実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 抗ウイルス薬「使うなら早期」?

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 新型コロナウイルスに対する治療薬として、さまざまなものが候補に挙がっており、一部はすでに使われていますが、実は現時点で確実に効果があるものは存在しません。最近ある患者さんから「アビガンとレムデシビルを併用すれば大丈夫ですよね」と言われましたが、これは都合のいい情報が独り歩きした結果生まれた「誤解」です。アビガンもレムデシビルも有効性には疑問があります。一方、これら以外で有力な候補薬が浮上しています。過去のコラム「新型コロナ 『効く薬』の候補は?」を公開してから1カ月が経過し、状況が変わってきています。今回は現時点での新型コロナの候補薬の最新情報をお伝えします。

重症化するのは「ウイルスが死んだ後」か

 具体的な薬を紹介する前に、最近明らかになってきた新型コロナの特徴を復習しておきましょう。最大のポイントは「重症化する頃には生きたウイルスは(ほぼ)いない」ということです。前回のコラム「新型コロナ 感染は『発症前から5日後まで』」で紹介したドイツの研究によれば、発症して1週間が経過すると、患者の体から生きたウイルスは検出されません。また、そのコラムで紹介した台湾の研究によれば、1次感染者が発症して6日たてば2次感染は(ほぼ)起こりません。これも、発症後6日の時点で体内に生きたウイルスが(ほぼ)いないと考えれば説明がつきます。

 しかし、ウイルスがいなくなるのにもかかわらず重症化するのは発症後1週間が経過した頃です。この一見不可思議な現象が起こる理由は、重症化が、ウイルスそのものの作用ではなく、ウイルスに誘発された「血栓」と「サイトカイン・ストーム」(免疫の暴走)で起きるためだと考えられます。(参考:「新型コロナ 肺以外でも病気が起きる仕組み」)。この点は、薬を選択する上で非常に重要なポイントとなります。

「死んだウイルス」を薬で抑えても

 では具体的な薬をみていきましょう。まずはウイルス抑制を期待できるアビガン(一般名:ファビピラビル)です。一部の有名人が「アビガンを内服して急によくなった」というメッセージをSNSで発信したといううわさを聞きました。有名人のSNSは注目されるでしょうから、読んだ人たちは「新型コロナについに特効薬ができた」と思うに違いありません。

 しかしこれを理論的に考え直してみましょう。有名人といえども、アビガンが使われたということは重症化して入院していることが条件となります。「しばらく様子をみたけれども改善しない。そこで(まだ有効性のエビデンス=医学的証拠=はないけれども)アビガンを使ってみよう」ということで使用され、結果として治ったので”効いた”と考えたくなるわけです。しかし、先述したように重症化した時点で体内に生きたウイルスはすでにいないはずです。ウイルスがいない状態でウイルスを抑制する抗ウイルス薬が効く、ということがあり得るでしょうか。

 実は「重症化してからアビガンを使っても意味がない」ということに我々医師はすでに気づいています。けれども、アビガンの使用は医師が「使いたい」というだけではできず「重症化したので使います」という大義名分が必要となるのです。十分な臨床試験のデータがあるとは言えず、また副作用についてもよく分かっていないのですから、そういったリスクを抱えてでも使用するには「重症だから」という”言い訳”が必要になるというわけです。しかし、重症化してからでは間に合いません。

 そこで福岡県医師会は、症状悪化前でも「主治医などが重症化の可能性を憂慮する入院患者」にはアビガンを使用できる仕組みを作り、5月11日に記者会見で発表しました。これは極めて理にかなった適切な対応です。アビガンの抗ウイルス効果が確かなら、この方法(つまり症状悪化前の使用)で多くの命を救えると期待できます。

アビガンの早期投与を可能にする独自方式を発表する福岡県医師会の上野道雄副会長=福岡市博多区の県医師会館で2020年5月11日午後1時18分、平塚雄太撮影
アビガンの早期投与を可能にする独自方式を発表する福岡県医師会の上野道雄副会長=福岡市博多区の県医師会館で2020年5月11日午後1時18分、平塚雄太撮影

ウイルスが生きている早期なら効く?

 次に、現在最も注目されている薬の一つ、抗ウイルス薬のレムデシビル(商品名:ベクルリー)をみてみましょう。この薬はもともとエボラ出血熱の治療薬として開発されたものです。これが新型コロナにも効くことが期待され治験が進められてきました。当初はかなり期待されていて、現在も有効な治療薬とみる向きもありますが、アビガンと同様の疑問点があります。ウイルスを抑制する薬である以上、重症化してから(つまりウイルスがいなくなってから)使っても意味がないと考えられるからです。

 実際、レムデシビルを用いた中国の臨床研究では、有効とする結果が出ていません。しかし、興味深いことに「発症10日以内にレムデシビルを開始した場合は(それ以降に開始した事例に比べて)症状改善までの日が少し短い傾向があった」と、論文に記載があります。これは、ウイルスが生きている間に、つまり発症後早い段階で使用すれば有効性を期待できることを示唆しています。

