医療プレミア特集

使った市販薬「製品名を医師に」

平憲二・総合内科専門医、プラメドプラス社代表取締役
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ドラッグストアの市販薬コーナー=福岡市博多区で2020年4月23日、久野洋撮影
ドラッグストアの市販薬コーナー=福岡市博多区で2020年4月23日、久野洋撮影

 新型コロナウイルス感染症の影響で、体調不良でも病院や診療所を受診することをためらう方が増えていそうです。その一方で、病院に行かずにつらい症状に対応する手段として、市販薬を使う方も増えているのではないかと思います。私は内科の診療をしている医師ですが、12年ほど前から市販薬に関心を持ち、調査や研究を続けてきました。今回は、今の医療状況での市販薬活用の意義や、使う時に注意する点などについて考えます。

 最近は、病院受診の前に予約が重要になってきました。慢性の病気はもちろん、これまでは予約なしで受診できた急な発熱などでも、今は予約をしてから自宅で順番待ちをすることが多くなっていそうです。病院の事情でいえば、待ち合い場所に大勢の患者さんや付き添いの方が密集することを避ける必要があります。中でも発熱やせきなどがある患者さんについては、他の方と接触しないよう、限定されたエリアで1人ずつ診療するようになりました。その分、診療にはこれまでよりも時間がかかり、順番待ちの時間も長くなりがちです。

 こうした中で、つらい症状に対応するために、市販薬を使うことが考えられます。

脱水症の予防は大切

 例えば、高熱や倦怠(けんたい)感、筋肉痛、関節の痛みなど、不快でつらい症状があり、食欲も落ち、水分や食事をあまりとれなくなったとします。この状況が続くと、体内の水分や栄養が不足して脱水症になり、のどの渇きや強い倦怠感、ふらつき、立ちくらみなどが生じて、病状が悪化する場合があります。今は夏で、熱中症の心配がある時期ですからなおさらです。

 脱水症が進行すると、汗が出なくなり、さらに体温が上昇したり、頭痛や吐き気、嘔吐(おうと)などがみられたりします。さらに重度になると、筋肉のけいれんや意識障害、腎機能障害、血圧低下などが起き、最悪の場合、死に至る場合もあります。

 こうした症状以外にも、脱水症になると血液中の水分が減り、血管が詰まりやすくなるという問題があります。こうなると、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞など、命に関わる病気の原因にもなりかねません。

 従って、脱水症を防ぐのはとても重要です。「脱水症をできるだけ防ぐ必要がある」と意識し、早い段階から対応するだけで、ずいぶん経過が変わる場合もありそうです。

症状を軽くして食事や水分を摂取

 そのための対策の一つとして、市販薬や経口補水液(脱水になったときのための飲み物)の買い置きが考えられます。たとえば市販薬を使って、つらい症状を一時的にでも和らげられれば、その間にしっかり水分や食事をとれて、脱水症の予防につながります。

 なお、心臓や肝臓、腎臓の病気のある方は、水分や栄養の補給の仕方を、個々の状況によって慎重に加減する必要もあります。それらの病気がある場合は、早めにかかりつけの医療機関に相談することが必要です。

あえて使わない選択肢も

 一方、高熱や倦怠感、筋肉痛、関節痛などの症状があっても、それほどつらくなく、水分も食事も普段通りとれている場合は、あえて市販薬を使わないという選択肢もあります。市販薬は、症状を和らげることを目的に作られている製品がほとんどで、症状の原因を取り除く薬ではありません。

 例えば「かぜ薬」は、字面からは、かぜそのものを治す薬と勘違いしやすいのですが、実際はかぜの時によくみられる、発熱やのどの痛み、鼻の症状、せきやたんなど諸症状の、程度を和らげる薬です。成分としては、さまざまな化学物質や生薬が混ざっています。

 従って、かぜをひいた時に、必ずかぜ薬を飲まないといけないというわけではありません。市販薬を使わずに、休養と水分・栄養をしっかりとり続け、自然に症状が良くなるのを待つ、という選択肢もあります。

 なお、市販薬を使う際は、注意しないといけないことがいろいろあります。服用前には、必ず説明文書をよく読み、用法・用量を守って、適切に使うよう心がけましょう。※注

 さて、新型コロナウイルス感染症の影響の中、市販薬を服用したけれど治り切らず、あらためて病院を受診する方も多いでしょう。そんな中、そうした患者さんに対応する医師として、気がかりなことがあります。

どの薬を飲んだか「分かりません」

 実は診察の際、服用した市販薬のことを尋ねても「何を使ったか分からない」という患者さんが多いのです。市販薬の説明文書や外箱を持参されていなかったり、製品名を覚えていなかったりして、診療上の判断に必要となる情報が不足したまま、診療を進めざるを得ない場合が時々あります。

 実際のケースを使って説明しましょう。

 【20代の女性】3日前から発熱とのどの痛みがあり、今朝から皮疹が出て来院した。

 医師「市販薬は飲みましたか?」

 患者「はい。のどの痛みと発熱があり、解熱鎮痛薬を飲みました」

 医師「飲んだのは、皮疹が出る前ですか?」

 患者「はい。おとといから市販薬を飲んでいました。今朝起きて洗面所の鏡を見ると、胸元や手足に赤いぶつぶつが出ていました」

 医師「市販薬の成分を知りたいのですが、薬の外箱などはお持ちですか」

 患者「ありません。市販…

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平憲二

総合内科専門医、プラメドプラス社代表取締役

ひら・けんじ 1966年、宮崎県生まれ。総合内科専門医。株式会社プラメドプラス代表取締役。91年、宮崎医科大学(現・宮崎大学医学部)卒。2001年、京都大学大学院医学研究科博士課程内科系専攻修了(臨床疫学)。03年、京都大学病院総合診療科助手。05年に株式会社プラメド、13年に同プラメドプラス設立。著書に「クスリ早見帖ブック 市販薬354」(南山堂)、「クスリ早見帖副読本 医師が教える市販薬の選び方」(PHP研究所)、「クスリ早見帖ポッケ かぜ・解熱鎮痛・咳止め・鼻炎の市販薬」(大垣書店)。