環境と健康の深い関係

世代を超えて伝わる「化学物質による体質変化」

遠山千春・東京大学名誉教授(環境保健医学)
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 「生まれながらの体質」は、環境からのさまざまな刺激をうけて変容することが分かっています。体質はもともと、両親いずれかの遺伝子に刻み込まれた情報を子が受け継いだものですが、身近な例でいえば、遺伝子が全く同一の一卵性双生児でも、身体的な特徴や性格は成長とともに異なってきます。成育環境からの刺激は同一ではないからです。前回の記事で、胎児期の環境が胎児自身の遺伝子の周辺、つまり遺伝子を刀にたとえると「さや」の部分に作用し「エピジェネティック修飾」と呼ばれる変化が生じることがある▽その結果、出生後の遺伝子の働き方が変わり、生活習慣病の罹患(りかん)率が高まる場合がある▽この現象は、「健康と病気の発達期における起源」(ドーハッド:Developmental Origins of Health and Disease)学説として、広く受け入れられている――ことなどを述べました。今回は、「環境ホルモン」(内分泌かく乱作用を有する化学物質)が、遺伝子にエピジェネティック修飾を起こし、生じた異常が孫やひ孫の世代まで継承される様子を調べる「経世代毒性学」と呼ばれる新たな学問領域のことを紹介します。

 ただ、エピジェネティック修飾による体質の変化が、世代を超えて遺伝することは、人間を対象とした研究では確認されていません。最初に体質が変化した人たちから、孫やひ孫の世代の多くの人々までを対象とした疫学研究を行うことは、現実的ではないからです。体質変化が世代を超えて伝わることを調べるには、実験動物を利用した研究が必要です。

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遠山千春

東京大学名誉教授(環境保健医学)

とおやま・ちはる 1950年、東京都出身。東京大学医学部保健学科卒、ロチェスター大学大学院修了。筑波大学、北京大学、中国医科大学の客員教授。医学博士、Ph.D。国立公害研究所(現・国立環境研究所)領域長、東京大学医学系研究科疾患生命工学センター教授を経て、2015年4月より「健康環境科学技術 国際コンサルティング(HESTIC)」主幹。世界保健機関、内閣府食品安全委員会、環境省などの専門委員、日本衛生学会理事長、日本毒性学会理事、日本医学会連合理事などを歴任。