認知症と似たような症状が出ることがあるけれど、実は全く異なる病気に「てんかん」があります。脳に突然に電気的な乱れが生じる「てんかん発作」を繰り返す病気です。てんかんというと「不意にけいれんを起こす病気」だというイメージがあるかもしれませんが、実は、けいれんを起こさないてんかんも多くあります。てんかんの症状は人によってさまざまで、中には「最近の出来事を忘れる」「ぼーっとして呼びかけに反応しない」といった、認知症と似たような症状の場合もあり、高齢の場合は認知症と間違われることがあるのです。認知症の治療薬(抗認知症薬)はてんかんを起こしやすくするので、てんかんの人が認知症と誤診されて抗認知症薬を使うと、何の効果もないだけでなく、かえっててんかんの症状が悪化します。一方、てんかんと正しく診断されて治療を受ければ症状は改善します。ゆえに両者を区別することは重要です。

 ある70代前半の男性は、寝入った深夜に突然、呼吸が速くなりました。驚いた妻が声をかけましたが、反応がありません。妻は慌てて119番に電話しました。救急隊が到着すると、男性は、声かけに返事をする程度には意識を回復していましたが、自分の名前や生年月日を聞かれても質問の意味が分からない様子で、意味不明の返事を繰り返しました。30分ほどで救急病院に搬送されたのですが、搬送中にみるみる意識が元に戻り、到着時には普通に会話ができました。病院で診察を受けた結果、筋肉のまひや感覚障害はなく、緊急の頭部画像検査でも異常はありませんでした。このため「治療の必要なし」と診断されて、その日のうちに帰宅しました。

 それから約1年後、男性は就寝中に突然大声を上げ、手足をバタバタと動かした後に意識がなくなりました。妻は前回に続いて、慌てて119番に電話をし、男性は別の救急病院に搬送されました。その時も搬送中に救急車内でみるみる意識は元に戻り、病院到着後の医師の診察時には何の異常もありませんでした。それでも、1年前の出来事があったので、経過観察の目的で入院しました。頭部画像検査、脳波検査などでは何の異常もなかっ…

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小田陽彦

ひょうごこころの医療センター認知症疾患医療センター長

おだ・はるひこ 1977年、兵庫県西宮市出身。兵庫県立ひょうごこころの医療センター精神科医師。神戸大学医学部卒。医学博士。神戸大学医学部精神科助教、兵庫県立姫路循環器病センター等を経て2017年4月より現職。日本精神神経学会専門医・指導医。日本老年精神医学会専門医・指導医・評議員。著書に「科学的認知症診療」(シーニュ社、2018)