実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 「感染しない方法は」谷口恭医師講演

高木昭午・毎日新聞医療プレミア編集部
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講演会の冒頭であいさつする谷口恭医師。新型コロナウイルスの感染防止対策のため、フェースシールドをつけて臨んだ=大阪市北区の毎日新聞大阪本社で2020年7月2日
講演会の冒頭であいさつする谷口恭医師。新型コロナウイルスの感染防止対策のため、フェースシールドをつけて臨んだ=大阪市北区の毎日新聞大阪本社で2020年7月2日

 医療プレミアで「実践! 感染症講義-命を救う5分の知識-」を約5年にわたって連載している谷口恭医師(太融寺町谷口医院院長)が2日、大阪市北区の毎日新聞大阪本社で、新型コロナウイルス感染症をテーマに講演しました。タイトルは「マスクなしであいさつできる日はいつになるのか?」。内容には「新型コロナに感染しない二つの方法」もありました。ポイントを紹介します。

 谷口医師は総合診療医で、大阪市の中心部で開業しています。感染症に詳しく「どのような疾患にも」「どのような患者さんにも」対応することを方針として掲げています。新型コロナの流行で「発熱患者は診療できません」という医療機関が増えましたが、谷口医師は患者を断ることなく診療を続けてきました。

 講演によると今年2月以降、新型コロナと確定した患者を1人、「おそらく間違いない」患者を5~6人、「可能性は十分にある」患者を約30人診療したそうです。

 表現があいまいなのは、谷口医師が要請しても、新型コロナだと確認するPCR検査を受けられなかった患者が大半だからです。高熱が10日続き、医療機関10軒以上に診療を断られて谷口医師のところに駆け込み、それでも検査を受けられずに結局、「原因不明の発熱」として他の大きな病院に入院して新型コロナだと確認された患者もいたそうです。(新型コロナ 過剰な検査制限「高熱10日でもダメ」

侮れない病気

 さて谷口医師は「新型コロナは決して侮れない」と話しました。一方で「不安をあおりたくはない」と言い、まず新型コロナの比較的「怖くない」特徴として、次の3点を挙げました。

 ・致死率は相対的には(他のもっと重い感染症と比べれば)高くない

 ・空気感染するわけではない

 ・ウイルスは慢性化しない(発症して1週間程度でウイルスは体からいなくなる)

谷口恭医師の講演会では、新型コロナウイルスの感染防止対策のため、受講者もソーシャルディスタンスを確保して着席した=大阪市北区の毎日新聞大阪本社で2020年7月2日
谷口恭医師の講演会では、新型コロナウイルスの感染防止対策のため、受講者もソーシャルディスタンスを確保して着席した=大阪市北区の毎日新聞大阪本社で2020年7月2日

 その上で、コロナが「怖い」理由を4点挙げました。

 ・高齢者や持病のある人だけでなく(率は低いながら)若者も重症化する

 ・空気感染はしないが、1人の感染者が多人数に感染を広げることがある

 ・慢性化はしないが、後遺症が残ることがある

 ・無症状の人からも感染する

若くても要注意

 谷口医師は、米国で30~50歳代の、日ごろはマラソン大会に出場するほど健康な医師3人が、それぞれ感染した事例を紹介。うち1人の日本人医師が「治療中にくも膜下出血を起こして歩行困難になり、リハビリを続けている」と話しました。

 また、ウルグアイで結婚パーティーに出席した1人の女性から44人に感染が広がった事例や、飛行機に同乗していたカナダのフライトアテンダントやパイロット、計8人が同時に感染した事例を示し「空気感染しなくても(多人数に)感染する時はする、と思わざるを得ない」と訴えました。

後遺症が起きる仕組み

 谷口医師は現在、「おそらく確実に新型コロナの後遺症が出ている」患者を3~4人診療しているそうです。一方で「本人は後遺症を心配しているが、実際は違う」患者も10人ほど診ていると説明しました。そして厳しい後遺症として、米国の舞台俳優ニック・コルデロ氏の事例を挙げました。コルデロ氏は新型コロナ感染の影響で、右足の血管に血栓ができ、足の先に血が通わなくなり、足を切断しなければならなかったのです。

 さらに「足以外にも全身にさまざまな後遺症が出る可能性がある」と指摘。その仕組みを理解するために、以下の四つのキーワードが重要だと説明しました。(新型コロナ 肺以外でも病気が起きる仕組み

 ・ACE2受容体

 ・血栓

 ・サイトカインストーム

 ・血管内皮細胞炎

毎日文化センター大阪と医療プレミア共催の講演会で話す谷口恭医師=大阪市北区の毎日新聞大阪本社で2020年7月2日
毎日文化センター大阪と医療プレミア共催の講演会で話す谷口恭医師=大阪市北区の毎日新聞大阪本社で2020年7月2日

 最初のキーワード「ACE2受容体」は、肺の細胞の表面にあるたんぱく質の一種です。新型コロナウイルスは、この受容体から人体の細胞に侵入します。

 この入り口は肺だけでなく、心臓、腎臓、肝臓、血管の内側にある「内皮細胞」など、人体の各部分にあります。谷口医師は「血管は全身どこにでもあり、つまりコロナウイルスはどこででも悪さをするのです」と説明しました。さらに、この受容体は脳にもあり、新型コロナ感染の最初の症状として、頭痛やめまい、集中力低下などもあり得ます。「集中力低下を訴えて来る患者さんはけっこう多く、大半は感染症と関係ありません。でもこれからは、そういう場合に新型コロナを疑わないといけないかもしれません」

