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新型コロナ 風邪や花粉症で差別される人たち

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
せきや発熱の症状で診察を受ける子ども=東京都港区で
せきや発熱の症状で診察を受ける子ども=東京都港区で

 「到着した電車が混んでいたら何本でも見送っています。駅のトイレで並んでいるときに、せきが出そうになれば列を離れなければなりません……」。太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)をかかりつけ医にしている40代の女性が、最近、こう嘆きました。この女性は花粉症があり、毎年この季節にはくしゃみとせきに悩まされています。内服薬と吸入薬でコントロールできているのですが、人が多いところでは他人の香水や、ほこりなどでせきが誘発されることがあります。「電車の中や人が多いところでせきをしてしまうことが恐怖なんです」と女性は言います。

 過去のコラム「新型コロナウイルス 広がるいわれなき差別」で述べたように、新型コロナに関連する差別がますます広がっています。そのコラムで述べたように、医療機関で診察拒否される事例も相次いでいます。遠方からわざわざ谷口医院に電話で相談する人もいるほどです。発熱したため、帰国者・接触者相談センターに電話して「(重症とは言えず新型コロナの検査の対象外とみなされたため、感染症中核病院でなく)近くのクリニックに行きなさい」と言われたが、行ってみるとその「近くのクリニック」では断られたというのです。

「風邪症状があるので診察できません」

 また、次のような相談もありました。ある女性の子供はアトピー性皮膚炎で、近くの皮膚科クリニックにかかっています。ところが最近、女性がいつものように子供を連れて受診したところ「子供に風邪症状があるから診察できない」と言われたというのです。そこで谷口医院を受診したいと電話がかかってきたのですが、この親子は谷口医院のある大阪府ではなく、他県に在住です。電車に乗ることが、新型コロナを含む風邪をうつされるリスクを上げることを説明し、地元の医師会に相談するよう助言しました。

感染予防か花粉症対策か、マスクをつけて道行く人々=千葉県浦安市で2020年3月
感染予防か花粉症対策か、マスクをつけて道行く人々=千葉県浦安市で2020年3月

 受診拒否だけではありません。内輪の恥をさらすようですが、医療者による医療者への不当な差別も起こっています。

 中国・武漢市から航空機で帰国した日本人や、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客乗員は、もちろん医療ケアを受けました。そのケアを行った医療者に対する、医療者による驚くべき差別が生じていることを、日本災害医学会が報告しています。

現場活動した医師を「バイ菌扱い」

 同学会によれば、「職場において『バイ菌』扱いされるなどのいじめ行為」、職場管理者から「現場活動したことに謝罪を求められる」といった、信じがたい不当な扱いを受けた事案が報告されています。同学会は「当事者たちからは悲鳴に近い悲しい報告が寄せられ、同じ医療者として看過できない行為であります。もはや人権問題ととらえるべき事態であり、強く抗議するとともに改善を求めたいと考えます」と訴えています。

 「日本集中治療医学会」は3月6~8日に開催する予定だった学術集会について「集会の2週間以内に新型肺炎症例、陽性者の対応を行った先生は学会への参加は自粛いただくようにお願いします」と学会ホームページに記載していました(集会は結局、中止になり、『自粛』の記載は現在は削除されています)。「感染した医師」ではなく「対応を行った先生」です。対応を行ってその後感冒症状が出現した、というようなことがあれば参加すべきではありません。ですが、一律に「対応を行った先生」は来るな、というのはおかしなことです。自粛すべきなのは、対応を行ったかどうかに関わらず、風邪症状のある医師です。

 あまり同業者の悪口は言いたくありませんが、日本災害医学会の声明文のように「同じ医療者として看過できない行為」が至るところで起こっているのが現実です。

「日本人」「コロナ」とからかって暴行

 医療者ですらこれが実態なわけですから、一般の人たちの間では見逃せない差別が急速に広がっていても不思議ではありません。先月は、福岡市の地下鉄でマスクをせずにせきをしたことが原因で乗客どうしが口論となり、非常通報ボタンが押されたことが報道されました。冒頭で紹介した女性は、この事例を聞いて怖くなったと言います。女性によれば、もはや「せきをしただけで犯罪者のような扱いを受けかねない」とのことです。

 過去のコラムで紹介したように、海外では日本人を含むアジア人が不当な差別を受けています。この勢いはとどまらず、ついに暴力事件も起こりました。

 中東の報道機関「Middle East Monitor」が興味深い記事を報道しました。パレスチナ人の女性が日本人女性を「コロナ、コロナ」とからかい、日本人女性がスマホでそのパレスチナ人を撮影しようとしたところ、パレスチナ人女性が逆上し日本人に襲い掛かり、暴行容疑で逮捕されました。この一連のシーンは偶然にも防犯カメラに捉えられており、同紙はこのビデオも、インターネット上の記事で公開しています。この事件を受けてパレスチナ内務省のスポークスマンは「この事件は特殊なものであり、パレスチナ人の文化や道徳を表すものではなく、また、旅人をもてなし尊重する、パレスチナ人の習慣や伝統とは異なります」とコメントしています。

 ですが、同紙によれば、イスラエルの日本大使館には、新型コロナ関連で日本人が不当な扱いを受けた事例が10件以上寄せられています。なお、暴行を受けた日本人はパレスチナ人を支援する非政府組織(NGO)の職員です。

 さて、これからも国内外での差別は続くのでしょうか。私は当分の間続くと思っています。

 上述のパレスチナ内務省の職員が言うように「旅人をもてなす」のはイスラム教の基本教義と聞きます。キリスト教では聖書の「ヘブライ人への手紙」のなかに「旅人をもてなすことを忘れてはならない」という一節があります。仏教でも、修行のための「五門」の第一である「布施門」のなかに「もし人が厄難に遭い、恐怖し、また、危険が切迫しているのを見た場合には、己れに可能な(堪任)度合に応じて、その人に無畏(むい)を与えよ(恐れや不安を取り除いてあげなさい)」とあります(「大乗起信論」=岩波文庫)。

超満員の電車=神戸市中央区の北神急行電鉄
超満員の電車=神戸市中央区の北神急行電鉄

感染症の原因を「外部に押しつける」

 ですが、これらは「伝染病を持っていない旅人」が前提となっているのが現実でしょう。おそらく、いまいましい病気は外からやってくると考えるのは人間の習性です。14世紀に欧州で大流行したペストは、ユダヤ人が持ち込んだと考えられて虐殺が繰り広げられました。梅毒は他国から入ってきたと考えられ、15世紀末から16世紀にかけてフランスではナポリ病、イタリアではフランス病、ロシアではポーランド病、ポーランドではロシア病と呼ばれていました。日本で梅毒の報告が増えたとき東京都のある区議会議員は「梅毒は中国から持ち込まれた」と発言し批判を浴びました(参考:「再考 梅毒が『急増している』本当の理由」)。

 では日本人どうしではどうでしょうか。残念ながら、こと感染症については悲観せざるをえません。ハンセン病の不当差別の元凶となっていた「らい予防法」がようやく撤廃されたのは1996年です。本連載ではB型肝炎の不当な差別(参考:「誤解だらけのB型肝炎ウイルス(5)」、HIVの就職差別(参考:「HIV感染者の内定取り消しで問う『医療者の姿勢』」)などについて取り上げました。

「絆」「ワンチーム」の精神はどこへ

 冒頭で紹介した女性の言葉を聞いたとき、私はタイのエイズ施設でボランティアをしていた頃に患者さんから聞いたエピソードを思い出しました。ある日バスに乗ろうとしたところ、他の乗客に引きずり降ろされ、さらに石を投げつけられたと言うのです。当時のタイにはこのような話がいくらでもありました(参考:「差別される病 2002年タイにて」)。しかし、その後タイではエイズに関する正しい知識が浸透し、こういった悲劇はほぼなくなりました。一方、日本では医療機関ですら今も差別がはびこっているわけです。

ラグビーのW杯で、「ワンチーム」を掲げてスコットランド戦に勝利し喜ぶ日本代表の選手たち=横浜・日産スタジアムで2019年10月13日、長谷川直亮撮影
ラグビーのW杯で、「ワンチーム」を掲げてスコットランド戦に勝利し喜ぶ日本代表の選手たち=横浜・日産スタジアムで2019年10月13日、長谷川直亮撮影

 せきをしていても安心して電車に乗れる日々は取り戻せるのでしょうか。去年の流行語「ワンチーム」、東日本大震災の年に話題となった「絆」。これらはいったい何だったのでしょう。

 【ご案内】

 この記事を執筆している谷口恭医師が、2回目のミニ講演会を開きます。仮題は「新型コロナウイルス、HPV(ヒトパピローマウイルス)、本当に正しいのは何なのか?」です。

 4月23日(木)午後6時半から8時まで、大阪市北区梅田3の4の5、毎日新聞ビル2階の「毎日文化センター」で。受講料は1650円です。問い合わせは同センター(06・6346・8700)へ。

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太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。