令和の幸福論

分断される社会~少年法改正と発達障害

野澤和弘・植草学園大学教授/毎日新聞客員編集委員
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川崎市の中1殺害事件で被害者が見つかった現場付近には、途切れることなく大勢の人たちが訪れ、花束が山のようになっていた=川崎市川崎区で2015年3月3日、小川昌宏撮影
川崎市の中1殺害事件で被害者が見つかった現場付近には、途切れることなく大勢の人たちが訪れ、花束が山のようになっていた=川崎市川崎区で2015年3月3日、小川昌宏撮影

 「若者が街に出るからまた感染者が増えるとテレビで言っていた。それってどうなの?」。大学生たちがふに落ちないという様子で話していた。たわいもない会話ではあるが、そんなに若者たちは社会やメディアから批判的に見られていると感じているのか、と引っかかった。

 緊急事態宣言中、閑散としたファミリーレストランで高齢の夫婦やグループが昼間にビールを飲んでいるのを何度か目にしたことがある。自粛生活のストレスを発散しているのだと、会話の端々から聞こえてきた。少し胸がざわついた。給仕をする若いウエーターの視線が気になったからである。

 感染の恐れがあっても仕事をしなければ生活できない。店が閉まれば仕事を失う。そんな若者たちにとって、働かなくても自宅で過ごす余裕があるのに、レストランでビールを飲んでいる高齢者はどう映るのだろうか。

 グローバル化や少子高齢化が進展していくなかで、社会の分断はずいぶん前から始まっている。新型コロナウイルスの感染拡大によってそれが顕在化しやすくなったのだと思う。経済格差だけでなく家族や地域のつながりがなくなり、政府や権威への不信感は募る。そして世代間の断裂――。この国の地盤には複雑に入り組んだ断層が広がっている。

 「18、19歳の犯罪厳罰化 自公一致」

 コロナ対策の司令塔の役割を果たしてきた政府の専門家会議の存廃について伝える新聞の下の方の目立たないところに、こんな見出しの記事が載っていた。

 自民、公明の両党が少年法改正に関する実務者協議で、18~19歳が引き起こす事件のうち殺人以外にも強制性交等罪や強盗を大人と同様に扱って厳罰化することを検討しているという内容の記事だ。

 コロナ騒動にかき消されてあまり注目されることはなかったが、今年の通常国会に少年法の適用年齢を引き下げる改正案の提出が検討されていた。与党内の意見が一致せず今国会では法案の提出は見送りになったが、その後も少年法改正に向けた議論は続いている。子どもの反社会的な行為に対して厳罰化に向かう流れは依然として強い。

 非行や事件を起こした未成年者に対し、原則として家庭裁判所(家裁)が保護更生のための処置を下すことを定めたのが少年法だ。家裁の判断で検察に「逆送」し、刑事裁判を受けさせることもできるが、その場合でも不定期刑や量刑の緩和を認めるなど、大人とは異なる配慮をすることが求められている。刑罰を科すのではなく、立ち直り(教育)を重く見ていることが法の根底にある。

 そのため、未成年者の起こした事件はまず家裁で審理される。家裁の調査官らが家庭環境や成育歴を調べ、犯罪の背景にあるものを探る。その上で、少年院での更生に向けた教育や職業訓練、社会生活をさせながらの指導をすることになっている。

 触法少年への教育システムはさまざまな課題が指摘されてはいるものの、再犯防止に一定の役割を果たしてきたといえる。刑罰を与えることを目的とする刑務所に比べ、少年院を出た人の再犯率が低いというデータもある。

 なぜ少年法の適用年齢を20歳から18歳未満へと引き下げることが浮上したのかといえば、民法の改正で成人年齢が2022年4月から18歳になることや、すでに選挙権が18歳以上に与えられているためだ。これらの法改正に少年法も合わせてはどうかというのである。

 法の整合性を求めてのことだけではない。15年に川崎市で中学1年の男子生徒が複数の遊び仲間に殺害された事件があった。深夜に川を泳がせたうえ、カッターで全身を切りつけて殺害するという悲惨な事件だった。被害者の中学生には同情が集まり、現場には全国から訪れた人の供した花が積み上げられ、その…

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野澤和弘

植草学園大学教授/毎日新聞客員編集委員

のざわ・かずひろ 1983年早稲田大学法学部卒業、毎日新聞社入社。東京本社社 会部で、いじめ、ひきこもり、児童虐待、障害者虐待などに取り組む。夕刊編集 部長、論説委員などを歴任。現在は一般社団法人スローコミュニケーション代表 として「わかりやすい文章 分かち合う文化」をめざし、障害者や外国人にやさ しい日本語の研究と普及に努める。東京大学「障害者のリアルに迫るゼミ」顧問 (非常勤講師)、上智大学非常勤講師、社会保障審議会障害者部会委員、内閣府 障害者政策委員会委員なども。著書に「スローコミュニケーション」(スローコ ミュニケーション出版)、「障害者のリアル×東大生のリアル」「なんとなくは、 生きられない。」「条例のある街」(ぶどう社)、「あの夜、君が泣いたわけ」 (中央法規)、「わかりやすさの本質」(NHK出版)など。