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新型コロナ 「五輪延期」に残る医学的課題

濱田篤郎・東京医科大学教授
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お台場の海上に設置された五輪マークのモニュメントと咲き誇る桜=東京都港区で2020年3月27日午前10時31分、玉城達郎撮影
お台場の海上に設置された五輪マークのモニュメントと咲き誇る桜=東京都港区で2020年3月27日午前10時31分、玉城達郎撮影

 新型コロナウイルスの流行にともない、国際オリンピック委員会(IOC)は3月25日に東京オリンピック・パラリンピックの開催延期を決定しました。五輪の開幕は来年7月23日の予定だそうですが、医学的には「流行が完全に終息していること」が安全な開催の条件になると思います。流行がくすぶっている状況で開催すると、大会を契機に流行が再燃する危険性が高いからです。今回のコラムでは、新型コロナの流行がいつ終息するかを予測しながら、大会の開催時期を検討してみます。

 五輪のように国際的な大規模イベントを「マスギャザリング」と呼びます。世界中から多くの人々が集中するため、その会場や周辺では感染症の流行が起きやすい環境になります。

 たとえば、2002年に米国・ソルトレークシティーで開催された冬季五輪ではインフルエンザの流行が発生し、10年にカナダ・バンクーバーで行われた冬季五輪では麻疹の流行が発生しました。15年に山口県で開催された「世界スカウトジャンボリー」では、イギリスとスウェーデンからの参加者が「髄膜炎菌感染症」を発病しました。髄膜炎菌感染症は飛沫(ひまつ)感染で拡大し、意識障害や敗血症など重篤な症状を起こします。

 このように、国際的な大規模イベントでは、麻疹、インフルエンザ、髄膜炎菌感染症など空気感染や飛沫感染を起こす病気の流行が度々経験されてきました。このため、東京五輪の開催準備にあたっても、新型コロナの流行が発生する前から、大会期間中に空気感染や飛沫感染を起こす病気の発生を予防する対策がとられてきたのです。

 このように平時であっても、五輪の開催期間中は感染症の流行が起きやすい環境になります。ましてや、新型コロナのパンデミックの渦中であれば、IOCの、開催延期という決定は妥当な判断と言えるでしょう。しかし、その延長期間を1年としたことに、私は不安を感じます。なぜなら、…

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濱田篤郎

東京医科大学教授

はまだ・あつお 1981年、東京慈恵会医科大学卒業。84~86年に米国Case Western Reserve大学に留学し、熱帯感染症学と渡航医学を修得する。帰国後、東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2005年9月~10年3月は労働者健康福祉機構・海外勤務健康管理センター所長代理を務めた。10年7月から東京医科大学教授、東京医科大学病院渡航者医療センター部長に就任。海外勤務者や海外旅行者の診療にあたりながら、国や東京都などの感染症対策事業に携わる。11年8月~16年7月には日本渡航医学会理事長を務めた。著書に「旅と病の三千年史」(文春新書)、「世界一病気に狙われている日本人」(講談社+α新書)、「歴史を変えた旅と病」(講談社+α文庫)、「新疫病流行記」(バジリコ)、「海外健康生活Q&A」(経団連出版)など。19年3月まで「旅と病の歴史地図」を執筆した。