実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 感染は「発症前から5日後まで」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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今季初めてファンを入れて開催された試合。外野席以外を使用した=台湾北部・新北市の新荘球場で2020年5月8日午後8時38分、福岡静哉撮影
今季初めてファンを入れて開催された試合。外野席以外を使用した=台湾北部・新北市の新荘球場で2020年5月8日午後8時38分、福岡静哉撮影

 風邪の症状が出て4日以上たてば保健所に相談。新型コロナウイルスのPCR検査を受けて、陽性となれば感染症の診療を担当する中核病院に入院(もしくはホテルなどに滞在)。その病院(やホテル)のスタッフは2次感染防止に厳重な注意を払う。患者は、入院すれば症状がなくなっても、2週間が経過しPCR検査の結果が陰性にならなければ退院できない、感染者と接した人は、2週間は自己隔離が必要……。最近になって「4日」というルールは撤廃されましたが、新型コロナに対する日本の対策は、だいたいこのような感じだと思います。

 ところが、次々と分かってきた新しい事実に鑑みると、この日本の対策では「不十分」であり、またその一方で「過剰」であると言えそうです。今回は、最近発表された台湾の研究(論文は「米国医師会雑誌」<JAMA>の2020年5月1日号に掲載)を紹介しながら2次感染を防ぐ上での今後の適切な対策を考えていきましょう。

新型コロナ対策に成功している台湾

 過去の連載「新型コロナ 韓国は『私生活保護より感染抑制』」で(私見ではありますが)新型コロナ対策に成功している国・地域として、韓国(制限をゆるめて再び感染者が増えかけていますが……)、台湾、香港、シンガポール(感染者が再び増加しています)、イスラエルを挙げました。別の回ではアイスランドとドイツのすぐれた検査体制を紹介しました。他にもニュージーランド、スウェーデン(外出制限をほとんどしていない)、キューバなども成功している国と言われることがあります。医療者によっても意見が異なりますが、おそらく「世界で最も成功している国(地域)は?」と問われれば「台湾」と答える者が最多だと思います。

 日本の厚生労働省が13日に発表したデータでは、台湾の感染者数は440人、死者は7人にとどまっています。なお台湾の人口は約2360万人で、日本の2割弱です。

 台湾の研究で分かってきた新しい事実を述べる前に、台湾がこれほど成功した理由を(一部私見を交えて)まとめておきます。

 ・今年1月15日(おそらく世界で最初)に「重要な感染症」と認識し、世界保健機関(WHO)の見解に従わなかった。WHOは1月30日の時点でもまだ「中国への渡航を禁止すべきでない」としていたのに対し、台湾は1月22日に、1月末に武漢から来台するツアー客459人の入国許可を取り消した

 ・海外からの帰国者に自宅隔離(home quarantine)を徹底した。

 ・感染者と接触した人の追跡を徹底的に行った。

 ・マスクの購入先を公開すると同時に、購入時には記名を必要とするなど、行政がマスクの管理を徹底して成功した。

コンビニの機器に健康保険カードを差し込み、指示に従うとマスクを受け取るための伝票が出てくる(画像の一部を加工しています)=台北市中山区で2020年4月22日午前9時14分、福岡静哉撮影
コンビニの機器に健康保険カードを差し込み、指示に従うとマスクを受け取るための伝票が出てくる(画像の一部を加工しています)=台北市中山区で2020年4月22日午前9時14分、福岡静哉撮影

 ・フェイクニュースを流した者には最高300万台湾ドルの罰金または3年の懲役刑を科す制度にした。

 ・ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)は行政が指示したわけではないが、住民が自発的に適切な行動をとった(上述の論文より)。

 ・台湾はSARS(重症急性呼吸器症候群)を経験していたので、その経験を生かすことができた。

 ・蔡英文氏の強力なリーダーシップ、医師・歯科医師・公衆衛生学者などが閣僚に多いこと、デジタル担当大臣唐鳳氏のITを最大限駆使したマスクコントロールなど、行政の力が大きかった。

 最後の理由は私見です。日本の行政の悪口を言いたいわけではありませんが、どうしても日本との差を考えずにはいられません……。

新型コロナウイルスの新規感染確認「ゼロ」に合わせて「ZERO」とライトアップされた台北市の老舗ホテル「円山大飯店」=台北市で2020年4月16日午後7時45分、福岡静哉撮影
新型コロナウイルスの新規感染確認「ゼロ」に合わせて「ZERO」とライトアップされた台北市の老舗ホテル「円山大飯店」=台北市で2020年4月16日午後7時45分、福岡静哉撮影

約2900人を追跡し「2次感染の起き方」を調査

 では、台湾の研究で分かった「2次感染に関する事実」についてまとめていきましょう(なお、「2次感染者」に対して、最初の感染者をここでは「1次感染者」と表現します)。

 研究では、100人の1次感染者と、1次感染者と接触した2761人が調べられています。100人の1次感染者に診断がついたのは1月15日から3月18日までで、1次感染者と接触した人の調査は接触後14日まで。調査の最終日は4月2日でした。1次感染者100人のうち9人(9%)は無症状者です。

 調査の結果、接触者2761人中、22人が2次感染を起こしました。

 この調査で分かった重要なポイントは三つあります。

 一つ目のポイントは「1次感染者からいつ感染するか」です。2次感染を起こした22人が、いつ感染したかが調べられています。22人のうち10人(45%)は1次感染者が発症する前に接触し、その際に感染していました。

 過去のコラム「新型コロナ 懸念される『欧州型』の重症化」で紹介した中国の研究では、2次感染の44%は1次感染者が発症する前の数日間に感染していたことが分かりました。今回の台湾の研究でもほぼ同じ数字(45%)です。どうやら「新型コロナの約半数は(発症前の)無症状者から感染する」と考えて間違いなさそうです。そして、さらに注目すべきは、1次感染者の発症日を0日目として0~3日目の接触で2次感染を起こしたのが22人中9人、4~5日目の接触で感染したのが3人で、なんと6日目以降はゼロなのです!

