相談の目安」にこだわって4日も待つ必要はありません。「気になることがあれば気軽に相談」でよく、新型コロナだからといって特別に気を使う必要はありません。

家にいれば「うつしにくい」

 軽症なら自宅療養すべきであるもう一つの理由は「他人のため」です。つまり、あなたが新型コロナウイルスに感染していたときに、他人にうつす可能性を最小限に抑えるためです。医学誌「The New England Journal of Medicine」に掲載された論文「SARS-CoV-2 Viral Load in Upper Respiratory Specimens of  Infected Patients(新型コロナウイルス感染者の上気道のウイルス量)」によると、症状がない人から検出されたウイルスの量は、発症者のウイルスの量と同じ程度でした。つまり、軽症者も他人に感染させる可能性が十分にあるということです。合計11人に新型コロナウイルスを感染させた英国人の男性はごく軽症で、スキー場(あるいはその宿泊施設)でも感染させたことが英国営放送BBCで報道されています。

 感染症では、自分自身が感染しないことに加え、他人に感染させないことがとても大切です。過去のコラム「インフルのワクチンは『弱者を守るため』に打つ」で紹介したように、私自身は、麻疹、風疹、インフルエンザといった感染症のワクチンは「自分自身のためというより、小児、妊婦、高齢者といった感染すると重症化する人たちを守るために接種すべきである」と述べ、これを「利他的ワクチン」と名付けました。

 現時点で有効なワクチンのない新型コロナウイルスの場合、他人へ感染させるリスクを下げるには「他人に近づかない」ことが最重要になります。それでも例えば近所のコンビニに行かねばならないこともあるでしょう。外出時にはマスクが必要です。過去のコラム「新型コロナウイルス『単純な』情報にご用心」で述べたように、マスクで新型コロナウイルスが完全に防げるわけではなく、マスクの主目的は「せきエチケット」です。ですからマスク不足が続いている今でも、貴重なマスクは自分に風邪症状が出たときのせきエチケットとしてとっておくべきだと私は思っています。

かぜの子供を診療する医師
かぜの子供を診療する医師

家族内感染に気をつけて

 最後に自宅療養の「問題点」を指摘しておきましょう。それは「同居する家族への感染をどう防ぐか」という問題です。一番いいのは、少なくとも症状が消失するまでは家族の残りのメンバーがホテルなどに宿泊することです。しかし費用が問題ですし、もしかすると「新型コロナウイルス感染の疑いがある人の家族」というだけで宿泊を拒否するホテルもあるかもしれません。

 ではどうすればいいのか。原点に戻って、風邪症状があってもなくても家族全員がうがい・手洗いを徹底するのが最善です。谷口式鼻うがいも検討してみてください。エビデンス(証拠)はありませんが、風邪の初期なら以前のコラム「医師が勧める風邪のセルフケア6カ条」で紹介した麻黄湯を使うのも勧めます。

 結局のところ、新型コロナウイルスの最強の対策は、「うがい・手洗いなど日ごろの予防+気になることがあればかかりつけ医に相談」という通常の風邪対策となるのです。

 【ご案内】

 この記事を執筆している谷口恭医師が、2回目のミニ講演会を開きます。仮題は「新型コロナウイルス、HPV(ヒトパピローマウイルス)、本当に正しいのは何なのか?」です。

 4月23日(木)午後6時半から8時まで、大阪市北区梅田3の4の5、毎日新聞ビル2階の「毎日文化センター」で。受講料は1650円です。問い合わせは同センター(06・6346・8700)へ。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。