実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 「3密」を楽しめる日は

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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緊急事態宣言を受けて人影もまばらな日没後の新宿・歌舞伎町=東京都新宿区で2020年4月16日午後6時45分、長谷川直亮撮影
緊急事態宣言を受けて人影もまばらな日没後の新宿・歌舞伎町=東京都新宿区で2020年4月16日午後6時45分、長谷川直亮撮影

 全国に拡大された緊急事態宣言の効果が少しずつ出ているのか、日々患者さんを診察したり電話再診で話を聞いたりしていると「あともう少し! がんばります!」という声が増えてきています。この「がんばります!」の意味は、例えば飲食店や販売業の人たちなら「今はお客さんが減って大変だけど、宣言が解消されれば元に戻る。だからそれまでの辛抱だ!」ということです。自宅待機している会社員の場合は「ステイホーム(家にいること)は食事も貧弱になりストレスがたまるけれど、あともう少しこの生活に耐えます!」ということになります。そういった言葉を聞くと「そうですね! がんばりましょうね!」と私は答えています。ですが、最近はもう少し現実的なこと、言い換えれば“悲観的”なことに目を向けるべきではないかと思うようになってきました。

 まずは緊急事態宣言の意味から考え直してみましょう。宣言は、内閣官房のウェブサイトに掲載されており、現状を「国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれ」があると認定しています。これをかみ砕いて私なりに解釈すると、「今のままだと感染者の急増が止まらず、他の目的で医療機関を受診する人も必要な治療を受けられなくなる。新型コロナのみならず他の病気でも死亡者が増加し日本の医療の機能が大きく損なわれる。それを防ぐためのやむを得ない措置」となります。

 緊急事態宣言はたしかに理にかなった政策です。よく引き合いに出される下のグラフを使って説明しましょう。

新型コロナウイルス感染症専門家会議の資料から
新型コロナウイルス感染症専門家会議の資料から

 何も対策をしなければ感染者が急増し(患者数のピークが高いグラフ)、医療機関で対応できず死亡者が一気に増えます。しかし、社会的距離の確保、ステイホームなどで他人と近づかない方針を徹底することにより、ピーク時の感染者数を減らすことができます(右にずれた皿状のグラフ)。すると、医療機関にも余裕が出てきますから新型コロナの患者さんもそれ以外の患者さんも診察・治療することができます。その後、同じようなペースで新規感染者が発覚してもオーバーシュート(爆発的な感染拡大)をおこさない限りはやがて収束していきます。グラフをこのようにシフトできれば緊急事態宣言は“成功”です。

「緊急事態」後も残る感染の心配

 しかし感染者数のピークを抑えても、流行が完全に収まるわけではありません。こうしたグラフで患者数が大きく増えた後で徐々に減っていくのは、人間同士の接触が減るなどで感染の機会が減るか、あるいは、感染から回復して免疫を持ちウイルスの攻撃をはね返せる人が増えるからです。ということは、また接触が増えれば、免疫を持つ人が多くなるまで、しばらくは患者が出続けるのです。

 ということは、いくらあなたが緊急事態宣言下で「がんばる」姿勢でいたとしても、宣言終了後いずれ(おそらくあなたも)感染する可能性が高くなるわけです。決して、緊急事態宣言の終了後に、新型コロナを気にしなくていい元の平和な社会が待っているわけではありません。

 院内感染が極めて多いことや有名人の感染経路などの報道から、新型コロナの感染力はとてつもなく強いことはもはや説明不要でしょう。

「3密」で起きる多数への感染

 ウイルスが、1人の患者から平均して何人にうつるかを表す「基本再生産数」(アールノート)は、新型コロナの場合、現時点でもさほど高くないとされています。このことは過去のコラム「新型コロナ 休校しても減らしたい『元気な感染者』」でも紹介しました。しかし、世界に目を向けると驚くべき事例があります。

 例えばウルグアイでは、ある結婚式に参加した44人が新型コロナに感染しました。この感染源はスペインから帰国したひとりの女性だったと報じられています

 米紙ニューヨーク・タイムズの記事によると、米ジョージア州では葬式をきっかけに町に感染が広がり、イリノイ州の刑務所では400人以上が感染しました。特に、葬式は数時間で多くの人が感染したわけですから、1人の人から多数に広がったことが強く疑われます。

 職業を考えてみましょう。医療者以外にリスクが高い職業の一つがフライトアテンダントです。実際に新型コロナウイルスに感染し家族から離れて地下室で自己隔離しているエアカナダのフライトアテンダントが「The Guardian」の取材に答えています。記事によると、同じ便に移動のために搭乗していた同社のスタッフ7人(パイロット2人とフライトアテンダント5人)も感染していました。取材に答えた女性フライトアテンダントは機内の後方でサービスをおこなっており、感染した2人のパイロットは前方のビジネスクラスに座っていたそうです。この機内全体にウイルスが充満していたことを示しています。

