実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ検査 PCRと抗原、抗体の違いは

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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PCR検査を実施するため、検体の処理を行う東京慈恵会医科大PCRセンターの職員=東京都港区で2020年7月14日午後3時42分、島田信幸撮影
PCR検査を実施するため、検体の処理を行う東京慈恵会医科大PCRセンターの職員=東京都港区で2020年7月14日午後3時42分、島田信幸撮影

 新型コロナウイルスは我々医師にとってもまだまだ未知の感染症です。とはいえ、少しずついろんなことがわかってきています。この半年間、私自身は「我々も毎日新しいことを学んでいて分からないことが多いんです」という注釈を付けながら患者さんにその時点で明らかとなった新型コロナの特徴を伝えてきました。我々医師の理解と患者さんが考えていることのギャップの大きさに驚くことは珍しくなく、その都度分かりやすく説明するように努めています。そんな私が「正確な情報を伝えなければ」と現在最も強く感じているのが「検査方法の違い」、具体的には「抗原検査」と「PCR検査」そして「抗体検査」の違いです。

 まずは実際に私が経験した事例を紹介します(ただしいずれもプライバシー保護の観点から詳細はアレンジしています)

出張前に2度の検査

 【事例1】取引先から「抗体検査」を求められた40代女性Aさん

 Aさんは仕事で、東北地方のある県の取引先を訪問することになりました。その取引先から「新型コロナの抗体検査をしてほしい」と言われ、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)を受診しました。

 過去にも何度か述べたように、抗体検査は「今、感染しているかどうか」を調べるものではありません(参照:「新型コロナ 有料の抗体検査は『無駄』」)。ですから谷口医院では、これまでずっとこのような依頼は断っていました。けれども「検査を受けないと仕事ができないんです!」という声があまりにも多く、結局6月上旬から検査を実施しています。

 Aさんにも「抗体検査で今感染しているかどうかがわかるわけではない」ということを理解してもらった上で検査をしました。結果は「IgG抗体陽性」でした。Aさんが過去に感染していた可能性はありますが、感染していたとしてもこの時点ではウイルスが体内にいるわけではなく、よって他人に感染させることもありません。私はそれを繰り返し説明し、取引先に伝えるように言いました。

 翌日、再びAさんはやってきました。取引先に説明したところ「PCR検査を受けてほしい」と言われたとのこと。しかし、発症や、感染者との濃厚接触などがない場合に受けるPCR検査は、人数制限がありすぐに受けることはできませんし、自費診療となり、費用がすごく高くなります。現在、谷口医院ではPCR検査は、もともと谷口医院をかかりつけ医にしている人か、海外渡航で渡航国から求められている人に限って行っています。本当は、海外渡航時のPCR検査にどれだけの意味があるのか疑問なのですが、ここは理屈を言っても始まりません。PCRをしなければ入国できないのがルールならするしかないからです。

 結局、Aさんは再度取引先と相談して抗原検査を実施することになりました。結果は陰性。精度はどれほどか、という問題はありますが「現在ウイルスはいない」という意味です。晴れてAさんは出張に行くことができました。

 
 

「陰性証明」できず不本意な休暇

 【事例2】退院後にPCRを希望した30代男性Bさん

 Bさんは大阪府在住で、新型コロナ陽性だと分かって入院し、10日後に退院しました。退院時には症状がなく、担当医からは「PCR検査は不要」と説明を受けて、そのまま職場復帰してよいと言われました。

 ところがフリーランスで仕事をしているBさんは「PCRで陰性になったことを証明しなければ仕事がもらえない」と主張します。通常こういうケースでは検査は行いません。(後述するように)PCRは治癒後も陽性になることが多く、その結果はかえって事態を混乱させるからです。しかし「陰性を証明しなければ仕事がもらえないんです」と繰り返し言われると引き受けないわけにもいきません。検査をしなければ海外渡航できないことと本質的な差はないからです。

