実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 過剰な検査制限「高熱10日でもダメ」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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発熱やせきの症状がある人を駐車場の一角に建てられたテント内で診察する医師ら=兵庫県西脇市立西脇病院で2020年4月9日、平川義之撮影
発熱やせきの症状がある人を駐車場の一角に建てられたテント内で診察する医師ら=兵庫県西脇市立西脇病院で2020年4月9日、平川義之撮影

 過去の連載「新型コロナ 世界の流れに遅れた『検査制限』」で紹介したように、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は3月16日、「(今すべきなのはとにかく)検査!検査!検査!」と世界中にアピールしました。しかし、日本はその後も検査を重症者に絞り込む方式を継続しています。4月2日、日本感染症学会は「PCR検査の原則適応は、『入院治療の必要な肺炎患者で、ウイルス性肺炎を強く疑う症例』とする。軽症例には基本的にPCR検査を推奨しない」と発表しました。そして、感染症を専門とする医師の大半がこの方針に賛成しています。

 一方、私の意見は日本式でなく世界を見習い検査を増やすべきだというものです。過去の連載でも韓国の成功例(「新型コロナ 韓国は『私生活保護より感染抑制』」)、アイスランドの成功例(新型コロナ 「無症状の人にも検査を」)を紹介し、徹底した検査がいかに重要で、新たな感染を防ぐことができるかについて述べました。今回は、検査がなかなか認められず、「悲劇」になりかねなかった事例(ただしプライバシー確保のため詳細はアレンジしています)を紹介して、改めて検査対象を重症例だけに絞り込む日本式でいいのかどうかを問いたいと思います。

インフルエンザの薬が効かない高熱

 患者さんは、大阪府のある中規模の市に在住の50代の女性です。

 発熱とせきが4日続いたため帰国者・接触者相談センターに電話すると「新型コロナの検査の対象ではないから近くの診療所を受診するように」と言われました。しかし、近くの診療所に相談したところ「うちでは診られない」と受診を拒否されました。次いで相談したA診療所で診てもらえることになり受診すると、インフルエンザが疑われました。そして、インフルエンザの検査をせずに抗インフルエンザ薬が処方されました。

 しかし、3日たっても熱は下がらず、病状は改善しませんでした。そこでA診療所に電話すると「もうできることはないから来ないでほしい」と言われました。

緊急事態宣言の発令から1週間を迎える中、マスク姿で家路につく人たち=東京都新宿区で2020年4月14日午後6時2分、手塚耕一郎撮影
緊急事態宣言の発令から1週間を迎える中、マスク姿で家路につく人たち=東京都新宿区で2020年4月14日午後6時2分、手塚耕一郎撮影

 A診療所は「新型コロナかもしれないから自分たちでは診ない方がいい」と考えたのだと思います。しかし、そうならば「高次病院を探す」とか「A診療所から保健所に交渉する」など他にすべきことがあったはずです。患者さんを路頭に迷わせてはなりません。

次々と診療を断られた

 仕方なく何軒かの診療所に相談しましたがことごとく受診を拒否されました。ようやく見つけたB診療所では医師と電話で話ができましたが、「診察はできない」と言われ、医師の顔も見ないまま受付で抗菌薬を渡されました。

 しかし、さらに3日たっても高熱は下がりませんでした。この時点で、最初の発熱から10日目になっています。またB診療所に電話をしたのですが、「もうできることはないから来ないでほしい」と言われました。

 再度相談センターに電話すると「検査の対象ではないから近くの診療所を受診するように」と6日前とまったく同じセリフを告げられました。その後何軒かの診療所に電話しましたが、どこも診てくれません。これまでに問い合わせた医療機関は既に10軒を超えています。知人に相談したところ太融寺町谷口医院に相談するように言われて電話することにしました。

怒りと涙の受診相談

 この患者さんの電話は早朝にかかってきたために私自身が電話を取りました。私は話を聞いて、この時点で新型コロナウイルスの可能性が高いと判断しました。

 ということは、移動すること自体が、本人にも社会にも良くありません。実は、このような問い合わせは頻繁にあるのですが、新型コロナに限らず風邪症状は近くの診療所を受診するのが最適です。地元の医師会に電話で相談するよう言いかけたところ、悲鳴のような声に遮られました。

 すでに10軒以上から断られていることを強く訴えられ、声の様子は怒りから涙に変わっていきました。「風邪症状は近くの診療所に……」などとつまらない正論を言っている場合ではありません。電車を使用すべきでないことを説明し、1時間以上かかるものの自家用車で午前の診察の最後に来てもらうことにしました。

