実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 快適な布マスク 効果を増す工夫は

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 前回は「サージカルマスクを着用すれば、マスクを通して吐いた息に含まれるコロナウイルスはゼロになる」という画期的な研究結果について紹介しました。私はこの論文を読んだときに、まずとても驚き、そして安堵(あんど)し、次に太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)のスタッフに安心してもらいました。

 この連載でも繰り返し述べているように、谷口医院は日ごろから風邪症状の患者さんがたくさん受診しますし、新型コロナウイルスが流行しだしてからは10軒以上のクリニックから受診拒否されたという人もしばしば来られます。残念ながら例外はありますが、自身で「コロナかも?」と疑って受診する人のほとんどはマスクを着けてくれています。

 街にはサージカルマスクでなく布マスクを着けている人もいますが、自分自身で感染を疑う人たちは「他人に感染させてはならない」という思いが強いからなのか、たいていはサージカルマスクを装着しています。ただ、残念ながら発熱と感冒症状で受診される人のなかに、布マスクどころかマスクなしでやってくる人もいまだにいます。そのような人たちが来ることを想定して谷口医院では受付にビニールシートを天井からつるし、マスクをしていない人には直ちにサージカルマスクを渡しています。

 今回のテーマは「布マスク」です。まずは、サージカルマスクよりも布マスクが必要とされる場面と理由について考えていきましょう。

暑い季節に着けやすいのは布マスク

 おそらくほとんどの人が気付いていると思いますが、サージカルマスクは快適なものではありません。診察室で何時間もマスクを着けたまま話をしていると呼気でマスクが湿り、同じマスクを着けていると呼吸が苦しくなってきます。医師の仕事でこのような感じですから、例えばコールセンターで勤務する人や、大きな声を出さねばならないような職業の人たちはもっと苦労されているに違いありません。

 (事務的な)仕事以上につらいのが運動時です。すでに海外ではマスクを装着して運動した生徒が亡くなるという痛ましい事故が起こっています。運動中のサージカルマスクは現実的ではありません。私は何度かサージカルマスクを装着してランニングを試みましたが、とても耐えられるものではありませんでした。そこで布マスクで代用してみたのですが、これではおそらく効果が不十分です(理由は後述します)。

 プロのアスリートやスポーツ選手は今後どうなるのでしょうか。サッカーを含めたコンタクトスポーツでは、選手の間で感染が生じる可能性があります。新型コロナの感染の半分近くは、発症前の無症状期に生じていることが分かっているからです(参照「新型コロナ 感染は『発症前から5日後まで』」)。

 それほど話す機会が多くなくても、スポーツをしなくても、この季節にサージカルマスクを着用して外出するのはかなり苦痛です。汗をかき、涼しい空気が吸えなくなると熱中症のリスクも出てきますし、汗で顔がかゆくなるとマスクを外したい欲求に駆られます。一方、布マスクであれば(材質にもよるでしょうが)それほど不快ではありません。

 つまり、肌へのフィット感や快適さを考えたときにサージカルマスクは不適格なのです。ちなみに、サージカルマスクよりも強力でエアロゾル感染を防ぐこともできるN95マスクの場合、着用したままの通勤や通常の会話はまずできません。私は新型コロナを疑う患者さんを診察するときはガイドラインに従ってN95を装着しますが、問診では「ペース配分」を考えます。つまり、話が長くなると息切れしますから、言葉を選んでできるだけ短い言葉で会話することを考えるのです。こんなマスクを常時着用して日常生活を過ごすのは不可能です。

布マスクの効果は情報不足

 新型コロナは発症前の無症状期に感染させることも多いわけですから、(数日後に風邪症状が出るかどうかは誰にも分からないのですから)当分の間は無症状でもすべての人がマスクを着用しなければなりません。ですが、N95は論外として、サージカルマスクを夏に常時装着しなければならないのはかなりの苦痛です。そこで、効果的な布マスクの登場が望まれます。

 前回の記事「新型コロナ 感染は『サージカルマスク』で防げる」でも紹介したように、オーストラリアの研究者らが発表した論文https://bmjopen.bmj.com/content/5/4/e006577は「布マスクは医療用マスクに比べて劣っている」と結論づけています。ですが、布マスクにもいろいろ種類があるのですから、その中に感染防止効果の高いものはないのでしょうか。

