実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 国の最悪想定は「大幅な入院先不足」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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新型コロナウイルスの感染者が出ている「大阪京橋ライブハウスArc」=大阪市都島区で2020年3月5日、猪飼健史撮影
新型コロナウイルスの感染者が出ている「大阪京橋ライブハウスArc」=大阪市都島区で2020年3月5日、猪飼健史撮影

 過去のコラム「新型コロナ 心配でも検査してもらえないわけ」でも述べたように、新型コロナウイルスの検査は患者さんが希望しても、そして診察した医師が必要と判断してもできないのが現状です。ということは、「検査をしていないから感染者と呼べない」だけの話で、実際には感染している人はかなりの数に上るはずです。感染者と接触した人たちは、行政などに接触を把握されれば、全く症状がなくても検査を受けさせられ、一部は新たな感染者として確認されます。しかし、接触があっても把握されなければ検査はされません。それに「接触はないが、新型コロナが疑われる」と医師が判断した人でも、「基準を満たさないから」という理由で帰国者・接触者相談センター(言い換えれば各自治体の保健所)に検査を断られるケースは、いまだに少なくありません。

「濃厚接触」していそうだが検査されない人も

 例をあげましょう。国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)の50代の非常勤の看護師が新型コロナウイルス陽性であることが分かり、センターは外来診療を3日間休止しました。

 この看護師は、症状はなかったけれど検査を受けました。別の病院でも働いており、そこで対応した60代女性の患者が新型コロナウイルス陽性だったからです。ちなみにこの60代女性は、大阪市北区のライブハウスで感染したと報じられています。

 ライブハウスは感染する可能性が他の場所よりも高く、行くならマスクをすべきであることは、過去のコラム「新型コロナウイルス『単純な』情報にご用心」で述べました。報道からは、北区のライブハウスのお客がどの程度マスクをしていたのか分かりませんが、ライブハウスでは通常、ドリンクが出ますから、全員が初めから終わりまでマスクを適切に装着していたということはないでしょう。

 大阪市内には感染者が出ているライブハウスが4軒あり、大阪府は「訪れた人は無症状でも帰国者・接触者センターに相談してください」と検査を呼びかけています。しかし応じない人が多いと聞きます。感染が分かれば「隔離」され、さらには「差別」される心配もあるわけですし、時間がたてば追及されなくなるでしょうから、黙っている人が少なくないのは仕方がないことだと思います(※編集部注1)。

入院患者は大阪府だけで最悪1万5000人

 無症状でも感染者がいるという現実を考えたとき、実際の感染者がどれくらいになるのかを推測するのはほとんど不可能です。ですが、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部は3月6日に興味深い事務連絡を発表しました。仮に今後、新型コロナウイルスの感染が広まってピークに達した際に、1日に外来診療を受ける患者数、入院している患者数、重症で治療中の患者数を、各地域でそれぞれ推計するための計算式を公表したのです。

 この計算式を使って、大阪府の人口をもとに、府内の患者数の最大値を計算すると次のようになります。

 (1)新たに新型コロナウイルス感染症を疑って外来を受診する1日の患者数:約3万人

 (2)新型コロナウイルス感染症で入院治療を受けている患者数:約1万5000人

 (3)新型コロナウイルス感染症で、人工呼吸器などが必要になっている重症者の数:約500人

新型コロナウイルスの感染者にも対応できる高度安全病床について説明する医師=大阪府泉佐野市の「りんくう総合医療センター」で2020年1月28日、木葉健二撮影
新型コロナウイルスの感染者にも対応できる高度安全病床について説明する医師=大阪府泉佐野市の「りんくう総合医療センター」で2020年1月28日、木葉健二撮影

 (1)の外来患者数は「疑って外来を受診」であり感染が確定した人ではありません。ですが、(2)の入院患者数は「感染が確定してしかも入院治療を要する重症例」です(※編集部注2)。

 この数字が1万5000というのは、大阪の社会・経済が大混乱をきたすほどの数字です。いえ、大混乱では済まないでしょう。新型コロナ対策を適切に行える病棟を持つ病院は限られており、そういった病院に1万5000人が入院することなどできるはずがないからです。

「病院が満杯」の時に優先すべき患者は?

 仮に、実際にこのような事態になったとすれば、どうやって対応すればいいのでしょうか。

 先ほどの厚労省の式による試算では、府内の入院患者約1万5000人のうち、65歳以上の人が1万3000人以上を占め、若者の入院は少なくなります。このときに「未来ある若者の命が優先」となるでしょうか。仮にそうすれば、「高齢者は見殺しにするのか」という声も上がるでしょう。我々はこういったことを考えなければならない地点に、すでに来てしまっていると認識すべきではないでしょうか(※編集部注3)。

新型コロナウイルス感染症について話し合った、大阪府の「専門家会議」=大阪市中央区の大阪府庁で2020年3月12日、道下寛子撮影
新型コロナウイルス感染症について話し合った、大阪府の「専門家会議」=大阪市中央区の大阪府庁で2020年3月12日、道下寛子撮影