 レントゲンで肺炎の症状がなく、血液検査でも(例えばリンパ球の顕著な減少など)大きな異常は認められませんでした。しかし、38度以上の高熱が10日以上も続き、食事は取れず水分摂取がやっとです。PCR検査をしていない以上確定はできませんが、この女性が新型コロナの可能性は濃厚です。

 この症状なら検査の対象になる。そう確信した私は、この女性が住む地域の相談センター(保健所)に交渉しました。ところが、です。感染者や帰国者と接したエピソードがない、検査結果に明らかな肺炎の所見がない、といった理由で「検査の対象ではない」と断られてしまったのです。

入院先での検査は「陽性」

 しかし、これだけの症状がある患者さんを放っておくわけにはいきません。翌日の電話で解熱剤の効果が乏しいことを確認し、大きな病院に入院を前提に紹介することにしました。大きな病院からも拒否されることを避けなければなりませんから、新型コロナではなく「原因不明の発熱」として紹介しました。どのような理由であれ、入院ができて発熱が続いていれば新型コロナウイルスの検査がおこなわれます。この病院は保健所を通さず、医師の判断で検査ができるからです。そして、結果は「陽性」でした。

 冒頭で述べたように、疑いがあれば積極的に検査をするのが世界の流れです。過去のコラムで紹介したように、日本の人口あたりの検査数は韓国の19分の1、アイスランドの187分の1です。もしもこの患者さんが、韓国やアイスランドに、いえ、日本以外の先進国であればどこに住んでいたとしても、もっと早くに検査がおこなわれ迅速に治療が開始されたのは間違いありません。もしもこの患者さんが他界するようなことがあれば、保健所や診察を拒否した診療所は何を思うのでしょうか。

1人暮らしで熱を押して買い出し

 問題はまだあります。この患者さんは発熱が生じた日から自分が新型コロナかもしれないと考えて、仕事を休み他人と会わないようにしてきました。ですが、スーパーへ食料品を買いに行くなどで何度か外出したと言います。1人暮らしで、代わりに買い物をしてくれる人はいなかったのです。ということは、マスクをしていたとはいえ、他人に感染させた可能性はないと言い切れるでしょうか。

新型コロナウイルス感染拡大防止対策で透明のシート越しに接客する従業員=金沢市諸江町のアル・プラザ金沢で2020年4月10日、井手千夏撮影
新型コロナウイルス感染拡大防止対策で透明のシート越しに接客する従業員=金沢市諸江町のアル・プラザ金沢で2020年4月10日、井手千夏撮影

 現在世界的には感染の可能性があればすぐに検査、そして陽性であれば入院もしくは自己隔離しなければならないことになっています。では、外出を極力控えていたとはいえスーパーに食料を買いにでかけたこの女性は罪を犯したのでしょうか。「新型コロナの可能性があったのにスーパーに行くとは何事だ!」とこの女性は糾弾されるべきなのでしょうか。

 この女性は完全な自己隔離をしなかったとはいえ、自らの判断で仕事を休み、外出は最小限に控えていました。では、発熱があり相談センターからも近くの診療所からも拒否された人全員が、この女性と同じような行動をとるでしょうか。なかには、外出を続けたり、あるいは出勤しようとしたりする人もいるかもしれません。

通用しない「日本式」の検査基準

 ここで改めて問いたいと思います。検査は重症例のみにおこなうという日本方式で本当にいいのでしょうか。この女性よりももっと重症になれば検査してもらえるのでしょうが、水分摂取がやっとの状態ですら検査を拒否される現在のこの方針、おかしくないでしょうか。日本の検査能力は他国に比べてそんなにも劣るのでしょうか。

 もちろん、検査を増やすには体制の構築が必要です。感染を疑う患者さんが検査を受けに行く「場所」(例えば保健所の一角を利用するなど)を決めなければなりません。防護服やゴーグルなどの医療物資が不足するなか、すべての診療所で実施するのは現実的ではないからです。

 また、陽性者が外出せずに家に滞在しつづけられるための支援も必要です。例えば「かかりつけ医がその患者さんに毎日電話をする」はすぐにでもできることです。

緊急事態宣言後、初の週末に公園で遊ぶ人たち=東京都内で2020年4月11日午後2時39分、倉沢仁志撮影
緊急事態宣言後、初の週末に公園で遊ぶ人たち=東京都内で2020年4月11日午後2時39分、倉沢仁志撮影

 現在世界的な流れは診断がつけば軽症(あるいは無症状)でも「自己隔離」です。最後に、ある外国人の患者さんから言われた言葉を紹介したいと思います。

 「自分は感染したかもしれないから検査を希望している。検査で陽性となれば社会のために自己隔離するつもりだ。だが、検査してもらえないならどうすればいいのか」

 日本式はもはや世界には通用しません。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。