 二つ目のキーワード「血栓」は、血管内の血の塊で、新型コロナの影響でできやすくなります。血栓ができると、その血管の血流が止まることがあります。コルデロ氏が足の切断に至ったのも、血栓で足に血が通わなくなったせいでした。

 三つ目の「サイトカインストーム」は、いわば「免疫の暴走」です。「サイトカイン」は、人体が分泌する、免疫に関するさまざまな微量物質の総称です。中には免疫の働きを強める物質も抑える物質もあり、通常はバランスが取れています。ところが新型コロナで重症化する場合、サイトカインがいろんな臓器で無秩序に作られて嵐(ストーム)のように体内を吹き荒れ、免疫が暴走して自分の臓器を傷つけ「心臓も腎臓も肝臓も全部やられちゃう」状態になるというのです。

 最後の「血管内皮細胞炎」は、血管の内側の細胞が起こす炎症です。起きると血管の内側が腫れ、行き先の臓器に血流が行き渡らず、臓器は酸素不足や栄養不足に陥って傷つきます。

 谷口医師は「ウイルスは『ACE2受容体』から入り『血栓』や『サイトカインストーム』『血管内皮細胞炎』が起きて重症化する」とまとめました。

無症状の人からの感染

 無症状者からの感染について、谷口医師は「非常に難儀」な問題だと話しました。

 無症状者の中には「そのままずっと症状が出ない人」と「後で発症する人」がいます。このうち「症状が出ない人」が他人に感染させるのかどうかは、はっきり分かっていないそうです。

 一方で谷口医師は「発症数日前の人が感染させるのは確実」だと話し、感染の44%は発症前の患者が原因だったとする論文を紹介しました。

感染防止には「マスクをしてもらう」「顔を触らない」

 谷口医師は、現状で感染を避ける方法を二つ挙げました。「マスクをしてもらう」と「顔を触らない」です。

 マスクについては「サージカルマスク(不織布製のマスク)をしている人から感染させられることはほぼない」と指摘しました。その根拠は「マスクを通して出た息からは、コロナウイルスが検出されなかった」という研究結果です。(新型コロナ 感染は「サージカルマスク」で防げる

 一方で、自分がマスクをしていても、感染は完全には防げないと説明しました。これは顔とマスクの隙間(すきま)からウイルスが侵入したり、マスクの表面についたウイルスを、自分の手で触って体内に運んでしまったりするためです。

 また、布マスクについては「感染防止には不十分だが、サージカルマスクよりずっと快適」と話し「外に出る時なら十分」と位置付けました。

 一方で「マスク警察」や「自粛警察」は「よくない」と戒めました。

講演会で高性能マスクの装着を実演する谷口恭医師=大阪市北区の毎日新聞大阪本社で2020年7月2日
講演会で高性能マスクの装着を実演する谷口恭医師=大阪市北区の毎日新聞大阪本社で2020年7月2日

 もう一つの重要なポイントが「顔を触らない」です。谷口医師は特に「鼻の粘膜に触らないのが大切」と訴えました。コロナウイルスは、鼻にいる量の方が喉にいる量より1万倍も多い、という研究結果があるためです。(鼻にいるコロナは喉の1万倍 対策は「うがい」

 一方で、「人間は1時間に23回も無意識に鼻に触る」という観察結果があり、どうしても触りがちです。谷口医師は「マスクをしていると、顔がかゆくなって触りたくなります。私はその時に、消毒用のアルコールを手につけてから触るのを習慣にました」と話しました。

世界が変わった

 谷口医師は「新型コロナウイルスで世界が変わった」と訴えました。そして、すでに解除された緊急事態宣言について「感染者数を一気には増やさず、病院をパンクさせないためのもの」と説明し「長い目でみれば、合計の感染者数は宣言があってもそう変わらない。皆さん、順番に感染していく」と指摘。「マスクを外してはいけない理由は、治療法がないから。社会・経済活動は少しずつ取り戻していくしかないが、そうすると『第2波』(次回の感染拡大)は必ず来る」と訴えました。無症状でもマスクを着ける日は当分続くようです。

恋愛は?

 最後に「閉塞(へいそく)した中で社会を回復するには若い人に恋愛をしてほしい」と呼びかけ「出会いはオンラインが主流になるかもしれない。マスクはいつ外すか。日ごろコロナの話をして、デートはドライブスルーでPCRの検査を受けに行くとか。しっかりと正しい知識、正しい方法を身に付けて」と冗談を交えて語りました。谷口医師は以前に「愛は情熱の深さが感染症のリスクを上回るときに成立するもの」と書いています。(新型コロナウイルス 「単純な」情報にご用心

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高木昭午

毎日新聞医療プレミア編集部

たかぎ・しょうご 1966年生まれ。88年毎日新聞社入社。94年から東京、大阪両本社科学環境部、東京本社社会部などで医療や原発などを取材。つくば支局長、柏崎通信部などを経て、17年に東京本社特別報道グループ、18年4月から医療プレミア編集部記者。