日本の対応は「最初は不十分、後には過剰」

 発症して6日たてば他人への感染の可能性が(ほぼ)なくなるのならば、日本の対応は、発症直後は不十分、感染確認後は過剰だったということになります。

 なぜなら、日本では多くのケースで、発症して4日程度は自宅で経過観察、それで改善しなければ相談センターと交渉してPCR実施、結果を待ち入院先が決まりようやく入院となるわけで、入院する頃にはすでに発症から1週間程度たっているからです。受け入れ先の病院としては院内感染を防ぐために徹底した防護を行いますが、実はこの時点では他人への感染のリスクは激減しているわけです。台湾のこの研究で、医療者で2次感染した人は、1次感染者と接触した人のうち、わずか0.9%しかいません(感染した医療者が1次感染者の発症何日目に感染したのかは分かりません)。1次感染者と同居している家族の4.6%、同居していない家族の5.3%が感染したのとは対照的です(なぜ非同居家族への感染が、同居家族より多いのかは論文からは読み取れません)。

 なお、ドイツにも同じような研究があり、この台湾の論文でも引用されています。その研究によると、発症して1週間が経過すると、患者の体から、生きたウイルスは検出されませんでした。

重症化するのは「ウイルスの死後」?

 興味深いことに、体内で生きたウイルスが消えるにもかかわらず、発症してから1週間程度経過した時点で突然重症化するケースが多いことが分かっています。ウイルスが死んだのに重症化するのはなぜでしょうか。この理由を説明するキーワードは、過去のコラム「新型コロナ 肺以外でも病気が起きる仕組み」で紹介した「血栓」と「サイトカインストーム」だと思われます。つまり、新型コロナ重症化の「鍵」はウイルスそのものではなく、その後生じる身体の反応というわけです。

 話を戻します。調査結果に基づけば、2次感染の対策を取らねばならないのは「重症化してから」ではなく「発症直前と直後」です。1次感染者(といっても軽度の風邪症状が出た時点では新型コロナかどうかは分かりませんが)が発症した時点から4~5日さかのぼって接した可能性のある人すべてにそれを伝え、自己隔離してもらうことが必要になります。

 しかし、今の日本でこれを実施することは極めて困難でしょう。このサイトで何度も繰り返しているように、現在の日本の新型コロナに関する問題で深刻なのは「差別」です。感染すれば差別される(かもしれない)社会で、「感染したかもしれないから、数日以内に接触した人全員に直ちに連絡しよう」と考えて実行できる人がどれだけいるでしょうか。

夜市の入り口で行われている検温や手の消毒。右手前のスマートフォンのような機器が熱感知カメラ=台北市大同区の寧夏夜市で2020年4月30日午後5時53分、福岡静哉撮影
夜市の入り口で行われている検温や手の消毒。右手前のスマートフォンのような機器が熱感知カメラ=台北市大同区の寧夏夜市で2020年4月30日午後5時53分、福岡静哉撮影

「接触したら14日隔離」の必要性は要検討

 二つ目のポイントは「1次感染から2次感染までの期間(serial interval)」が平均4~5日と短いことです。論文ではSARSとの比較が検討されていて、ここが興味深いところです。新型コロナが4~5日なのに対し、SARSは8.4日もあります。つまり、SARSに比べて新型コロナは2次感染までの期間が大幅に短いというわけです。一つ目のポイントと併せて考えれば、新型コロナの2次感染の特徴は、1次感染者の発症前か直後に感染し、感染期間が短いということです。

 従来、1次感染者と接触すると14日間は発症する可能性があるとされてきました。しかし今回の結果をみると、少なくとも「接触の時期を問わず14日間」は長過ぎではないか、再検討する必要がありそうです。

 三つ目のポイントは「重症者と接触すると(軽症者との接触に比べて)2次感染が起こりやすい」ということです。1次感染者が重症の肺炎や、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)という重篤な呼吸困難状態にまで進行した場合、軽症者に比べて2次感染のリスクが4倍近くに上昇します。一方、無症状者と接触しての感染は一例もありません。これは当然といえば当然の結果なのですが、「無症状者(数日後にも発症せず、無症状のままの人)からの感染は(ほぼ)ない」という点は重要です。

 今回紹介した台湾の研究は今後の対策を考える上で非常に重要ですから、最後にポイントをまとめておきます。

 ・2次感染の半数近くは、1次感染者が発症する前の数日間で起こっている。数日後に症状が出るかどうかは誰にも分からないのだから、すべての人は「他人への感染を防ぐ目的で」マスクを着用すべきである。また、1次感染者が発症して6日たてば2次感染は(台湾のこの研究では)起こらなかったことから、6日目以降の2次感染予防対策を見直すべきかもしれない。

 ・「2次感染までの期間」は4~5日。現在、1次感染者と接した場合14日間の自己隔離が求められていて、WHOも5月4日の時点でそのように案内しているが、実際にはもっと短くてもよいかもしれない。

 ・無症状者(数日後も無症状)からの感染は(ほぼ)ない。よって数日前以前に新型コロナに感染した人が今も無症状のあなたから感染した可能性は(ほぼ)ない。

 新型コロナのような新しい感染症は次々と新しい情報が出てきます。デマは論外ですが、論文も、査読前の信ぴょう性に乏しいものから、信頼度の高いものまでさまざまです。今回紹介した論文は「JAMA」という一流の医学誌に掲載されていることに加え、調査の方法も科学的確証度の高いものです。これからも、信頼度の高い情報をお届けする予定です。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。