 私は過去2カ月間にわたり、いろんな論文を探し、またアパレル関係者にも問い合わせました。ですが、布マスクを装着することで、呼気からの新型コロナの排出がどれくらい抑制できるのかを示した情報はついに得られませんでした。それどころか、布マスクの穴のサイズについてすら分かりませんでした。サージカルマスクなら、マスクを通して吐いた息に含まれるコロナウイルスの量をゼロにすることができます。そして、サージカルマスクの穴のサイズは1000分の5mmです。ならば、布マスクでこのサイズのものが誕生すれば、新型コロナ対策に極めて有効なツールとして売り出すことができるでしょう(「アンダーファイブ」というラインアップ名でどこかのアパレルメーカーが製造・販売してくれないかと真剣に考えています)。

工夫は「布を重ねる」「ペーパータオルを挟む」

 マスクを通して出るコロナウイルスの量をゼロにできる布マスクは見つかりませんでしたが、ある程度有用な情報は拾うことができました。私が調べた限り、最も役に立つと思われるサイトは米疾病対策センター(CDC)のページです。英文ですが、このページでは、布マスクの作り方もイラスト付きで紹介されています。バンダナがあれば誰でも簡単に作れるようです(日本政府は布マスクを配布するよりもこういう情報を流すべきだったのではないかと個人的には思います)。

 CDCによると、布マスクを作る時の最大のポイントは材質よりもむしろ「布を重ねる」ことです。1枚の布よりもそれを複数回重ね合わせることで効果が高くなるからです。たとえばバンダナを折ってマスクを作る方法として、布を半分に折ってからさらに三つに折る、つまり六重にして使うやり方を説明しています。

 私がランニング時に使用しているマスクは1枚の布で製造されていますから「不合格」となります。CDCはソーシャルディスタンス(人と人の間の距離)を確保できない場合には、例えばスーパーや薬局に行くときには布を重ねて作ったマスクを着用するよう指示していますから、効果はそれなりにあるのでしょう。ただ、残念なことに、前回紹介した論文のような「呼気からのコロナウイルス排出量をどの程度減らせるのか」という情報には言及していません。

 文献を探すなかで興味深い情報が出てきました。それはコーヒーフィルターやペーパータオルを布マスクの間に装着するというものです。例えば米紙ニューヨーク・タイムズは、この方法を記事で紹介しています。記事によれば、CDCが推奨する方法だそうです(しかしCDCのサイトからはその情報が見つけられませんでした)。同様の方法は、英紙ガーディアンもイラスト入りの記事で紹介しています。

ランニング用の布マスクを着用した谷口恭医師。サージカルマスクに比べて呼吸はしやすいが、感染予防の効果には疑問が残る=筆者提供
ランニング用の布マスクを着用した谷口恭医師。サージカルマスクに比べて呼吸はしやすいが、感染予防の効果には疑問が残る=筆者提供

 おそらく、コーヒーフィルターを布マスクに挟み込めば、フィルターがないときに比べると呼吸がしにくくなるでしょう。ですが、この方法であれば皮膚に接触するのは布のままですから、サージカルマスク着用時のような不快感はないはずです。ならば、フィルターの取り外しが簡単にできるようにして、日ごろはフィルターなし、「密」の状態になるときだけその場でフィルターを装着するというタイプのマスクがあれば非常に有用ではないでしょうか。

 現時点では布マスクの有効性を高いエビデンス(医学的根拠)を持って示すことはできていません。しかしながら、サージカルマスクよりも着用時に快適であることと、CDCが推奨しており多少なりとも効果があることは確実でしょう。

もっとデータがほしい

 今後、布マスクに関する情報として求められるのは次のようなことです。

 ・どのような材質で、マスクを通してのウイルス排出をどの程度減らせるのか

 ・2枚重ね、3枚重ねでどの程度効果が変わるのか

 ・フィルターの装着でどの程度効果が変わるのか

 ・装着時の快適さがサージカルマスクに比べてどの程度向上するのか

 新型コロナウイルス感染の予防に有効性を示すデータが登場すれば、布マスクの需要が世界中で急増するのは間違いないでしょう。患者さんを集めて、前回紹介した論文と同じ方法で研究に取り組めば(その論文では「Gesundheit-II」という機械を使って吐いた息を集め、その中のウイルス量を測りました)できないことはありません。

 自分でやらずに意見だけを述べるのは厚かましい行為ではありますが、アパレル・ファッション業界の方に検討してもらえないでしょうか……。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。