 ここで、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)で新型コロナを疑った事例を紹介します。

 【事例1】30代女性 関節の痛みと40度の高熱が出て次第に悪化し、発症4日目に谷口医院を受診した。ただし受診時には改善傾向にあった。この女性は11年前から谷口医院をかかりつけ医にしていて風邪で受診することも多いが、このような症状は初めて。インフルエンザや細菌感染などは検査や診察からほぼ否定でき、採血したところ、体内で起きている炎症の強さを示す「C反応性たんぱく」の検査値が、15mg/dlを超える高い値(正常値は0.3mg/dl以下)だった。症状が持続すれば帰国者・接触者相談センターに相談することを考えたが、翌朝に電話をすると「全く症状がなくなった」とのことだった。

 【事例2】30代男性 倦怠感(けんたいかん=だるさ)、発熱、せきが続いて谷口医院を受診した。13年前から谷口医院をかかりつけ医にしていて風邪で何度も受診しているが、このような症状は初めて。しかし採血でも異常なく経過観察とした。4日後に症状が悪化して再び診察した。このときの採血では、リンパ球が大きく減っていた(リンパ球減少は、中国の診断基準で、新型コロナウイルス感染の特徴とされる項目の一つ)。ウイルス検査(PCR)をお願いしようと帰国者・接触者センターに相談したが「現在大阪では、『感染確定者との濃厚接触』や『ライブハウス訪問』といった条件が満たされなければ検査はできない」とのことだった。

 ウイルスの検査ができなくても、病状や他の検査結果から新型コロナを疑うことはできます。新型コロナウイルスに感染した場合、インフルエンザや細菌性扁桃(へんとう)炎、マイコプラズマ(病気を起こす微生物の一種)などとは、症状や検査結果が異なります。血液検査は参考程度ですが、谷口医院の経験では、新型コロナだと、リンパ球の減少またはC反応性たんぱくの上昇を認めます。そして、私が最も重視しているのは「今までにない風邪」かどうかです。患者さん自身も、そしてその患者さんを長年診ている私の目からみても「今までにない風邪」であれば新型コロナを強く疑うことになります。

 そして、これらは比較的重症例です。軽症であれば採血やレントゲンの検査をすることはありませんし、そもそも軽症の人の多くは受診しないでしょう。谷口医院では、新型コロナが流行するはるか以前から「軽度の風邪は受診不要」と言い続けています。

 これはおおまかな私の印象でありエビデンス(医学的証拠)はまったくありませんが、2月以降に風邪症状を訴えて谷口医院を受診した患者さんの5%くらいは、事例1や事例2のような「比較的重症で、新型コロナを疑う例」です。そして、無症状でも感染していることがあることに鑑みれば、少しでも風邪症状があり、かつインフルエンザや細菌性咽頭(いんとう)炎などが否定できれば、そうした人たちはすべて、新型コロナウイルスに感染している可能性があるということになります。

 
 

感染「する」のは仕方ないが「させる」のは防ぐべき

 そして、少しでも新型コロナの可能性があれば、高齢者や持病がある人への接触を避けなければなりません。過去にも述べたように、新型コロナについては、ここがややこしくて、かつ重要な特徴です。つまり、感染力はそれなりに強く(イギリスで「スーパースプレッダー」と報道された男性は軽症でありながら11人に感染させています)、しかし高齢者(及び持病のある人)以外はほとんどが軽症です(ただし武漢市では若い医師が次々と他界しています)。

 最重要点は「感染するのはやむを得ないけれども感染させてはいけない」ということです。新型コロナについては、これが私の主張する最重要の「5分の知識」となります。けれども、この知識を理解していたとしても実際に風邪症状が出てきたときにはパニックになるかもしれません。そんなときには慌てずにかかりつけ医に相談しましょう。繰り返しますが、感染していても大半は軽症で済みますし、あなたにとっての最善の対処法を教えてくれるのは日ごろあなたを診ているかかりつけ医なのですから。最近、谷口医院に寄せられる電話やメール相談の大半は新型コロナに関するものです。

 注1=大阪府によると、4軒のライブハウスを訪れた人は延べ707人。そのうちかなりの人が呼びかけに応じていますが、応じた人数は集計できておらず、何割程度かは不明だそうです。

 注2=現状では、感染者は軽症でも入院しています。しかし厚労省によると、この試算で出る数字は軽症者を含まず、酸素投与などの入院治療が必要な人だけの数だそうです。

 注3=大阪府は、谷口医師とほぼ同様の試算結果をまとめ、12日に府の「新型コロナウイルス対策本部専門家会議」に報告しました。ただ12日の段階で、府はこの数字を「あくまで参考」と捉らえており、専門家会議でも深い議論はなかったそうです。一方、厚労省はこの試算で出る患者数について「何も対策を取らなかった場合にはこうなる、という数字」と説明します。なお、現実には国も自治体も、さまざまな対策を取っていますが、その効果でこの数字がどこまで減るのかは分からないそうです。厚労省はその上で「ピークの患者数を一つの都道府県で受け入れるのは無理だが、全国の各地域が同時に患者数のピークを迎えることは考えられない。近隣の自治体と広域的に連携を取ることを考えてほしい」としています。

 【ご案内】

 この記事を執筆している谷口恭医師が、2回目のミニ講演会を開きます。仮題は「新型コロナウイルス、HPV(ヒトパピローマウイルス)、本当に正しいのは何なのか?」です。

 4月23日(木)午後6時半から8時まで、大阪市北区梅田3の4の5、毎日新聞ビル2階の「毎日文化センター」で。受講料は1650円です。問い合わせは同センター(06・6346・8700)へ。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。