 こういった事実を考えると、(非科学的と批判されるかもしれませんが)、仮に基本再生産数がそれほど高くないとしても、それはあくまて「平均的にはそれほどでもない」のであって、「いわゆる3密での感染力はとてつもなく強く、うつらないこともあるがうつることも少なくない」と考えるのが現実的ではないかと思います。

 ここまでをまとめると、「緊急事態宣言が終了してもウイルスが街からいなくなるわけではなく、再び感染しやすい環境に戻る。よって、元の生活を取り戻せばいずれ大勢が(そしてあなたも)感染する可能性が高い。感染しやすい場所は、結婚式場、葬儀場、刑務所、飛行機内などであり、さらに、会議室、船内、ライブハウス、コンサート会場、満員電車などもハイリスクとなる」ということになります。

混み合う飲食店内。こうして楽しめる日は戻るのか=名古屋市で2006年12月9日(本文とは関係ありません)
混み合う飲食店内。こうして楽しめる日は戻るのか=名古屋市で2006年12月9日(本文とは関係ありません)

軽視できない重症化のリスク

 そして、前回のコラム「新型コロナ 懸念される『欧州型』の重症化」で述べたように、新型コロナウイルスはもはや「インフルエンザを少し重症化させたようなもの」ではありません。繰り返しますがインフルエンザでは若い医師は死にません。救急室の医師が遺言を書くこともありません。先述のエアカナダのフライトアテンダントの病状も報道から決して軽症でないことが分かります。

 一方、たしかに感染してもごく軽症、なかには無症状の人がいるのも事実です。ですが、前回のコラムで述べたように、すでに新型コロナには3種の遺伝子型が見つかっており(その後、17タイプあるという研究もでてきました)、3月以降に欧州から日本に入ってきた重症化するタイプが猛威を振るい始めている可能性があります。

 日本での新型コロナによる死者はほとんどが高齢者でしたが、4月中旬には30代の死者も出始めています(年齢別の死者数や死亡率が分かる厚生労働省の資料)。ちなみに、フランスでは16歳の少女が、ベルギーでは12歳の少女が、そして米国では5歳の女児や生後6週の乳児も亡くなっています。

サクラは見ごろだが人の姿がほとんどない千秋公園=秋田市で2020年4月23日午後3時51分、古川修司撮影
サクラは見ごろだが人の姿がほとんどない千秋公園=秋田市で2020年4月23日午後3時51分、古川修司撮影

 では今後世の中はどのように変化するのか。私見を述べたいと思います。緊急事態宣言はいずれ解除されるでしょうが、その後、新型コロナの警戒度を宣言下と同じように高く維持する人と、一気に下げる人で行動様式が二分するでしょう。高い警戒度を維持する人は、宣言の解除前と同様、人が集まるところを避けます。航空機の搭乗を避け旅行に行かなくなり、他人との会食も避けるでしょう。当然消費が低下しますから(あるいは消費の仕方が変わりますから)、経済は極めて大きな打撃を受けます。

 一方、警戒度を下げる人は以前の生活を取り戻そうとして、感染の機会にさらされます。若い人は感染しても軽症の人も多いでしょうから、自分でも気づかないままスーパースプレッダーとなり多数の感染者を生み出します。さらに悲観的なシナリオとしては、欧州型よりももっと重症化する変異型が生まれる可能性もあります。そうなれば、世間は再び緊急事態宣言あるいは外出禁止令を求めるようになるでしょう。

悲観的な材料が多くても「5分の知識」を

 では「薬」と「ワクチン」はどうでしょうか。治療薬は過去のコラム「新型コロナ『効く薬』の候補は?」で述べたようにどんどんと治験が進められています。いずれ効果のある薬が普及し始めるでしょう。ワクチンも米国ではすでに治験が始まっています。

 もしも極めて有効なワクチンが登場したとしましょう。そして世界市民の6~7割くらいがワクチンもしくは既感染により免疫が確立されれば恐れるに足りない感染症になるかもしれません。

 しかし前回述べたように、新型コロナウイルスは構造が1本鎖のRNAであることから、これからもどんどんと変異型が登場するでしょう。ということはワクチンが効かない新しいタイプが登場する可能性があります。そして、ウイルスの変異が多い感染症というのは一般に、治療薬もウイルスのタイプによっては効果が乏しいことがありえます。

 このような悲観的な観測のなかでも、身を守るための「5分の知識」はあります。これまで繰り返し主張してきている「三つの予防」、すなわち、うがい(できれば鼻うがい)、手洗い、顔を触らない、の三つです。目下のところ、この「三つの予防」を実践しながら、各自が「ポストコロナ」の新しい世界でどうふるまうべきかを考えよう、というのが私の提唱する「5分の知識」です。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。