新型コロナウイルス対策で政策決定をしてきたのは誰か。もちろん、政府であり、安倍晋三首相率いる新型コロナ感染症対策本部である。
にもかかわらず、あたかも政策決定の責任者であるかのように誤解され、時に批判にさらされてきたのが「専門家会議」だ。
確かに、「3密回避」や「人との接触8割削減」「クラスター対策」といった感染制御の主要な戦略は専門家会議の分析に基づいている。専門家自ら、リスク分析を国民に語りかけてもきた。
しかし、彼らは政府の一員ではない。政策決定の権限を握っているわけでもない。対策本部の助言組織として政府に呼び込まれた臨時の「ボランティアチーム」のようなものだ。
それなのに、なぜ、誤解されるのか。緊急事態宣言が解除され、流行が一定程度に落ち着いているこの時期に、振り返ってみる。
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東京大学の社会学者、武藤香織さんが厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」への参加を依頼されたのは2月3日のことだ。クルーズ船対応などへの助言を求められていたが、2月14日に対策本部の下に専門家会議が発足すると、ボードのメンバーはこちらに加わった。
この時、専門家会議設置の根拠となったのは、新型コロナ対策について「医学的な見地から助言等を行う」という一文だけだった。具体的な役割や政府との関係は示されなかったという。
構成メンバーは感染症やウイルス学、公衆衛生学の専門家を中心に12人。当初は役所が知りたいことに答えるだけだった。
そこに一石を投じたのが2月24日の最初の「見解」だ。
当時、政府は目の前の対応に追われ、その先の対策まで目配りしてもらえそうにないという危機感が専門家の間で高まっていた。そこで、助言組織として直接国民に状況分析を語るべきではないかとの思いで一致、「一つの賭け」として出したものだという。
結果的に、「この1~2週間が瀬戸際」というメッセージは広く受け入れられ、専門家会…
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医療プレミア編集部
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