 結果は陽性。退院時に主治医から仕事復帰の許可が出ているにもかかわらず、BさんはPCRが陰性になるまで、医学的には不必要な休暇を取らなければならなくなりました。

それぞれの検査が調べる対象は

 抗原検査、PCR検査、抗体検査を理解するために下のグラフを使って説明していきましょう。

各種の検査で、新型コロナウイルスが検出されやすい時期を示すグラフ。論文(Sethuraman et al. JAMA. 2020;323(22):2249-2251)から、説明を日本語に変えるなどして、谷口恭医師が作成。
各種の検査で、新型コロナウイルスが検出されやすい時期を示すグラフ。論文(Sethuraman et al. JAMA. 2020;323(22):2249-2251)から、説明を日本語に変えるなどして、谷口恭医師が作成。

 ある人がウイルスにさらされて感染すると、その人の体内では、ウイルス量が急速に増えます。新型コロナの場合、ウイルス量がピークになったあたりで発症するといわれています。そして発症後は、無治療でもどんどんウイルス量は減少し発症後1週間ほどでほぼゼロになります。重症化するのはこの後、すなわちウイルスが消えてからであることは、過去に述べた通りです(参照:「新型コロナ 肺以外でも病気が起きる仕組み」)。

 抗原というのは、ウイルスの表面に存在するたんぱく質の一部です。抗原検査はこのたんぱく質を検出する検査であり、要するにウイルスそのものを調べていると考えればいいと思います。イメージとしてはインフルエンザの簡易検査を想像すればいいでしょう。ウイルスそのものを調べるわけですから感染の有無を調べるには適した検査といえます。しかし、現在使われている抗原検査は、イムノクロマト法と呼ばれる方法で行われ、結果が早く出て、(比較的)安いのはいいのですが、体内にウイルスがいても、ある程度ウイルス量が多くないと検出できない可能性があります。

 一方、PCRは、ウイルスが持っている遺伝子を調べます。ほんのわずかな遺伝子も拾うことができますから、精度は抗原検査よりも高いといえます。しかし、精度が高いがゆえの欠点もあります。事例2のBさんのように、治癒してからも遺伝子の破片が体内に残ることがあるのです。新型コロナについて、まだよく分かっていなかった今年3月、4月の時点では「PCRが陰性にならなければ退院できない」というルールがありました。そのため、とっくに治っているのに退院できなかった患者さんもいたのです。

 ここで「新型コロナのPCRが複雑な理由」を解説しておきましょう。「PCR検査を、あまり幅広く行うべきではない」という考えが医師の間にも依然、根強くあります。その最大の理由は「精度(感度)が高くなく、偽陰性(感染しているのに感染していないと出る)が多い」というものです。これは、私が先に述べた「わずかな遺伝子も拾えて、精度(感度)が高い」というのとは正反対のように聞こえます。しかし、こちらの主張も誤りではなく双方とも正しいのです。

 矛盾するように思える二つの主張が両立する理由は「症状出現前に検査をすると、感度はそれほど高くない」ことです。感染者と接したというだけで無症状の人にPCR検査を実施すると、実際には感染しているのに陰性と出ることが多いと考えられているのです。ですから「PCRを過信してはいけない。やみくもに検査の対象を広げるべきではない」という意見が出てくるわけです。ところが一方で、治癒後もなかなかPCRが陰性にならないこともまた事実なのです。

増やしたい「クリニックの依頼でのPCR」

 ここで私自身の考えを述べておくと、4月までの状況よりはるかに改善したとはいえ、現在でも「陽性者と接した」などで検査すべきだと思われても、保健所からPCRを断られる事例が数多くあります。民間の検査会社でのキャパシティーはまだ余裕があると聞きますから、一般のクリニックからの依頼で行うPCRを増やすべきだと思うのですが、新型コロナは法律で「指定感染症」に指定されていてさまざまな規則があるからなのか、現時点では広がっていません。一方、抗原検査はPCRよりも簡単にできることから今後はPCRよりも普及するのではないかと思われます。ただ、やはり「指定感染症」の位置づけから一般の医療機関では、抗原検査を保険診療ではできず、この点が問題となっています。

 抗体検査については以前から述べているように、疫学調査には、つまり集団としての感染状況を調べるには有効であっても、個人の利益にはほとんどなりません。今後このことが周知され、抗体検査を希望する人は激減していくでしょう。

 最後に各検査の比較をまとめて表にします。

 
 

 検査を受ける前に各検査の特徴を理解しましょう。これらを「5分の知識」にしてしまえば不安を感じることなく「検査を希望します」と言えるはずです。

 特記のない写真はゲッティ<医療プレミア・トップページはこちら

谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。