実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 発熱を診てもらえない時代の生き方

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 少し古い話になりますが、愛知県の大村秀章知事は5月に何度か「医療崩壊が東京と大阪で起きた」と発言しました。これに対し、大阪府の吉村洋文知事はツイッターに「大阪で医療崩壊は起きていません。何を根拠に言っているのか全く不明です。受け入れてくれた大阪の医療関係者に対しても失礼な話です」と投稿し、大阪市の松井一郎市長は「大村さん、大阪が医療崩壊している事実ってなんでしょうか? 貴方(あなた)も公人なんだからエビデンスを示してください」と反論したことが報じられました。「医療崩壊」の言葉の定義にもよりますが、大阪市で医師をしている私の立場から言えば、4月の時点で医療崩壊はすでに起こっていました。今回は、その医療崩壊が加速する、という話をしますが、その前に4月に私が経験した一例を紹介しましょう。

 30代後半の男性が、深夜に突然、呼吸困難になり自分で救急車を要請しました。幸い救急車はすぐに来てくれて、男性はストレッチャーで車内に運び込まれました。ところが、救急隊員が3時間以上にわたって次々と病院に電話しても、受け入れてくれる病院が見つかりません。そうこうしているうちに、症状が落ち着いてきました。男性は救急隊から謝罪されて結局、自宅に戻りました。生まれて初めての救急車要請がこのようなことになり驚きましたが、それ以上に驚いたのが、救急隊員から言われた次の言葉でした。

 「受け入れ先がなかなか見つからないことはよくあるんですが、すべての病院から断られたのは初めてです。新型コロナがはやりだしてから、呼吸器症状がある人はことごとく断られるんです。医療崩壊がもうすぐ始まるとか世間では言っていますが、もう既に進行しているんです」

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト