落石がひっきりなしにあるダウラギリ北壁をトラバースする=2019年9月29日、藤原章生撮影
落石がひっきりなしにあるダウラギリ北壁をトラバースする=2019年9月29日、藤原章生撮影

⑦危機の中ゆえの静謐

 恐怖とは何なのか。

 物心ついたころから自分とともにあり、自分の中で育ってきたこの感情、情緒、感覚は一体何なのか。突然のように来たり、じわじわ大きくなったり、その現れ方は自分でも予測がつかず、簡単にはパターン化できない。ときに差別の大いなる原動力にもなり、回を重ねることで慣れることもできるようでいて、できないような矛盾まみれの存在。

 「早く早く」と私に同行してくれるシェルパのペマさん(48)にせかされながら、私は落石が絶えないダウラギリの北壁や、雪崩の危険がある斜面を黙々と歩いた。

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藤原 章生

統合デジタル取材センター夕刊報道グループ

1989年、鉱山技師から毎日新聞記者に転職。長野、南アフリカ、メキシコ、ローマ、郡山市に駐在し現在は東京で夕刊特集ワイド面に執筆。2005年、アフリカを舞台にした本「絵はがきにされた少年」で開高健ノンフィクション賞受賞。主著に「ガルシア=マルケスに葬られた女」「資本主義の『終わりのはじまり』」「湯川博士、原爆投下を知っていたのですか」など。過去の記事はこちら→ https://mainichi.jp/search?q=%E8%97%A4%E5%8E%9F%E7%AB%A0%E7%94%9F&s=date