 理論的には、新型コロナを発症した時点で(その時点では重症化するかどうかは分からないわけですから)全員にアビガンかレムデシビル(あるいは両方)を使用すれば、多くの命が救える可能性があります。ただし、どちらもまだ有効性が確認されたわけではありませんし、登場して間もない薬ですから未知の副作用も懸念されます。双方ともまだ薬価は決まっていませんが、おそらくかなり高額になると思われます。特に若い人は軽症で済むケースも多いのですからこれらを勘案すると全員への使用は公衆衛生学的にみて不適切です。

 では、重症化しやすいハイリスク者(例えば高齢者や生活習慣病のある人、あるいは喫煙者)に優先的に使用するという考えはどうでしょう。おそらくこれも現実的ではありません。その「線引き」が難しいからです。「なんで喫煙者を優先するんだ」という声も出てくるでしょう。

重症化を防ぐ薬は

 では「ウイルスを抑制する」のではなく「重症化を防ぐ」という観点から候補薬をみていきましょう。冒頭で述べたように、重症化の鍵は「血栓」と「サイトカイン・ストーム」です。

 血栓対策としては、抗血栓薬を使う(血液が凝固しにくくなる治療法を開始する)べきだ、という考えがでてきます。そして実際にすでに「低分子ヘパリン」という抗凝固薬を入院と同時に使う試みが世界中で開始されつつあります。おそらくこの流れは加速度的に広がるでしょう。実際、有効性を指摘する研究もあります。しかしながら、新型コロナがよくわからないのは、元々抗凝固薬を使用している患者にも血栓ができること、さらに低分子ヘパリンが効いていないケースも少なからずあることです。とはいえ、血栓の被害は重篤になりますから、少しでも効果が期待できるのであれば抗凝固療法は実施されるべきだと思います。費用も高くありません。

血栓の形成防止に「禁煙」などが大切

 そして、抗凝固療法以上に重要なのが「血栓ができやすい要因を取り除く」ことです。新型コロナに感染したかもしれない時、喫煙者は直ちに禁煙を開始し、低用量ピル(もしくはLEPと呼ばれる低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤)を内服している人や、更年期障害の治療でエストロゲン製剤を使っている人は、服用や貼付(ちょうふ)の中止を検討すべきです。妊娠するとそれだけで血栓ができやすくなりますから、妊娠している女性は一層の予防対策が重要となります。水分をしっかりとって、いわゆる「エコノミークラス症候群」(長時間じっとしていることで、体内に血栓ができて肺などにつまる病気)のリスク対策を実施すべきです。

 一方、サイトカイン・ストームのメカニズムは非常に複雑ですが、ストームを抑えると期待できる薬が登場しつつあります。前回の候補薬を取り上げたコラムでは名前を挙げるにとどめたトシリズマブ(商品名:アクテムラ)です。この薬がなぜ効くかという説明はものすごく複雑になり、医学生も逃げ出したくなるような内容なのですが、ここではかみ砕いて分かりやすく説明します。

 サイトカインというのは特定の物質ではなく、人体が分泌する、免疫に関連するさまざまな物質の総称です。その中に「IL-6」と呼ばれる物質があり、関節リウマチの患者ではこのIL-6が重症化に関わります。そして一部のリウマチ患者にはIL-6の働きを妨げる薬が劇的に効きます。その薬がトシリズマブです。

「免疫の暴走」抑える薬に有望なデータ

 新型コロナの場合もIL-6の”暴走”が起こっているケースがあることがわかり、トシリズマブを使用する試みが行われました。医学誌「Journal of Translational Medicine」に掲載された中国の研究によると、新型コロナの患者でIL-6の値が高かった21人にトシリズマブを使用すると、なんとその全員が劇的に改善したのです。論文の著者たちは、効果と副作用を確認する大規模な臨床試験を進めているそうです。

 ただ、サイトカインのメカニズムや相互作用はものすごく複雑です。おそらく日本の患者でもサイトカインを詳細に調べられたケースはそう多くはないと思います。新型コロナの患者ではどのようなサイトカインが異常を示すのか、そしてトシリズマブ以外で効果が期待できる薬があるのかについてはまだほとんど分かっていません。

境内には「コロナウイルス退散」と書かれた紙が張られていた=大阪市中央区で2020年3月20日、山田尚弘撮影
境内には「コロナウイルス退散」と書かれた紙が張られていた=大阪市中央区で2020年3月20日、山田尚弘撮影

 さて、話を現実に戻します。あなたに風邪症状が生じたとき実際にはどうすればいいのでしょうか。アビガンやレムデシビルは希望してもそう簡単には使用されませんし、重症化するまで待ちたくはありません。比較的初期でも使いやすい薬としては、以前も紹介したイベルメクチン(商品名ストロメクトール)、シクレソニド(オルベスコ)、ナファモスタットメシル酸塩(フサン)に加え、最近ではセファランチン(セファランチン)という、従来はマムシにかまれた傷や円形脱毛症、放射線治療後の白血球減少症に使う薬が注目されています(おそらく多くの人が感じられるように、私自身も「マムシと脱毛と白血球減少に効くって……」と昔から不思議に思っています)。

 ただし、私自身は太融寺町谷口医院の患者さんには新型コロナであろうがインフルエンザであろうがその他の病原体であろうが、風邪症状の初期には麻黄湯を推薦しています(参考:「医師が勧める風邪のセルフケア6カ条」)。

谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。