令和の幸福論

国家と医療~新型コロナ対策

野澤和弘・植草学園大学教授/毎日新聞客員編集委員
  • 文字
  • 印刷
にぎわうスウェーデンの首都・ストックホルムの市街=筆者撮影
にぎわうスウェーデンの首都・ストックホルムの市街=筆者撮影

 世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。医療崩壊に陥っているところもあれば、比較的余裕のある国もある。コロナ禍はその国の「医療」を映し出す鏡のようだ。政府による医療政策や提供体制、水準だけでなく、それらの土台にある社会のありよう、国民の政府に対する信頼や死生観まであらゆるものが容赦なくあぶり出される。

 新型コロナウイルスの感染者が広がるなか、客でにぎわうスウェーデンのレストランが日本のテレビで紹介された。在宅勤務が本格化し、平日の午前中からこの情報番組を見ていた人は多かっただろう。

 「スウェーデンは医療システムがしっかりしていますから」とキャスターは言う。ああ、やっぱり北欧は進んでいるな……と思った人もいたに違いない。だが、「福祉国家」と称されてきたスウェーデンの医療政策はそう単純なものではない。

 スウェーデンの感染者数や死者数の増加は著しい。3月16日、死者数はまだ6人だったが、4月19日には感染者約1万5000人、死者は約1540人になった。

 同時期の日本は感染者約1万1500人、死者約250人だ。スウェーデンの人口規模が日本の10分の1以下であることを考えると、人口当たりの感染者数や死者数は日本の比ではなく、感染者の約1割が死亡するというすさまじさは想像を絶する。

 ただ、厳しい都市封鎖(ロックダウン)政策を取る国が多い中で、スウェーデンは強制的な封鎖をせず、国民に外出自粛を要請するという緩やかな対策を実施している。3月末に50人以上の規模の集会やイベントは禁止にしたものの、町のレストランやカフェなどはふだんのにぎわいを見せている。大学や高校はオンライン授業が基本だが、小学校や幼稚園は通常通りだ。

 スウェーデン政府のコロナ対策は明確だ。感染拡大を防ぐのが難しいことを前提として、医療体制の維持を優先し、できるだけ拡大のスピードを遅くすることに努めている。

 新型コロナウイルスを抑制するには、有効なワクチンを開発するか、集団免疫といって国民の6~7割が感染してウイルスに対する抗体を持つしかない。スウェーデンは医療崩壊を招かないようにしながら、経済や国民生活にも過度なダメージを与えず、集団免疫を獲得する戦略を実施しているのである。

 英国でも当初は集団免疫戦略を打ち出したが、感染者が急増し医療崩壊が現実のものとなってロックダウン政策へと変更した。新型コロナウイルスの感染力が強く、医療従事者への感染も急速に広がったためだ。米国のトランプ大統領は「スウェーデンは集団免疫戦略を取っており、深刻な状況にある」と批判した。

 しかし、これまでのところスウェーデンでは医療崩壊は起…

この記事は有料記事です。

残り4884文字(全文5984文字)

野澤和弘

植草学園大学教授/毎日新聞客員編集委員

のざわ・かずひろ 1983年早稲田大学法学部卒業、毎日新聞社入社。東京本社社 会部で、いじめ、ひきこもり、児童虐待、障害者虐待などに取り組む。夕刊編集 部長、論説委員などを歴任。現在は一般社団法人スローコミュニケーション代表 として「わかりやすい文章 分かち合う文化」をめざし、障害者や外国人にやさ しい日本語の研究と普及に努める。東京大学「障害者のリアルに迫るゼミ」顧問 (非常勤講師)、上智大学非常勤講師、社会保障審議会障害者部会委員、内閣府 障害者政策委員会委員なども。著書に「スローコミュニケーション」(スローコ ミュニケーション出版)、「障害者のリアル×東大生のリアル」「なんとなくは、 生きられない。」「条例のある街」(ぶどう社)、「あの夜、君が泣いたわけ」 (中央法規)、「わかりやすさの本質」(NHK出版)など。